社会・政治
【地下鉄サリン事件30年】公安調査庁が答えた後継団体の“現在”「いまも殺人を正当化」「異常な緊張感のなか立入検査」

オウム真理教を創設した麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚
オウム真理教の教祖・麻原彰晃(松本智津夫元死刑囚)は、信者に対し「ポアせよ」と命令を出していた。ポアとは「死ぬことで魂がより高い位置に到達できる」という意味だと語り、殺人を正当化していたとされる――。
1995年3月20日、オウム真理教の信者が、都内の地下鉄車内で猛毒のサリンを発生させ、14人が死亡、6000人以上が重軽傷を負った「地下鉄サリン事件」。2025年のこの日、事件から30年を迎える。殺人を正当化し、国家転覆をはかろうとした未曽有のテロ事件。すでに麻原を含め幹部13人の死刑が執行され、オウム真理教は宗教法人格をはく奪された。
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だが、信者はその後も活動を続け、現在は「Aleph(アレフ)」「ひかりの輪」「山田らの集団」の3つの団体に分かれ活動を続けている。全国15都道府県に30カ所の拠点施設があり、約1600人の信者がいるという。
これらの団体に対し、1999年、新たに作られた法律が「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)」だ。オウム真理教や後継団体の活動を規制する法律で、同法に基づき、観察処分をおこなっているのが公安調査庁だ。
公安調査庁は、地下鉄サリン事件から30年に先立つ2025年2月、ホームページで新たにオウム真理教の特集ページを公開した。「オウム真理教問題デジタルアーカイブ」だ。長年にわたり、教団と対峙してきた公安調査庁に、あらためて話を聞いた。
――「デジタルアーカイブ」は、斬新なデザインで写真を多用しているが。
公安調査庁渉外広報調整官・市川慶氏(以下・市川)「Xなどでお知らせもしていて、反響が大きいです。若い人にも見てもらえるよう、デザインを工夫しました。地下鉄サリン事件を知らない世代が増えています。事件を風化させないだけではなく、現在ある団体も危険性があるということを理解してほしいです」
――オウムの後継団体は、サリンなどを生成する能力も施設もないと思います。団体がいまでも危険と、なぜ言えるのでしょうか。
市川「観察処分の要件で危険性が例示されており、たとえば、事件を起こした当時の幹部がいまも幹部としていることというものがあります。実際、そうした当時の幹部がいます。それにこうした団体は、いまも『タントラ・ヴァジラヤーナ』という、殺人を正当化する教えを含む危険な教義を保持しています。無差別大量殺人行為に及ぶ本質的な危険性を保持しているのです」
――3団体は、地下鉄サリン事件の被害者に、いまでも賠償責任を負っています。ところがアレフは最近、賠償金を払っていません。それはなぜでしょう。
市川「2024年2月に、アレフは少なくとも7億円を保有しているとみていました。ところが同じ時期にアレフは、資産を約800万円しか報告しなかったのです。我々はずっと、適正に報告するよう言ってきましたが、アレフは報告すべき資産を報告していないのです。賠償を逃れるため、資産隠しをしているとみています」
――オウムの後継団体の実態は、どうやって調査しているのですか。
市川「一般的な任意調査や団体からの報告のほか、立入検査を実施しています。それ以上の詳細については申し上げられません」
――公安調査庁に対して、いやがらせや攻撃はありますか。
市川「立入検査の際、とくにアレフは非協力的です。検査の開始を伝えても応答しない。構成員に質問しても答えない。それだけでなく、攻撃的で怒鳴ったり、罵詈雑言を浴びせたりしてくる構成員もいます。
また立入検査をした際には、帽子に取りつけられたカメラと、ハンディカメラの2台で、調査官を撮影しながらの検査となりました。厳重すぎる監視のもと、異常な緊張感で検査をしたこともありました」
――死刑が執行された麻原彰晃の遺骨と遺髪は、裁判によって麻原の次女に所有権が認められましたが、国は「オウムの後継団体に渡り、崇拝の対象になりかねない」として引き渡しを拒否、次女の起こした裁判は次に高裁に移りました。公安調査庁はどうみていますか。
市川「麻原の遺骨などをめぐる不穏動向をはじめとする、団体の動向について鋭意調査を継続中です。引き続き、その動向を注視していきます」
公安調査庁によると、オウム後継団体が報告した構成員のうち、20代は12%、30代は27%、40代は18%だという。また、団体が過去10年間に報告した新たな構成員を年代別に見ると、20代が半数を占めている。オウムの起こした事件を知らない世代に、かつて何が起こっていたのか、あらためて知らせることも公安調査庁の仕事ということだ。