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1000万人が栄養失調に陥った「北朝鮮」頼みの綱は大量の漁船

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2017.12.17 11:00 最終更新日:2017.12.17 11:00

1000万人が栄養失調に陥った「北朝鮮」頼みの綱は大量の漁船

 

 このところ北朝鮮から小さな木造船が大量に日本海岸に漂着するようになった。しかも、白骨化した乗組員や疲労困憊気味の生存者が相次いで見つかっている。

 

 3年前から北朝鮮籍の漁船とおぼしき小舟が日本海には出没していた。その数、昨年の時点で約800隻。その都度、海上保安庁の巡視船が警告を発し、追い返していたものだ。

 

 ところが、今年の冬は異常事態の様相を呈している。日本の無人島から電気製品や備蓄食料を盗んだり、日本の排他的経済水域で違法なイカ釣りを繰り返したりと、傍若無人ぶりが目立つのである。なかには死体を積んだり、誰も乗っていない小舟も多い。

 

 まさに「幽霊船」の如くである。海の藻屑となった漁船も数知れない。もちろん、なかにはスパイ工作船もあるようだ。日本の警備体制や港湾情報の収集が目的とされる。

 

 また、一部は韓国への脱北を目指しながら、強風にあおられ、日本海に追いやられたケースもあるに違いない。いずれにせよ、こうした異常事態の背景には「北朝鮮の危機的状況」が隠されている。

 

 今年の夏、北朝鮮の金正恩委員長は新たな号令を発した。曰く「漁業を新たな成長産業にせよ。漁船は軍艦と同じだ。人民と祖国を守る使命がある。魚は銃弾であると同時に大砲の弾にもなる」。

 

 意味不明だ。去る11月、朝鮮労働新聞は次のような社説を掲載している。
「冬場の漁場は重要な戦いの場だ。命がけで目標の漁獲高を達成しよう」

 

 過去20年間、国連の経済制裁を回避してきた数少ないジャンルが漁業であった。そのため、北朝鮮は2015年から2016年にかけ、中国向けの海産物の輸出量を75%も増加させ、昨年の対中輸出額は約250億円になっていた。しかし、本年8月には海産物も制裁の対象になった。

 

 苦肉の策として、北朝鮮は外貨獲得のため、自国の近海における漁業権を中国企業に次々と売り始めた。モノやヒトではなく、操業権の売買という手法で制裁を回避しようとしているわけだ。

 

 思い起こせば、かつて日本の漁業組合の中には近場で蟹や貝類が獲れなくなったため、北朝鮮に金を払い、その近海で漁をしていた時期もあった。

 

 今や、北朝鮮の漁民たちが近海で操業できなくなり、遠く離れた日本海の「大和堆」(やまとたい)と呼ばれる漁場にまで進出せざるを得なくなったのである。

 

 実は、漁業は北朝鮮の軍隊にとって欠かせない資金源となっている。日本海沿岸で見つかった漁船のなかには北朝鮮軍所属を示す番号が打ち込まれていたものもあった。

 

 金委員長は「漁船の近代化を進めよ」との指令も出しているが、「幽霊船」を見る限り、思うように進んでいないことがわかる。

 

 いずれにせよ、日本海での幽霊船は今後も増えるはず。なぜなら、国連によれば、2490万人の北朝鮮人民のうち、1800万人は政府からの配給食糧に依存しており、1050万人は栄養失調に陥っているからだ。生きるためには目の前の海に頼るしかない。

 

 そんななか、3代目の頭領は飢える自国民には「健康のために1日2食運動を進めよう」と身勝手な号令を出し続けている。北朝鮮人民の半分は1日1食もままならないにもかかわらずだ。
(国際政治経済学者 浜田和幸)

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