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多重人格強盗犯「声優アイコ」知らぬ間に妊娠してた
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2017.12.04 16:00 最終更新日:2017.12.04 16:00
<オレにとって今、何を伝えたいのかといえば、やった事件に対しては多大なる迷惑を与えた事以外、何者でもありません。その事へ対しては、申し訳ありませんという気持ちしか持てません>(原文ママ。以下同)
10月3日におこなわれた「声優アイコ事件」の控訴審の前に本誌が預かった手記の中で、神いっき被告(33)はそう心中を明かしていた。
「声優のアイコ」を名乗り、男性に睡眠薬入りの飲料を飲ませ、昏睡させたうえで金品を奪ったとして神被告が逮捕されたのは、2014年7月のこと。
神被告は性同一性障害で、女性の体で生まれたが、乳房切除手術を受け、改名。男性として暮らしていた。神被告は逮捕後、一貫して、犯行時の記憶がないとして犯行を否認。事件のときは女性の姿で犯行に及んでいた。
<ただ、調子の良い話に聞こえてしまうかも知れませんが、オレには本当に記憶に残らない時に犯してしまった事で、それが人格が切り変わっている時に犯してしまった事実……DIDであるという事も、今回自身が捕まり分かり得た事ですが、本件に至ってはその事が詐病であるとされ筆舌に耐え難い事実である事は間違いありません>
俗に「多重人格」とも呼ばれる「DID(解離性同一性障害)」について、精神科医で京都大学大学院教授の岡野憲一郎医師はこう話す。
「DIDは、複数の人格が生活の場で姿を現わし、それぞれの意思や考えを持って行動する精神障害のことです」
公判の途中から神被告は「犯行は別の人格によるもの」と主張し始めた。第4回公判では、幼児人格の「ゲンキ」 が登場し「お兄ちゃんは悪くありません!」と叫ぶ場面もあった。
弁護側の医師は神被告を「DID」と診断したが、検察側の医師は「DIDを前提として事件を見ると、矛盾が生じる」と否定した。
2017年4月に下された一審判決は懲役10年。犯行がDIDによる別人格のおこなったものとは、認められなかった。
本誌は8月から、東京拘置所にいる神被告と面会を重ね、彼の主張の真意を聞いてきた。
<詐病や演技と疑われるそのものが、DIDという精神疾患の本態に関連しているというDr.もいます>
<日本の医学では、このDID自体、信憑性のない、又、DIDの病状というものを把握出来ていない為に、特にこの様なオレのやった犯罪事実に於いては、DIDが認められる事がなく、一審は、詐病とされてしまっているのです>
前出の岡野医師が解説する。
「DIDが詐病や演技と疑われることは、むしろ普通にあることです。日本において、多くの精神科医はDIDを診断するのに十分な経験や知識を、持ち合わせていないように感じます。DIDの診断をめぐる日本の状況は、欧米に比べ20年ほど遅れているという印象を持ちます」
<オレはやった事は認めて、それに対する懲役刑は当然の事でありますが、それとは別にこのDIDという病気が認められぬ事に対し、このままではオレがウソ付きになってしまう事と、受刑生活を終えて、「ハイ!服役期間終 了したので自由ですよ!」とされたのでは、あまりにも無責任ではないかという事も強く訴えたいのです!
(中略)これから何年か先、オレが自由になったら、又同じ様な事……「犯罪をしたらどうしよう」……という不安にもかられているのです>
一審判決を不服とし控訴した、神被告の心の叫びだった。
神被告は逮捕後に妊娠がわかり、2014年12月に獄中出産をしている。しかし、妊娠について、神被告本人には性行為の記憶はなく、昏睡強盗を働いた別人格が出歩いている際、何者かに強姦されたと考えているという。2017年8月には被害届も提出した。
<ポリスから「(編集部注・胎児を)下ろすか、下ろさないか、2日で回答をしてくれ」と言われたので、“何で?”と返すと、「後2日すると妊娠6カ月に到達し、そうすると法律で殺人罪となるので下ろすことが出来ない」というので、オレも知らぬ間とはいえ、1人の人間として姿・形を備えた人の命を……たった1度の人生を絶ってしまう事が出来なかった結果、産むことを決めたのです>
前述の岡野医師によると、「DIDの方が気づかぬうちに妊娠、出産していた事例はあります。主人格は自分の身に起きていることの多くを知らないことが普通」なのだという。
<オレは本件の、己の利益を目的とした犯罪事実だけがDIDで記憶にないのではなく、こうしたオレ自身への不利益な強姦をされて……妊娠していた事さえも記憶にないのです、という主張をすると共に、無罪にしろという事ではなく、もう少しDIDに於いての対処法をしっかり、この日本に考えて頂きたく思います。事件に巻き込んでしまった被害者の方々へは謹んでお詫び申し上げます>
手記はそう締めくくられた。
10月3日の控訴審初公判。弁護側の求めた被告人質問や別人格の存在を裏づける新証拠のノートの提出はことごとく退けられ、即日結審した。神被告は裁判長が結審を告げると、戸惑いを隠せない様子で弁護人を振り返った。
岡野医師は「刑務所の中で周囲にDIDが認められることは考えにくいので、症状としては改善することなく、いたずらに年月が過ぎてしまう可能性があるでしょう。必要な技能を備えたカウンセラーによるカウンセリングを受けるのが望ましい」と憂慮する。
翌日、東京拘置所に面会に訪れた記者に、神被告は涙を流しこう語った。
「刑務所にいる間に、きっと他人格はもっと元気になってきてしまう。そうしたら何をするか……。とにかく、早く治療を受けたい」
(週刊FLASH 2017年11月14日号)