社会・政治
第2次トランプ政権スタートで再注目「不法移民が氷点下の川に沈み…」破天荒ディレクターが見た危険な“メキシコの国境”
「さまざまな理由で危険な国境を越えようとする人々と丁寧に対話を重ね、リアルな姿を撮ることができたら……」
昨年11月より ABEMAで配信されているドキュメンタリー『国境デスロード』。同番組で危険な国境地帯を体当たり取材したのが、大前プジョルジョ健太ディレクター(29)だ。
大前Dはバラエティ番組『不夜城はなぜ回る』(2022~2023年、TBS系)で「ギャラクシー賞」を受賞するなど、期待の若手社員だったが、29歳を機に退社。カメラひとつで “国境地帯” に身を投じた。
「報道局にいたときに『野菜が値上がりした』みたいなニュースを作っていたんです。でも、自分を含めニュース映像を作った人は誰も八百屋さんに買い物へ行っていないことに気づき……ずっと違和感があったんです。それで退社して何を撮ろうかと考えたときに、浮かんだのが母でした。母はインドネシア人で、 “国境” を越えて日本に来ていて、ビザとかいろいろな問題がありました。そこまでしてなぜ人は国境を越えるのか、この目で見たいと思ったんです」
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まず、向かったのはメキシコ、麻薬カルテルが牛耳る街。取材を敢行した場所は「現地の助けがなければ、僕は今ここにいなかった」と、大前Dが振り返る危険な場所ばかり。そこで彼が見たものは……。
「いちばん危険を感じたのはメキシコの取材です」
メキシコ最西端のティファナでは地獄を見た。麻薬カルテルが実権を握り、世界一治安が悪いといわれるこの街では、一日平均7件の殺人事件が起きている。この街で大前Dは、「殺人パパラッチ」と呼ばれる殺人事件専門のカメラマンに密着。銃撃事件を取材し、犠牲者の遺体を撮影した。
「遺体を撮影するというのは、殺人の証拠を押さえたということ。街のいたるところでカルテルのメンバーが目を光らせており、取材中は常に命を狙われる危険がありました」
メキシコでは、これまでに150人以上のジャーナリストが犠牲になっている。大前Dも取材中に街中で突然、現地の二人組に声をかけられた。
「肩を組まれて無理やり写真を撮られました。彼らは組織のメンバーで『お前の顔写真は組織に回した。変なことはするなよ』という警告でした」
もうひとつの国境の街、シウダー・フアレス(1月25日配信)では “トランプの壁” を取材。コヨーテと呼ばれる不法移民を手引きする組織に接触し、アメリカに移住しようとする人たちに同行した。
「トランプ大統領就任の日が(移民できる)デッドラインと噂されていて、その前にアメリカへ渡ろうと必死で歩く人々に同行しました。壁の前には川が流れていて、深夜に氷点下6度の中を渡ったんです。3時間くらい川に入るので、低体温症で発作を起こした人がいて。カメラを回し続けるか、その人を助けるか選択を迫られて……助けるほうを選んだのですが、 “取材” とは何か突きつけられた経験でした」
メキシコでは考えさせられることが多かったという。
「『彼ら(不法移民)を撮ることに対してリスペクトや覚悟が足りない』と熱血漢の通訳に叱られ、殴り合いの喧嘩になってしまい。結果、信頼できる仲間になりましたが、その夜は警察のお世話になりました」
大前Dの取材は続く。
大前プジョルジョ健太
2023年、『不夜城はなぜ回る』でギャラクシー賞1月度月間賞、11月に日本民間放送連盟賞「テレビエンターテインメント」部門優秀賞を受賞。2024年1月にTBSを退社、フリーで活動中
※『国境デスロード』はABEMAにて配信中(エピソード0,1,2,3〈南米編〉は常時無料視聴可能、エピソード4,5,6〈東南アジア編〉はプレミアム会員限定で視聴可能、エピソード7,8〈メキシコ×アメリカ国境編〉が1月31日まで期間限定で無料視聴可能)
写真・皆川拓哉(大前D)