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愛知県大府市「老人」表記変更に賛否「全国に広がって」市民は前向き、役所が語る“真意”とは
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イメージです(写真・AC)
2月18日付「中日新聞」によると、愛知県大府市が公共施設名に含まれる「老人」の表記の見直しを発表した。児童老人福祉センターを「こども幸齢者(こうれいしゃ)交流センター」に、老人憩の家を「幸齢者交流センター」に変更するという。
大府市の資料では変更した経緯について、こう記している。
《市では、令和6年11月に「おおぶ活き活き幸齢者応援八策」を策定し、「年齢や心身の状態にかかわらず、自分らしく幸せに暮らしている理想の高齢者」を幸齢者と定義付けています。
現在の児童老人福祉センターなどの機能とイメージを維持したまま、施設の名称にある「老人」を幸せと齢(よわい)の漢字を用いて「幸齢者」、乳幼児から若者までを幅広く「こども」として捉え、「児童」を「こども」に改めます。なお、3月議会で「大府市児童老人福祉センター等の設置及び管理に関する条例」改正案を上程予定です》
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2025年10月から変更される予定という。
この「幸齢者」(こうれいしゃ)という表記は、精神科医の和田秀樹氏が自著『80歳の壁』のなかで、80歳を超えた人を高齢者ではなく「幸齢者」と肯定的に捉えていることを提唱し、一部では知られていたが、人口に膾炙するまでには至っていない。
今、この「幸齢者」という表記について違和感を覚えるという声が続出している。
Xでは《普通に高齢者でいいだろ》《幸齢者なんて意味わからん 言葉遊びしてる場合か?》《啓発言葉に違和感。高齢者に幸齢か聞いてみて欲しい》と厳しい意見も……。
こうした反響は市役所にも届いているのか。本誌は大府市に取材した。
大府市企画広報戦略課は、まず、「名称変更にあたり、市民や専門家などが出席する様々な会議の場でご意見を伺いました」として、こう続ける。
「そのなかには『“幸”という字が入っているので、前向きな気持ちになれる』『大府市からこの言葉が全国に広がってほしい』『私は65歳以上で、今も現役。表記変更はうれしい』『老人という言葉にネガティブな印象を持つ人がいるので変更に賛成』という意見がありました。
その一方で『幸齢者という言葉が全国で浸透していない現状で、市が先行して名称変更を実施する必要があるのか』『押しつけと感じてしまう当事者もいるのでは』という意見もあります。今後も本市(大府市)の考えを丁寧に説明していく予定です」
幸齢者を掲げる理由についてはこう説明する。
「人生100年時代を迎える現代では、65歳を過ぎても元気に仕事や趣味で活躍される方も多く、年齢だけで一律にとらえることは、現実的ではなくなってきています。
専門家の会議や国の報告書などでも、今の時代にふさわしい新たな高齢者像の確立が必要との意見が示されています。このような背景を踏まえ、本市は元気な方から医療や介護などの支援を必要とする方まで、年齢に関係なくその方の現状に応じて、誰もが自分らしく生きがいを感じながら、安心して暮らし続けられるまちづくりに取り組んでいます。
その取り組みを広げるため、理想の高齢者像を『幸齢者』とし、高齢期を前向きなものとして捉えていただけるよう、市民の皆様への周知を図っています」
一方で、すべての表記を「幸齢者」にあらためるつもりはないという。
「法令等に定めがある場合はもちろんのこと、単に年輩の方を意味する場合は引き続き、『高齢者』の文言を使用します」
じつは、大府市が「幸齢者」という表現を使用するのは今回が初めてではなかった。以前から「いきいき幸齢者表彰」や「いきいき幸齢者フェスタ」といった市の行事などで使用してきた。
また、「幸齢者」という表記は、市担当者によれば、2008年度に開催された「大府市長寿社会懇話会」においての理想の長寿社会についての議論のなかで生まれた言葉なのだという。
違和感や示すコメントについては、「『幸齢者』という言葉の背景にある考え方や本市の取り組みを含めて周知し、理解が深まるよう丁寧に説明していく必要があると考えています」と答えた。
市の努力に共感が広がることを祈りたい。