このところ中東のカタールが世界の注目を集めている。天然ガスの宝庫で、日本をはるかに上回る経済的豊かさを誇っているが、今年に入り、隣国のサウジアラビアから「経済封鎖」というミサイルを撃ち込まれたからだ。
中東の盟主の決定に従い、バーレーンやアラブ首長国連邦など周辺国もこぞってカタールと断交する道を選んでいる。
ことの発端はカタール政府がイランとの関係強化を目指し、イランの新大統領に祝電を送ったことにある。もともとイランとは宗教的に対立していたサウジアラビアがこれに猛反発。サウジは「カタールはイランの過激派などテロ組織に経済的支援を行っている」とまで非難をエスカレート。
カタール政府は「そんなことはない。まったくのフェイクニュースだ」と反論したが、以前から自由度の高い開放的なカタールに対して戒律の厳しいサウジアラビアは不快感を示しており、今回も聞く耳を持たず。関係は悪化をたどる一方となっている。
日本にとってはサウジもカタールも大事なエネルギーの供給国である。サウジは最大の原油の供給国であり、カタールは天然ガスの最大の輸入元。両国の対立は中東地域の不安定化にもつながりかねず、由々しき事態である。
こうした状況を打開すべく、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の中東研究センターが主催する「中東の経済発展の未来」と題する国際会議が11月中旬にドーハで開催された。
筆者も日本から参加し、ロシアを含む欧米諸国やインド、中国、韓国、マレーシア、フィリピンなどアジア各国の専門家らと打開策を協議した。
実は、その会場の外で話題となったのが「2022年のワールカップの行方」であった。なにしろアラブ世界では初のビッグイベントである。
既に4年前から競技場、選手村、メディアセンター、道路など関連施設の建設が始まった。問題は建設現場で働く労働者の確保である。
インド、バングラデッシュ、パキスタンなどから出稼ぎ労働者を集めたが、日中の外気温が40度を軽く超える灼熱の地のため、定着しない。そんななか、「北朝鮮からの労働者は黙々と働き、頼りがいがある」との評判がたち、昨年の時点で3000人を数えた。
ところが、国連安保理の制裁決議を受け、カタール政府はすべての北朝鮮労働者を国外退去させることに。その結果、工事は至るところで中断を余儀なくされた。
この状況を千載一遇のチャンスとばかり、労働者の派遣のみならず資金の提供まで申し出たのが中国である。今や、工事現場に限らず、カタールのショッピングモールや先端医療施設も中国人で溢れかえっている。
習近平主席の肝いりの「一帯一路」計画にとっても、中東は要衝の地である。中国政府の意図は明白だ。
これまで日本が先鞭をつけてきたカタールの天然ガスの油田開発や海水の淡水化プラント、そして太陽光発電施設などにも中国マネーと中国人エンジニアが続々と参入している。
残念ながら、日本の存在感は薄れる一方である。このままでは日本以上に中東の原油や天然ガスに依存する中国に、日本の取り分が浸食されるのは避けがたい。(国際政治経済学者 浜田和幸)