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「わずかな人にわずかな効果だけ」紅麴事件でわかったサプリのワナ…「機能性表示食品」はただ申請するだけの “ザル” 表示

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.04.05 21:20 最終更新日:2024.04.05 21:20

「わずかな人にわずかな効果だけ」紅麴事件でわかったサプリのワナ…「機能性表示食品」はただ申請するだけの “ザル” 表示

摂取者の5人が死亡した、小林製薬のサプリ「紅麹コレステヘルプ」

 

 小林製薬が発売したサプリ「紅麹コレステヘルプ」による健康被害報告が相次いでいる。現在までに5人が死亡。同社製の紅麹はOEM供給され、他社製品にも利用されており、サプリメントのリスクがあらためて問われている。

 

 2014年、『病気になるサプリ 危険な健康食品』という著書を刊行し、警告を発していたのが東京大学非常勤講師の左巻健男氏だ。

 

 左巻氏は長年の理科教諭としての経験にもとづき、疑似科学の研究を続けてきた。そこで、健康食品のなかに科学的根拠を持たない怪しげな製品が多くあると認識し、健康被害の報告例も検証。そして、こう断言する。

 

 

「結論から言えば、ごく少数のサプリに、健康な人にとってわずかな効果が認められるだけ。病気持ちの人には、むしろマイナス面を増幅させる危険性が高い」

 

「紅麹コレステヘルプ」については、「機能性表示食品」の認可を受けているのが問題だ。この制度ができる2015年4月以前は、機能性を表示できる食品は、国が個別に許可した特定保健用食品(トクホ)と、国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていた。

 

 しかし、安倍晋三政権の成長戦略の一環で制度が改変。星の数ほど健康食品があるなか、機能性をわかりやすく表示した商品の選択肢を増やせば、消費者が購入しやすくなるだろうという目論見だった。

 

 ただ、トクホは効果や安全性について国が審査をおこない、消費者庁長官が許可したものだが、機能性表示食品はあくまで事業者の責任において、科学的根拠にもとづく機能性を表示したもの。消費者庁に届け出るだけで、パッケージに「機能性表示食品」ともっともらしい表記が可能となる。

 

 消費者からすれば、機能性表示食品と謳ってあれば、それだけの効能が約束されていると捉えがちだ。しかし、実態は “ザル” のような仕組みなので、結果として薬害ならぬ “食害” がこれまでも一定数起きてきた。

 

 被害が今も昔も多いのはウコンだ。肝臓にいいとされる生薬だが、それは「健常者にとってのこと」と左巻氏。

 

「日本肝臓学会が2005年に『民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査』というデータを発表しました。薬物性肝障害の要因のうちいちばん多かったのがウコンで、全体の24.8%と断トツでした。

 

 薬物性肝障害とは、文字どおり、薬物を服用した結果、肝臓が炎症などを起こすことです。アルコールなどと同様、健康食品のなかにも、過剰摂取すれば肝臓が分解しきれず、かえってダメージを受ける成分が含まれる場合があるのです」

 

 同調査では、死亡例も3件報告されているが、うち1つがウコンによる急性肝炎から多臓器不全に至った例だ。この患者はそもそも肝硬変を患っていたという。同調査では、ウコンの効能自体が肝臓の負担となり、肝障害を引き起こす例だけでなく、アレルギー性由来、あるいはウコンに含まれる鉄分の過剰摂取由来の例も報告されている。

 

 左巻氏によると、ほかに多いのがクロレラだという。

 

「今でこそブームは過ぎましたが、流通量が多いせいか、国民生活センターに寄せられる健康被害報告では、1980年代から上位を占めています。発疹などの光過敏症、下痢や吐き気、肝機能障害も起こすとされます」

 

 現在、サプリの売り上げ上位を占めるのはマルチビタミン・ミネラル類や亜鉛、アミノ酸などが多い。それらの健康被害は日本ではとくに聞かないが、人によっては避けるべきなのは言うまでもない。

 

 厚生労働省も、たとえば『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』のサイトで、喫煙者や喫煙歴のある人は高用量のβカロテン、ビタミンAを含むマルチビタミン・ミネラルの使用は避けるべきだとするアメリカの研究を紹介している。

 

 厚労省の元医系技官で、東京・代々木のみいクリニック理事長の宮田俊男氏は、「機能性表示食品認可のプロセスがかなり不透明」だと指摘する。

 

「消費者庁管轄なのに、今回の紅麹の件ではSNSで厚労省が叩かれました。一般の人に、誤解があるようです。

 

 食品メーカーは商品の機能性立証のため、臨床試験をおこない、結果を論文にまとめます。論文がジャーナル(専門誌)に掲載されるとお墨つきが与えられたことになり、その実績をメーカーは消費者庁に届け出ます。

 

 しかし、けっこうなお金を出せば査読(内容の審査)なしの論文を掲載する、ジャーナル業者があると聞いたことがあります」

 

 消費者庁側は、書類の形式上の不備がないかをチェックし、問題がなければ受理する。届け出は消費者庁のWebサイト上で公開され、誰でも確認できるので捏造はできない、という性善説に立った制度だが、それ自体に不備がある。

 

「これまでも科学的根拠が薄い製品が出回っては問題視されてきました。特保も機能性表示食品も、医薬品におこなわれるような周期的な検査を受けないんです。

 

 消費者庁のチェック機能も、制度発足時より上がっている印象は受けますが、それも乳酸菌関連など、多くの製品が市場に投入される分野において。

 

『紅麹コレステヘルプ』のような、悪玉コレステロールを低減させる機能性表示食品はこれまでさほど出ておらず、当初からガードが下がり気味だったのかもしれません」

 

 宮田氏は、“紅麹事件” を経て、「課題が新たに生じた」とも語る。

 

「初診時には必ず患者に問診票を書いてもらいますが、現在服用中の薬を書く項目はあっても、サプリまでは問わないのが普通。肝臓病などの既往歴があれば、症状によって漢方やサプリの摂取も確認する程度でしょう。

 

 ただ、肝臓は多くの生活習慣病とリンクしています。診察していても、脂肪肝が最近は増えている印象があり、そんな患者が肝臓に負担となるサプリを常飲していたら、と思うと気が気ではない。今度の件で、問診票を改めねばと実感しましたね」

 

 サプリ摂取についても、まずは医師に相談すべきかもしれない。ましてや、健診などで肝臓に黄信号がともったなら注意が必要だろう。

 

文・鈴木隆祐

( SmartFLASH )

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