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【ウクライナ停戦後の世界】ノーベル平和賞を望むトランプを籠絡? プーチンが目論む米中ロ「世界3分割」の大野望

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記事投稿日:2025.02.22 14:19 最終更新日:2025.02.22 14:19
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【ウクライナ停戦後の世界】ノーベル平和賞を望むトランプを籠絡? プーチンが目論む米中ロ「世界3分割」の大野望

プーチン大統領とトランプ大統領(2017年、写真:AP/アフロ)

 

 ロシア軍がウクライナに全面侵攻してから、2月24日で丸3年。戦争はいまも膠着状態にある。だが、トランプ米大統領の登場で、事態は停戦に向けて大きく動き始めたようにみえる。

 

「トランプ大統領は、以前から『大統領就任から24時間以内に戦争を終わらせる』と主張してきました。その後、『6カ月は欲しい』と発言を後退させたものの、2月12日、ロシアのプーチン大統領との電話会談で停戦交渉開始に合意。

 

 2月18日には、さっそくサウジアラビアで米ロの高官協議が開かれ、両国それぞれが交渉団を作り、協議を続けることで合意しました。

 

 米ロ首脳会談の日程について、トランプ大統領は、今月中の開催を示唆しましたが、まだ決まってはいません。米ロ双方とも、今回の協議は大きな成果があったと強調していますが、当事者でありながら、協議に招かれなかったウクライナのゼレンスキー大統領は『ウクライナ抜きでの戦闘終結の決定はありえない』と強く批判しています」(政治担当記者)

 

 

 サウジアラビアでの協議は、じつに4時間半に及んだ。アメリカからは、安全保障担当のウォルツ大統領補佐官、ルビオ国務長官、ウィトコフ中東担当特使が出席し、ロシアからはウシャコフ大統領補佐官、ラブロフ外相が出席した。

 

 協議では何が話し合われたのか。米国務省が発表した両国の合意内容は、

 

●ウクライナでの戦争終結に向け、米ロ高官協議を開始する

 

●在外公館の業務など、米ロ関係正常化への大きな枠組み設置

 

●戦闘終結後の地政学的問題や経済問題での協力

 

 などだった。

 

 交渉はまだ入口に過ぎない。元時事通信外信部長で、拓殖大学海外事情研究所教授の名越健郎氏は、今後、ロシアが要求してくると考えられるものとして、以下の項目をあげた。

 

(1)ウクライナで大統領選を実施し、ゼレンスキー大統領退陣

 

(2)欧州軍のウクライナ配備禁止

 

(3)ウクライナのNATO加盟禁止

 

(4)対ロ経済制裁の緩和

 

(5)米ロの勢力圏討議

 

(6)ロシア領クルクス州からのウクライナ軍撤退

 

(7)ロシア系住民の迫害中止、ロシア語公用語化

 

「ロシアがとくにこだわっているのは、(1)ウクライナ大統領選の実施です。プーチン大統領は、昨年5月でゼレンスキー大統領の任期は終了しているとし、非合法な大統領だから、交渉する資格はないと主張しています。

 

 しかし、ウクライナの憲法に『戦争中は戒厳令により、3カ月ごとに任期を延長する』という規定がありますから、違法でも何でもないのです。選挙を実施させてゼレンスキー大統領を退陣させるのがロシアの狙いでしょう。

 

 (2)欧州軍のウクライナ配備も、ロシアは非常に嫌がっています。ヨーロッパの軍隊がウクライナに停戦監視活動で入ると、直接、対峙しかねないということで、強硬に反対しているのです。(3)ウクライナのNATO加盟禁止も、同じ理由です。

 

 そして、(4)対ロ経済制裁の緩和も、米ロ間で直接進めたいというのがロシアの思惑です。プーチン大統領は欧州の安全保障問題も、ヨーロッパ抜きで議論したいと考えています。ヨーロッパ抜きというのもおかしな話ですが、大国が決めたことに小国はついてくればいいというのが、プーチン大統領の基本的な発想です。

 

 これらの要求がすべて通るとは思えませんが、最初に要求を高く掲げて、そこから徐々に降りてゆくというのがロシアの交渉術。しかも、協議が始まったばかりで、アメリカはルビオ国務長官がロシアにどれだけ停戦の意思があるのか感触を探るという姿勢ですから、今回の協議は、ロシアが要求を突きつけて、アメリカはそれを聞くだけだった可能性があります」(以下、「」内は名越氏)

 

■暗躍するロシアの “秘密兵器” とは

 

 今回の協議にはロシアの “秘密兵器” ともいうべき人物が暗躍していたという。

 

「協議に直接は参加していないんですが、ロシア側で協議をアレンジしたキーパーソンが、ドミトリエフという人物です。政府系投資ファンドの総裁で、米スタンフォード大、ハーバード大のビジネススクールを卒業し、ゴールドマン・サックスで働いた経歴の持ち主です。

 

 彼はトランプ大統領の娘婿・クシュナーと親しく、彼の奥さんはプーチン大統領の次女と親友で、事実上、プーチン家の一員の扱いを受けていると言われています。

 

