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「文科省の二枚舌」元次官も憤慨、奈良県の教員“総取り替え”騒動で注目「学習指導要領は憲法違反?」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.04.04 06:00 最終更新日:2024.04.04 10:40
3月31日、奈良市の奈良教育大学附属小学校で「教育を守る市民集会」と名づけられた集会が開かれ、保護者や教員ら約300人が参加。「大切な教育の場を奪わないで」などと訴えた。
奈良教育大が、附属小での授業が学習指導要領に沿っておこなわれず、授業時間の不足や履修遅れが生じている、と発表したのは2024年1月。それを理由に、今後3年間で19名すべての正規教員に出向を命じ、異動させる方針だという。先立って、校長ら8人が3月28日付で他校へ出向される処分を受けた。
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最終的に、すべての教員を“総取り替え”するという、前代未聞の事態。元文部科学次官の前川喜平氏があきれ顔で言う。
「国立大の附属小学校で、教員全員を外に出すなんて聞いたことがありません。明らかな人事権の濫用です。文科省が『全員替えろ』と言ったらしいですが、そうであれば文科省の越権行為。教育基本法で禁じている『不当な支配』に当たります」(前川氏・以下同)
同校では、学習指導要領に違反するどんな教育がおこなわれていたのか。
「報道で知った範囲ですが、音楽の授業で、どの学年にも『君が代』を教えることになっているのに、6年生だけにしか教えていなかったとか、道徳の授業で教科書を使っていなかったとか。また、道徳は各学級ごとにやらなければならないものを、全校集会でやったとか。ほかにも、書道で筆を使わず筆ペンを使っていたなど、難癖をつけているようにしか思えません」
そもそも、学習指導要領自体が憲法違反だという議論は以前からあった。
「国家に学習指導要領を作る権限はない、という主張です。1976年の『旭川学力テスト事件』で、最高裁は『大綱的基準としてなら、国は学習指導要領を策定できる』という判決を出していますが、これは、学習指導要領の一言一句に拘束力があるとはいえない、という解釈がなされています。
『君が代』をすべての学年で指導するよう書いてあったとしても、6年生で、まとめてやるのがどうしてダメなのか。これには文科省の説明が必要だと思いますね」
学習指導要領に沿わない教育をしている学校は、奈良教育大附属小だけではないという。
「とくに、私学にはいくらでもあります。もちろん、私立でも学習指導要領は適用されますが、現文科相である盛山正仁氏の母校・灘中学校には、かつて橋本武という国語の先生がいました。この人はまったく国語の教科書を使わずに、中勘助の小説『銀の匙』を3年間かけて読む、という授業をやっていました。
同じ私立の和光学園なんか『君が代』をいっさい教えません。公立校でも、長野県の伊那市立伊那小学校は、教科書を使わない授業をやっています。ヤギの飼育をしながら、そこから学ぶという授業です。奈良教育大附属小の教員が処分されるなら、ほかの学校はどうなのか。一貫性が欠如しています。二枚舌と言ってもいい」
むしろ、文科省はこの機会に学習指導要領そのものを見直すべきだと、前川氏は主張する。
「なんで、習字は筆ペンじゃいけないのか? そもそも、習字を必修にしておく必要があるのか? それより、パソコンのキーの打ち方を教えるほうが大事じゃないか、とかね。算数は、いまでも珠算が必修ですが、そろばんを必修にしておく必要があるのか、という議論だってあっていいはずです」
奈良教育大付属小の教育は、教育関係者の間では高く評価されていた。
「その教育を進めて来た先生たちが、いきなりいなくなってしまったら、教育の継続性や安定性が、明らかに損なわれるだけです」
なにより、子どもたちへの影響が心配される。
( SmartFLASH )