社会・政治
【八潮市・道路陥没事故】専門家が語る“沈黙から突如、大事故へ”のメカニズム「大都市ではどこでも起こりうる」
1月28日午前9時40分ごろに埼玉県八潮市の県道交差点で発生した、下水道管の損傷によるとみられる道路陥没事故。
直径5m、深さ10mに及ぶ陥没に、通行していた2tトラックが転落した。下水道管を管轄する埼玉県下水道事業課は、事故原因について「下水道管が腐食して穴があき、そこから土砂が流れ込み地中に空洞ができ、車両が通ることにより、重みに耐えきれず道路が陥没した疑いがあります」としている。
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「男性運転手1人が乗っていると見られるトラックは、前方から陥没した穴に落ちて、運転席部分が土砂に埋まりました。発生から15時間たった29日午前1時、運転席部分を地中に残したまま、トラックの荷台部分が引き上げられました。
しかしその際、最初の陥没から数m離れた場所で新たな陥没が起き、そば店の看板が地中に落ちました。さらに30日午前2時30分ごろには、その2つの穴の間のアスファルトまで崩落して、ひとつの巨大な穴となりました」(事件担当記者)
過去にも、下水道管の損傷による道路陥没事故は多発している。国土交通省の資料によると「2022年度における、下水道管路に起因する道路陥没は全国で約2600件発生している」という。
下水道管が損傷するとなぜ、地盤陥没が発生するのか。東京大学生産技術研究所の桑野玲子教授に、メカニズムを聞いた。
「下水道管が老朽化により損傷すると、破損部から周辺の土砂が下水道管に流入して、管の周囲に空洞ができます。それが断続的に起こることにより、空洞が成長して、地表近くに空洞天井が達すると、天井上方(地盤やアスファルトなど)が抜けて、路面陥没が発生します。
地下で発生しているので、気がつかないうちに空洞は成長しています。そのため、陥没直前まで地表に変状があらわれず、空洞の存在を事前に知るには、空洞探査をしない限り、わからないという難しさがあります。
また、下水道管起因の陥没は一般に小規模です。今回のように大規模で、しかも人身事故になった事例を、私はほかに知りません」
空洞の成長が表には見えず、“沈黙状態”から突如として、大事故になるという。今回の事故が発生した八潮市は、およそ6000年前は海だったといわれている。そのため、地盤の弱さが指摘されていた。
「砂地盤で地下水位が高い地域は空洞が、成長・拡大しやすい傾向にあります。ほかにも、古くから都市化が進んだ地域は、古い下水道管が埋設されていることが多いので(下水道管損傷による陥没が)起きやすいかもしれません」
こう解説する桑野教授。今回のような事故が発生する可能性は、八潮市に限ったことではないという。
「地下埋設インフラは、ふだん私たちの目に入らないので忘れられていますが、大都市ではどこでも起こりうると思います。
そのため、適切に維持・管理しないと負の遺産となりうることを認識し、国民は(税金の投入など)相応の負担を覚悟することが求められていると思います」(桑野教授)
国土交通省によると、「標準耐用年数50年」を経過した下水道管は全国で約3万km(総延長の約7%)あるという。点検と補修が急務だ。