 今回、ドミトリエフ氏は、アメリカに対して、米ロ投資協力の提案をしたと言われていますが、米ロの経済協力によって、なし崩し的に経済制裁を緩和させようとしているのです」

 

 今回の米ロ協議は、ロシアにとって大成功だった。

 

「これまで国際社会で孤立して制裁を浴びていたロシアに、アメリカのほうから歩み寄ってくれ、対等な立場で交渉が始まったわけです。ロシアの力を世界に誇示できました。まだ始まったばかりで、落としどころがどうなるかわからないところもありますが、ロシアではプーチン外交の勝利という見解が多いです。

 

 ひとつ気がかりなのは、トランプ大統領が功を焦るあまり、前のめりになってしまうことです。それは、交渉がロシアペースで進むことを意味しています。

 

 今回の協議のあと、トランプ大統領は『この戦争はウクライナが始めた』などと、事実に反する発言をしていますが、急速にアメリカとウクライナの関係に亀裂が入っているようにみえます。これはロシアの望みどおりの展開でしょう」

 

 では、実際に停戦は実現するのか。じつはロシアでも、ウクライナとの戦争に反対の声が広がっているという。

 

「去年の秋の調査では、ロシア国民の72%が停戦を望んでいるという結果が出ています。厭戦気分が、そうとう蔓延しているわけです。それに、今年はロシア経済が危機的状況になると言われており、その理由として、国防予算と治安対策に国家予算の4割が当てられていることが背景にあるとみられます。

 

 戦争によって、ロシア軍にもそうとう犠牲が出ています。イギリス国防省の分析では、3年近くの戦闘で、ロシア軍で推定79万人以上の兵士が死傷したほか、主力戦車3600両以上や、装甲車およそ8000両を失ったといいます。ロシアもいつまでも戦争を続けているわけにはいかないんです」

 

■停戦後の新たな世界秩序

 

 停戦が実現したとしても、それはウクライナにとって歓迎すべきことにはならないようだ。

 

「ウクライナが、戦闘地域でのロシアの主権を認めるはずがありませんから、停戦は不安定なものになると思います。前線に非武装地帯を作る朝鮮半島のような形や、ロシアが実効支配している北方領土のような形になるのではないでしょうか。いずれにしても、ロシアに奪われたウクライナの領土が、すぐに戻ってくる可能性は低いでしょう」
 

 そして、停戦交渉の行き着く先に、プーチン大統領が見据えているのは「新ヤルタ体制」による米ロ両大国の世界支配だという。

 

「プーチン大統領は、米ロが対等の形でロシアが国際舞台に復帰するというイメージを描いていて、いまこそ(5)新たな米ロの『勢力圏』を作ろうと考えているのです。

 

 最近、ロシアのメディアでは『ヤルタ2.0』という言葉が頻繁に出てきますが、プーチン大統領は、1945年のヤルタ会談で第2次世界大戦後の国際秩序を討議したように、ウクライナ戦後に米ロで新たな勢力圏を作りたいと考え、その了解をアメリカから取りつけようとしているのです。

 

 さらに『ヤルタ2.0』には、もう1カ国必要であるとの議論も出ています。それは中国です。米ロによって世界を二分するのではなく、中国も加えて米中ロで世界を三分して、それぞれの勢力圏は内政不干渉とするものです。そして、アジア太平洋については中国に任せればいいという、恐ろしい議論まで語られています。

 

 プーチン大統領の発想では、世界で主権国家は数えるしかないのです。日本やヨーロッパも、アメリカの核の傘の下にいる限り、完全な主権は持っていないと。そして、重要なことは主権国家だけで決めればいいという発想なんです」

 

 プーチン大統領は5月9日の対独戦勝記念日にトランプ大統領をモスクワに招こうとしている。すでに中国の習近平国家主席が出席することが決まっているが、その場で「ヤルタ2.0」がおこなわれることになるのか――。

 

 もちろん、米ロに中国を加えた大国による世界の3分割など、賛成する国などないだろう。アメリカ国内からも、そうとう反発を生むのは間違いない。しかし、トランプ大統領の米ロ交渉への姿勢を見ていると、荒唐無稽と笑っていられなくなる。

 

■最終目的はノーベル平和賞?

 

「トランプ大統領は、ウクライナ停戦によってノーベル平和賞を狙っていると言われますが、あながち否定できないのです。

 

 日露戦争終結をポーツマス会談で調停したセオドア・ルーズベルト大統領は、その功績でノーベル平和賞を受賞しています。アメリカのメディアによると、その事実をトランプ大統領に耳打ちした者がいるらしいのです。

 

 さらに、オバマ元大統領も『核なき世界』で平和賞を受賞しています。トランプ大統領にはオバマ氏への対抗心もありそうですが、ノーベル賞欲しさに、プーチン大統領との交渉に前のめりになっているとしたら危ないですね」

 

 トランプ大統領は2月19日、ゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と切り捨てた。ほかにも、米ロ主導の停戦交渉を批判するゼレンスキー大統領に露骨な不快感を示しているが、こうした発言がプーチン大統領を利するのは間違いない。

 

 トランプ大統領は、すでにプーチン大統領の術中にはまっているのではないか――。

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