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池上彰が読む「トランプ圧勝後の世界」中東戦争、米軍撤退で世界は混沌「いちばん不安なのは石破首相の説教口調」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.11.07 19:08 最終更新日:2024.11.07 19:08
“もしトラ” が現実になってしまった──。
11月6日(現地時間5日)、投開票を迎えた米大統領選は、「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を掲げる共和党のドナルド・トランプ前大統領が、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領を破り、当選を確実にした。米大統領の返り咲きは132年ぶり2人めだ。
「トランプ氏は、4つの刑事事件の起訴を抱えながらの大統領選になりました。今年7月には、ペンシルベニア州で選挙演説中に銃撃されています。襲撃後に耳から血を流しながらガッツポーズするという、前代未聞のパフォーマンスが大きな話題となりました。
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事前の世論調査では “互角の戦い” になると報じられましたが、蓋を開けるとトランプ氏が激戦区を抑え込み、比較的早い時間で過半数となる270人以上の選挙人を確保しました」(政治担当記者)
今回のトランプ氏の就任は、世界と日本にどのような影響をもたらすのか。本誌は、大統領選を現地取材したジャーナリスト・池上彰氏に緊急インタビューした。
まず、トランプ氏が勝利した理由を、池上氏はこう分析する。
「今回のトランプ勝利は、アメリカ版『階級闘争』の勝利だと言えるでしょう。アメリカのような資本主義国で、資本主義の権化のような人物の当選ですが、彼の当選を支えたのは、アメリカ社会の底辺の労働者や農民だったからです。
グローバル経済の発展で、アメリカの製造業は空洞化。かつての工場地帯は『ラストベルト』(錆びた地帯)と呼ばれるようになっていました。
失業し、意欲を失った労働者たちは、オピオイドという麻薬が含まれた鎮痛剤で一時の苦しみを忘れようとして乱用し、毎年3万~5万人が死亡するという悲惨な状態になっていたのです」(以下、「」内は池上氏)
カマラ・ハリス副大統領を擁する民主党は、こうした労働者たちの受け皿にはならなかったという。
「もともと労働者の党だった民主党は、都市部に住む高学歴のIT系・金融系の従事者によって動く “エリート組織” に変身していました。いわばエスタブリッシュメントの党になっていたのです。
こうして、“忘れられた人々” をすくいあげたのがトランプ氏でした。本来、共和党こそエスタブリッシュメントの金持ち政党でしたが、トランプ氏が『労働者の党』にしてしまったのです。
かつての共和党の大会では、いかにもエリート然としたスーツ姿の人たちが上品に会話していましたが、いまやトランプ氏のTシャツを着た、エリートが眉をひそめるような風体の人たちに “占領” されてしまいました。
日ごろ、政治や経済に無関心だったプロレタリアートを目覚めさせたのがトランプ氏です。いわばアメリカ版の『シン・プロレタリア革命』が出現したのです」
そして、この潮流は米国内にとどまらず、世界に広まっていくという。
「選挙でトランプ氏が掲げた『自国第一主義』、さらには『労働者農民第一』という政治の潮流は世界に広がるでしょう。
自国の産業を守るため、お互いに高い関税をかけあえば、貿易にも悪影響が出ます。日本経済にも悪い影響が出るのは必至です。“トランプ革命” にどう対峙するか。世界も日本も新秩序の形成に苦労することになるでしょう」
“アメリカ第一主義” を掲げるトランプ氏の復活によって、世界の軍事的秩序は様変わりし、混沌となる可能性を指摘する。
「トランプ氏は、自分が大統領になれば『ウクライナ戦争は24時間で解決する』と豪語しています。これはようするに、ウクライナへの支援を全部やめ、ウクライナに対し『ロシアに領土を与えて降伏しろ』ということを意味します。
戦争は終わるけれども、今度は欧州全体がロシアの脅威に怯えることになるのです。中東に関しては、イスラエルに対してトランプ氏は『イランの核施設を攻撃しろ』と要求しています。そんなことをすれば『第5次中東戦争』の勃発です」
軍事秩序の崩壊は、欧州だけにとどまらない。東アジアでも軍事的脅威が増すという。
「朝鮮半島に関しては、トランプ氏は金正恩氏と仲がいいことを自慢してきました。朝鮮半島情勢は、金正恩氏の意のままになる危険性が高まるでしょう。在韓米軍撤退もありえます。
台湾に関しては、『中国が台湾を攻撃したら、中国への関税を何倍にも引き上げる』と発言しています。つまり、台湾を軍事力で防衛する気がないということです。
トランプ氏は独裁者が好きで、世界を民主化するつもりはありません。習近平氏は、今後アメリカが中国国内の人権問題に口を出さないだろうと安堵しているに違いありません」
その影響は当然、アジアに位置する日本にも及ぶ。
「日本に対しては、在日米軍の駐留経費をもっと負担しろと要求してくるでしょう。1期めは、それなりにトランプ氏の暴走を止めるスタッフが存在しましたが、2期めは能力ではなく忠誠心だけでスタッフを採用する可能性がありますから、暴走を止めることはできないでしょう」
喫緊の「トランプ対策」が急がれるが、石破茂首相に可能なのだろうか。
「トランプ氏は、上から目線のお説教口調が大嫌いです。石破首相は、まずはここから直さなければ、今後の交渉に不安が残りますね」
11月7日、石破首相はトランプ氏と電話会談して早期に対面会談をおこなうことを確認した。首相は「フレンドリーな感じがした。本音で話ができる方」と印象を語ったが、トランプ氏がつきつけてくる “本音” の要求をどこまで御せるのだろうか。
( SmartFLASH )