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「生きたままゴミ袋に」「食事も水も与えず」ヒヨコ鑑別師養成学校の残酷な実習を卒業生が告発「法律違反の可能性も」弁護士が指摘
国内外の複数の動物愛護団体の調査によると、世界では毎年、推定65億羽ものオスのヒヨコが、産まれてすぐに殺処分されているという。卵を産まない採卵鶏のオスは「不要物」扱いとなるからだ。
通常、オスヒヨコの殺処分は海外ではガスで窒息死させる方法が一般的だ。しかし、日本ではゴミ袋に入れて窒息または圧死させたり、生きたままシュレッダーで粉砕したりする方法がとられており、「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の取り組みが立ち遅れている、と国際的に批判を浴びている。
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オスとメスの仕分けは「初生雛鑑別師(ヒヨコ鑑定士)」によっておこなわれる。ヒヨコ鑑定士になるには、養成学校で講習を受けた後、鑑別研修生として1〜3年、実務に携わり、予備考査と高等鑑別師考査に合格しなければならない。
その養成学校に通う講習生から、驚くべき情報が寄せられた。ヒヨコに対し、違法の疑いがある残虐な行為が日常的に繰り返されているというのだ。数年前に養成学校に通っていた、卒業生のAさんが語る。
「私は5カ月間、養成学校に通いました。ヒヨコの鑑別実習があまりに残酷すぎて、PTSDになりました。毎週月曜にヒヨコが搬入されるのですが、食事も水も与えずに放置されます。実習に使う前に衰弱死するヒヨコもいました。
雌雄の鑑別は肛門に指を入れておこなうのですが、慣れない講習生は失敗するため、お腹が裂けて腸が出ているヒヨコもたくさんいました。腸が出たまま放置されるのです。ヒヨコのお腹を親指の爪で開いて観察する実習では、ヒヨコを殺す必要があり、そのためにヒヨコの頭を机に叩きつけます。その際、ヒヨコの首が取れてしまい、それを見て笑う講習生もいました」
講師たちは、その状態を改善しようとしなかったのか。
「なんの対処もしませんでした。講師もヒヨコを生き物として扱わず、倫理観が欠如していたように思います。パワハラをする講師もいて、大声で怒鳴りながら、ヒヨコが100羽くらい入った段ボールを床に叩きつけて、講習生を威嚇するのです」
畜産現場では、メスは採卵鶏として飼育されるが、養成学校ではオス・メスともに殺処分される。
「毎週、水曜にヒヨコは殺処分されますが、その方法がまた乱暴そのものでした。講師がヒヨコを生きたままゴミ袋に入れて、二酸化炭素ガスを注入します。しかし、経費削減のためかガスの注入が不十分で、ほとんどのヒヨコたちは即死できずに、口を何度も開き20分以上は苦しんでいました。そもそも、養成学校の面接では殺処分業務をおこなうと知らされておらず、非常にショックでした」
どれくらいのヒヨコが実習に使われるのか。
「1回の講習で、ひとりあたり50〜100羽、5カ月の講習で都合2万羽使われます。講習生は9人いたので、学校全体で18万羽ほど使われる計算です」
養成学校を運営する、公益社団法人畜産技術協会に、Aさんの告発内容について取材したところ、同協会は内容をおおむね認め、今後、是正策を試みるとして、次のように回答した。
「炭酸ガスによる安楽死処置では、無意識状態になるまで一定の時間を要します。また、炭酸ガスの投入量が不十分だった可能性も考えられるため、安楽死処置が適切に実施されるように関係者に改めて指導を徹底します。
(腸が出ている状態でヒヨコが放置されていたことについて)一部の講習生の中には、肛門を開く際に指に力が入り過ぎ、初生雛(孵化したばかりの雛)にご指摘のようなダメージを与えることがまれに起こります。講習生が初生雛に深刻なダメージを与えた場合には、その都度、ベテラン講師が安楽死処置を講じています。また、ベテラン講師は、このような事故を繰り返さないよう、(講習生の)爪の管理方法から細かく指導を徹底的に行っています。このような事故は初生雛が奇形等の場合に発生しやすいと言われているため、事故の発生件数を減らすために、事故を起こしやすい奇形と判断した初生雛については、今後は実習には使用せず安楽死処置を講じることとします。
