トランプ大統領のアジア歴訪は過去最長となる12日間に及ぶもの。その最大の狙いは北朝鮮の核の脅威をいかに封じ込めるか、その方策を各国首脳と協議することだった。
最初の訪問地の日本では安倍首相とのゴルフ外交の甲斐もあって、強力な連携プレーが約束された。とはいえ、そんなことで北朝鮮の脅威がなくなるわけがない。
北朝鮮の核やミサイルに対抗するため、日本政府は大量かつ高額なアメリカ製のミサイル防衛システムの追加導入を決めた。行く先々でトランプ大統領は北朝鮮の脅威に言及。韓国の国会では「カルトに支配された危険な国」と北朝鮮を牽制。
しかし、北朝鮮は「声だけ大きな犬が叫んでいるようなもの」と、一向に動じる様子がない。それどころか、過去に前例のない規模で避難訓練を実施し、アメリカと戦う姿勢を崩そうとしていない。
北朝鮮メディアによると、朝鮮半島東部の地方都市を中心に繰り返し住民の避難訓練が行われている模様。韓国の軍関係者によれば、「前代未聞の動きだ。彼らはアメリカの攻撃が間近に迫っていると危機感を募らせているに違いない」。
過去には空襲警報の下、ピョンヤンで避難訓練が実施されたことがあった。しかし、今回のように多くの地方都市で大規模な避難訓練が行われたことはない。
アメリカは空母3隻を朝鮮半島周辺に配備するが、金正恩委員長は「これはアメリカによる侵略行為の前触れに他ならない。われわれにも備えがある。アメリカ本土を火の海にしてみせる」と息巻いている。
アメリカと北朝鮮による「言葉のミサイル」が本物のミサイル攻撃に結び付く可能性は否定できない。誰もが望まない形で戦争は起きるからだ。
実は、そうした突発的な戦争を想定し、アメリカも大規模な訓練を実施している。国防総省(ペンタゴン)が11月4日から全米規模で非常事態訓練を実施したのだ。
これは北朝鮮による電磁波攻撃の結果、アメリカ全土で発電所のシステムが麻痺したり、通信網が打撃を受け、インターネットも携帯電話も使えなくなったりする事態を想定したもの。
アメリカの主要軍事基地は電磁波攻撃への防御体制が構築されているが、民間の電力や通信会社には十分な備えができていない。
そのため、万が一、北朝鮮による電磁波攻撃が成功した場合、アメリカ国民の90%が甚大な被害を受けるとの分析が議会調査局でなされている。
日本は北朝鮮の脅威に対し、アメリカのミサイル防衛システムで国家の安全が保証されていると受け止めているようだが、これでは不十分もいいところである。
電磁波攻撃に対する備えがまったくできておらず、残念ながら、これが日本の実態である。(国際政治経済学者・浜田和幸)