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『国境デスロード』は南米・東南アジアにも…平均寿命は40歳「“ハイ” にならないとできない」破天荒ディレクターが見た標高5000メートル超天空の地獄鉱山

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記事投稿日:2025.01.23 06:00 最終更新日:2025.01.23 06:00
出典元: 週刊FLASH 2025年2月4日号
著者: 『FLASH』編集部
『国境デスロード』は南米・東南アジアにも…平均寿命は40歳「“ハイ” にならないとできない」破天荒ディレクターが見た標高5000メートル超天空の地獄鉱山

ラ・リンコナダ鉱山の採掘場所へ向かうため崖を登る大前健太D/『国境デスロード』より

 

「さまざまな理由で危険な国境を越えようとする人々と丁寧に対話を重ね、リアルな姿を撮ることができたら……」

 

 昨年11月より ABEMAで配信されているドキュメンタリー『国境デスロード』。同番組で危険な国境地帯を体当たり取材したのが、大前プジョルジョ健太ディレクター(29)だ。彼が南米、東南アジアの国境地帯で見たものはーー。

 

 

 ペルーとボリビアの国境にあるラ・リンコナダ。アンデス山脈の標高5千100メートル地点にある街だ。大前Dは、ここで住み込みの鉱山労働者に密着した。街には下水道がなく、ゴミが溢れる過酷な環境。だが、鉱山はそれ以上に危険だった。

 

「劣悪な環境と有毒な化学物質のせいで、労働者の平均寿命は40歳といわれています。採掘には、世界中で違法となっている水銀が使われています。さらに、坑道で頻繁に爆薬を使用するため、肺への粉塵被害も深刻でした」

 

 この環境下でも労働者たちは笑っていたという。「コカの葉を常用して採掘作業をしています。『ハイにならないとやっていられない』と」。

 

 それ以上に大前Dを驚かせたのが、彼らの賃金体系だ。

 

「違法採掘をしている元締めのせいか、彼らは月~木曜は無給で働きます。唯一、金曜日が自由に採掘していい日で、この日に採った鉱石が “給料” になるのです。金曜日に何も採れないと完全無給です」

 

・ゴミ捨て場の腐ったパプリカを食べて……

 

 ベネズエラから出稼ぎのためにチリを目指して歩いているという男性が、ゴミ捨て場のコンテナの中に入り、腐ったパプリカにかぶりつくーー。

 

 コロンビア・ククタでの取材は、こんな衝撃的な場面から始まった。

 

「ゴミ捨て場の残飯をあさってでも移民しようという男性の姿は、鬼気迫るものがありました。自分も裸になってゴミ捨て場に入ったのですが、これまでにいだことのない強烈な悪臭がしました」

 

 大前Dは、この取材で思い知ったことがあるという。

 

「すごい特殊な状況にいる、特殊な人を自分は撮っていると思い込んでいたんです。ただ、撮影を進めるうちに『彼と自分はたまたま境遇が違うだけで、同じ人間なんだ』という思いが強くなりました」

 

 ククタでは、現地コーディネーターに「絶対に不可能」といわれた地元風俗嬢の取材に成功した。「取材対象者が見つからず、町をうろついていた僕をかわいそうだと思ったみたいで、風俗嬢の方が身の上話をしてくれたんです。本当に救われましたね」。

 

 コロンビアとエクアドルにまたがるジャングル内を走るアルト・タンボの “トロッコ” にも乗車。

 

「中古の自動車に廃線のレール用の車輪をつけたハンドメイドのトロッコです。ブレーキはなく、すぐ脱線してしまうという危険な代物でした」

 

 このトロッコは、現地のマフィアが運営する違法鉱山に労働者を運ぶ “足” だった。

 

「ジャングル内にある村から村への移動にも、このトロッコは使われているようでした。僕が乗っているときは揺れて大変だったのですが、このトロッコ乗車で出会い、愛を育んだカップルもいるそうです」

 

・湖の上で一生を終えるチャム族

 

 ベトナムからメコン川を上り、カンボジア国境を越えたところにあるトンレ・サップ湖。ここで約1万人のチャム族が水上生活を送っている。

 

「ベトナム戦争、カンボジアのポルポト派の虐殺からこの湖に逃れてきたチャム族は、ベトナム、カンボジアの両国から “棄民” された国籍がない民族なんです」

 

 ここで60人の大家族に密着。

 

「彼らは食事、仕事、睡眠、セックスと、すべてを水上の家で営んでいるんです。セックスは『夜中に皆が寝静まった船の床の上でする』と教えてくれた夫婦もいました」

 

 この水上取材では、こんなエピソードも。

 

「陸に上がったことがない17歳の青年を陸に案内したのですが、靴を1足も持っていなかったんです。湖の生活では靴がいらないので」

 

 また、軍事政権下のミャンマーでは、「カレン国」軍の前線基地に潜入。死と隣り合わせの国境を取材した。

 

「カレン国というのは1940年代までミャンマーに存在したカレン族の末裔を主張する勢力です。ミャンマーからの完全独立を宣言して、武力闘争を続けています」

 

 現地で「善悪について考えさせられた」と振り返る。

 

「『ミャンマーの兵士をたくさん殺したい』と平然と話すカレン国の兵士が、僕らと食事を摂っているときは本当に幸せそうな笑顔を見せるんです。人を簡単に善人、悪人と決めつけることはできないのだと実感しました」

 

 危険と隣り合わせの取材だったが「なぜ人は国境を目指すか」、答えは出なかったそう。取材は続く。

 

大前プジョルジョ健太
2023年、『不夜城はなぜ回る』でギャラクシー賞1月度月間賞、11月に日本民間放送連盟賞「テレビエンターテインメント」部門優秀賞を受賞。2024年1月にTBSを退社、フリーで活動中

 

※『国境デスロード』はABEMAにて配信中(エピソード0,1,2,3〈南米編〉は常時無料視聴可能、エピソード4,5,6〈東南アジア編〉はプレミアム会員限定で視聴可能、エピソード7,8〈メキシコ×アメリカ国境編〉が1月31日まで期間限定で無料視聴可能)

 

写真・皆川拓哉(大前D)

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