(実習までヒヨコは絶水絶食状態にされることについて)現在、実習で使用する初生雛の羽数を減らし(120羽→80羽)、夏は換気時に扇風機がヒナに直接当たらないように間接的に風を送るなど、適切な管理に努めています。給餌給水については、初生雛の体内に残る卵黄中の栄養が消費されるまでに孵化後2〜3日を要するため、給餌の必要性は低いと考えています。給水についても、卵黄から一定量の水分が供給されるため、これまでは無給水で管理をしてきました。しかし、近年の夏の高温期における初生雛の水分補給については、改善する必要性があると考えておりますので、給水する方法について検討する予定です。
(講習生のPTSDを防ぐために)安楽死処置を行う講習生や鑑別師の心理的負担という点にも、今後は配慮する必要があると考えておりますので、事前説明の徹底ならびに、よりよい安楽死処置の方法について検討してまいります」
同協会の回答にある「2〜3日ヒヨコが絶飲絶食でよい」という考え方は、海外の研究では複数の論文で否定されている。そして「孵化後すぐに給餌することが望ましく、48時間以上の給餌の遅れは死亡リスクを増加させる」という説が広まりつつある。
そもそも養成学校がこれらの対策を実践できるのか、一般人は知る由もない。Aさんによると、養成学校の最大の問題はその閉鎖性だという。
「養成学校はHPもなく、どこにあるのか、そこで何がおこなわれているかほとんどの人が知りません。体制をあらためるために、情報開示していくべきだと思います」
動物行動学者で、『アニマルウェルフェアを学ぶ』(東京大学出版会)の著書がある、東北大学名誉教授の佐藤衆介氏も、初生雛鑑別師養成所ではヒヨコが「粗雑に扱われている」と主張する。
「初生雛鑑別師養成初等科講習生に対して、アニマルウェルフェアの講義を数年間、担当していました。オスヒヨコは世界的にも粗雑に扱われ、生かされても動物園の動物の食料にされます」
同氏によると、そもそもオスヒヨコを殺処分せず、卵の時点で雌雄を見分ける方法があるという。
「卵殻にレーザー線で穴をあけ、染み出た1滴の卵白中のホルモンで識別する方法と、卵に光を照射し、卵殻内の雛の羽色の伴性遺伝を利用して識別する方法です。ドイツは2022年に、フランスは2023年に、雄雛の殺処分をすでに禁止し、イタリアは2026年末までに禁止します。米国でも、卵殻内雌雄判別機器を2025年から導入し始めた会社がありますが、日本では卵の時点で識別する方法を導入している農家はありません」
動物の問題に詳しい、北村・松谷・きさらぎ法律事務所の福本悟弁護士によると、ヒヨコを乱暴に扱い、苦痛を伴う方法で殺処分するのは、動物愛護法違反の可能性があるという。
「愛護動物をみだりに殺し、傷つけた場合には、懲役刑も科せられる罰則があります(同法44条第1項)。人が管理している鶏は、実験用であっても愛護動物とされ、みだりな殺傷行為は違法です。
ただし、孵化場の職務としてオスを殺すこと自体は、正当業務行為として違法ではありません。とはいえ、動物の殺処分がやむをえない場合であっても、同法40条は、できる限り当該動物に苦痛を与えない方法をとらなければならない、と定めています。すなわち、2006年に環境省が告示した実験動物に関する基準にもとづいて、安楽死処分がおこなわれなければならないところ、告発の内容は、安楽死とは言いがたいどころか、生き物に苦痛を与え、生きとし生けるものの尊厳を踏みにじる行為とみなされると思います。
たとえ、生きながらえることができないオスヒヨコであっても、適正に飼養管理されるべきで、ましてや遺棄、虐待などなされてはならず、告発内容のような実態は、『みだりに傷つける』行為に該当すると考えます。
国や自治体は、養成学校でおこなわれる実験や選別が法令に反していないかどうか、責任者に対し、徹底した報告を求めるとともに、現場への抜き打ち見分なども検討すべきと思われます」
Aさんの告発は、氷山の一角かもしれない。福本氏が主張する「抜き打ち調査」も、検討されるべきだろう。
取材・文/深月ユリア