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企業間の「信頼」はどう作られるのか「トヨタ」に学ぶ

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2017.12.29 11:00 最終更新日:2018.03.08 23:15

企業間の「信頼」はどう作られるのか「トヨタ」に学ぶ

 

 トヨタのサプライチェーンにおける企業同士のつながり構造は、傑出している。だが、少なくとも、表面的には、日本の自動車メーカーは似たり寄ったりの部品供給構造をもっているともいえる。では、何が異なるのか。

 

 端的にいうと、人と人のつながりからなる「構造」を駆動させるためには、ある種類の「信頼」関係が必須なのだ。では、その信頼の差はどこから来るのか。実際に起こり、今も連日のように繰り返されているに違いない、ある古典的なストーリーを語ることによって、この問いに接近してみよう。

 

 トヨタ生産方式の基本の一つに、何か問題が起こった場合、「なぜを5回問い」、ものの流れの「源流」にさかのぼって真の原因を発見し、解決せよという「源流方式」がある。

 

 面倒だからと放置したり、真因に行き着く前に、「なぜ」と問うことをやめたりすると、早晩、同じ問題が再発する。逆に、真因を徹底的に追究し、「源流」で問題を解決すれば、二度と同じ問題は起こらないという考え方だ。

 

 トヨタのサプライチェーンでは、そうした生産哲学とアプローチを日々の実践で学び合い、問題を克服して得られた共通の成功体験を通じて、信頼関係が深まる。典型例を示そう。

 

 1980年代半ば、トヨタの最高車種に搭載されていた、純正カーステレオのFM自動受信チューニングが壊れ、顧客が苦情をもち込んだ。そのカーステレオは、日本の大手音響機器サプライヤーが開発、製造し、トヨタに納入した高級機種だ。

 

 この事態を受けて、なぜ不良が発生したのか、原因究明が始まった。

 

 サプライヤーは最初、次の回答をよこした。「カーステレオのプリント基板上の半導体の一部に、たまたま異常な高圧電流が流れて、飛んでしまったのが原因のようです。そこで、周辺のコンデンサーを、もっと大容量で耐性のあるものに交換します。費用は全部ウチもちです」と。

 

 他の自動車メーカーに対しても、似たような問題が生じた場合、同様の対症療法でしのいできた。

 

 でも、トヨタは違った。怒りだしたのだ。サプライヤーの回答は、問題を糊塗しようとする試みに等しかったからだ。トヨタは主張した。「われわれは、このような問題が起こった場合、社内外を問わず、いつも『なぜ』を5回繰り返して、根本原因を究明する」と。

 

 トヨタは、2回目の「なぜ」を問い直すよう、要求した。想定外の異常な高圧電流が流れたのなら、それはなぜか。設計ミスなのか。単なる部品の不良なのか。それとも、製造上のミスなのか。あるいは、物流に関するものなのか。一体何なのだと。

 

 2回目のサプライヤーからの回答は、「どうやら、製造工程か物流のいずれかで問題があったようだ」という曖昧なものだった。

 

 トヨタはこれも突っぱね、さらに追及した。その要求の正当性と精緻さに圧倒されたサプライヤーは、さらに時間と労力を費やして、調査を進めた。

 

 原因を探る範囲も、次第に絞り込まれていき、5回目の「なぜ」でたどり着いた結論は驚くべきものだった。問題は、下請が組み立てたプリント基板を、本工場へ輸送する際に起こっていたのだ。

 

 それも、長年、プリント基板を出荷するために使っていた、「通い箱」と呼ばれるケースが原因だった。輸送中の振動で、通い箱の内壁からはがれ落ちた導電物の切れ端が、たまたま1枚のプリント基板に付着し、回路をショートさせ、異常電流を流したという、発生の経路が判明した。

 

 真の原因は、拍子抜けするほど単純で、解決策もばかばかしいほど簡単だった。それは、プリント基板のコンデンサーを換えることではなくて、毎日「通い箱」を、綺麗に掃除するということだけだった!

 

 サプライヤーにとって、トヨタからの厳しい追及は、決して愉快ではなかった。だが、結果的にこのサプライヤーは、無駄な部品交換に1円も費やすことなく、問題を根治し、将来発生したであろう信用の失墜も、未然に回避できたうえに、貴重な教訓を学んだのである。そして、深い信頼関係は自然に生まれた。

 

 この不良対策に関わった、カーステレオ・サプライヤーの責任者は語る。

 

「はじめは半信半疑でしたが、実際やってみるとその通り、正しいんですよ。ものごとは、見かけと真の原因が、違うことがある。だから、見かけだけを信じて、安易な手を打ってはいけない。やってみて、本当に驚きましたよ。まさか『通い箱』を毎日綺麗にするだけで、問題が解決してしまうなんて、思ってもみませんでしたからね。もっと高度で複雑な、技術上の問題だと、決めてかかっていたんですよ」

 

 そして、信頼関係の成り立ちについて、彼は端的にいう。

 

「トヨタさんのようなお客さんには、私どもは自然についていきます。その方が得だからです」

 

 真の原因が特定でき、もう二度と同じ問題が起こらなくなったという成果をみて、カーステレオのサプライヤーは、目から鱗が落ちる思いをし、トヨタに対する、真の尊敬と信頼感をもつようになったのだ。

 

 そして、そのような成功体験に基づいて、このサプライヤーは、持続的によいパフォーマンスを示し、それが今度は、トヨタのサプライヤーに対する信頼を生みだした。

 以上、西口敏宏・‎辻田素子氏の新刊『コミュニティー・キャピタル論 近江商人、温州企業、トヨタ 、長期繁栄の秘密』(光文社新書)より引用しました。繁栄する組織に共通するものとは何か、最新のネットワーク理論とフィールド調査から考察します。

 

●『コミュニティー・キャピタル論』詳細はこちら

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