社会・政治
【埼玉・全裸刺青男事件】「生徒13人を人質に取る!」塾講師が明かす学習塾襲撃“恐怖の5分間”

送検された西村大輔容疑者(写真・共同通信)
「塾の玄関のドアが開いて、無言で誰か入って来たんです。てっきり、生徒か保護者だと思いました。すると、生徒がキョロキョロしだし、ニヤニヤしている生徒もいました。何か異様な雰囲気を察知したので教室の外を見ると、その男がいたのです」
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ひき逃げ、当て逃げ、コンビニでの万引き、タクシーを強奪したうえで暴走、建造物侵入……。4月21日、埼玉県内でわずか1時間半の間に20件以上の事件を起こして逮捕された西村大輔容疑者(48)。
背中から腕にかけて刺青を彫り、全裸姿で奇声を発しながら暴れまわる姿は、近隣住民を恐怖に陥れた。凶行を繰り返した末、西村容疑者が侵入したのは、埼玉県草加市にある学習塾だった。
時刻は午後9時半ごろ――。教室では、中学3年生の国語の授業がおこなわれていた。当時の恐怖体験を冒頭のとおり語ってくれたのが、授業を担当していた塾長である。
事件当時、この塾での犯行は「男は全裸で侵入し、女子生徒の腕を引っ張ったほか、塾長の頭をマグカップで殴り10針縫う怪我を負わせた」などと報道されていた。
だが実際、西村容疑者が犯していたのは「人質監禁未遂」だったという。塾長が事件の詳細を証言する。
「誰が来たのかと思って教室の外を覗いたら、全裸の男が立っていました。男は、私がふだん使うマグカップを左手に持っていたんです。刺青が入っていたので暴力団関係だと思いました。相手を激高させないようにしなければと、咄嗟に『何をしているんですか』と声をかけたんです。まずは、男を落ち着かせないといけないと思いました。でもその瞬間、無言で私の頭の右上部分をマグカップで殴ってきました。
すごく痛かったのですが、男は『外に出ろ!』と言ってきた。私はこの男と一緒に外に出れば、室内にいる生徒たちは助かると思いました。それで2人で玄関まで行って、私がドアを開けました。すると、男は両手で私の背中を押して私だけを外に出し、内側からドアの鍵をかけたのです。さらに、ドアレバーの上にあるストッパーもかけたんです。ふらふら徘徊している様子が報じられていましたが、後から考えると意外と冷静な行動だったと思えました」
教室には、中学3年の生徒13人が取り残された。男子生徒10人と女子生徒3人。この日は、ほかの講師が不在だったため、学習塾内には生徒と全裸男だけとなった。
「男は生徒たちに対して『お前らは人質だ!』と言ったようです。最初から私だけを追い出して、生徒を監禁するつもりだったのでしょう。私はなんとか中に入ろうとしましたが、いかんせん鍵を持っていない。
そのとき、『(玄関のドアとは反対側の)窓の鍵を開けろ!』と叫ぶ、男子生徒の声が聞こえてきました。咄嗟に、窓側にいた生徒が鍵をガチャガチャやったらうまく開いた。そこから生徒はいっせいに外に飛び出して、なんとか逃げ出すことができました。ただ、女子生徒の一人が逃げ遅れて、男に肩を掴まれました。どうにか振りほどいて逃げることができましたが、その際に負傷したようです」
全裸刺青男の凶行から、脱出までわずか5分程度。その後、すぐに警察官数人が駆けつけたという。
「パトカー2台が急行してきて、警察官数人が建物を囲んだと思ったら、すぐに『犯人確保』という声が聞こえてきました。ああ、よかったと思って自分の頭を触ったら、手に血がべっとりとつきました。それまで、血が出ていることに気づいていなかったんです。
結局、10針縫う怪我でしたね。生徒たちもパニック状態になっていました。保護者に聞いたところ、その日は生徒の半数以上が眠れなかったといいます。塾は24日から再開していますが、生徒には無理をしないようにと伝えています」
26日現在、西村容疑者の犯行動機や薬物反応については明らかになってはいない。ひき逃げ事件を起こした際には、バイクに乗っていた会社員(46)が亡くなっている。
生徒たちを恐怖に陥れた“恐怖の5分間”――。一人の男子生徒の機転が、13人の命を救った。