社会・政治
「まぶたの痙攣、涙が止まらない」国民民主党・千葉県連「パワハラ」を被害者が実名告白…背景に支持労組への強い依存

3月10日、「総理大臣にする会」の会場から出てきた玉木雄一郎氏(写真・長谷川 新)
「よくある意地悪のたぐいで、無視とか仲間外れとか、子供じみたことですよ」
こう語るのは、千葉県・浦安市の市議会議員で、かつて国民民主党に所属していた工藤由紀子市議だ。工藤市議の受けた壮絶な “意地悪” はパワハラ問題として、国民民主党の千葉県連のみならず、党そのものを揺るがそうとしているーー。
そもそもの発端は、ママ友同士の軋轢だった。県連関係者がこう語る。
「昨年夏、工藤市議が国民民主党を離党し、今年3月には榎本怜県議、石崎英幸市議、都築真理市議の3人が離党届を提出しています。
工藤市議は、岡野純子衆院議員と県連幹事長・天野行雄県議ほか、支援団体からのパワハラにより『適応障害』を発症したとして、診断書を提出しています。しかし、党は工藤市議の “被害” を軽視。こうした対応に疑問を持ったほかの議員も次々と離党したということです。
被害を受けた工藤市議は、加害者である岡野議員と、もともとママ友なんですよ。岡野さんは元NHKの契約キャスターで、結婚を機に浦安市に移住。2011年の市議選で初当選しています。その後、2017年3月に市長選、10月には希望の党から衆院選に立候補しましたが、いずれも落選。2019年に市議に復帰しました。
2023年、自民党の薗浦健太郎衆院議員(当時)が政治資金の不記載によって辞任。その補欠選挙に、岡野さんが国民民主党から立候補することになり、岡野さんの事実上の後継市議になったのが工藤さんでした。専業主婦で、それまで政治活動の経験がなかった工藤さんは、岡野さんに熱心にすすめられたことで立候補を決意したようです。
工藤さんは、政治に関してまったくの素人ですが、2023年の市議選中も、岡野さんは工藤さんをほとんどサポートせず、ほったらかしにしたようです。たまに街宣に現れては、かなり厳しいダメ出しをする姿が目撃されています。
ほかのママ友たちのサポートもあって工藤市議は当選しましたが、そもそも議員になることをすすめたのは岡野さんですから、放置された工藤市議に同情する声も出ていました。一方、岡野さんは補選で落選しました」(千葉県連関係者)
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当事者である工藤市議が、こう振り返る。
「そもそも私は岡野さんの後継として公認を得たはずでした。でも、岡野さんは市議選の直前まで別の方に声をかけていました。ただ、その方が辞退されたので、結局、私がそのまま立候補することになりました。
そのときから、すでに岡野さんは私に対して冷たかったんです。実際に選挙が始まると、たとえば一緒に街頭に立った際、岡野さんが次に街宣をする私にマイクを直接に渡さないといった扱いを受けました。
当時の私は、政治も選挙の経験もまったくなかったわけで、不出来なところがあったのは確かです。また、岡野さんは当時、ご自身の補選で頭がいっぱいだったはずで、私に構っている余裕がなかったのも理解できます。
なので、岡野さんが私を顧みることができなかったのも仕方がないとは思っているんです。もちろん、私が当時、こうした対応に傷つき、精神的に追いつめられたのは事実ですけどね」(工藤市議)
結果的に、工藤市議は市議選に当選した一方、岡野議員は補選に落ちた。工藤市議は選挙が終わったあとは、当時のことをなんとか飲み込み、気持ちの折り合いをつけることができた。だが、“地獄の日々” はその約1年後から始まった。岡野議員が2024年10月におこなわれた衆院選に出馬することを決めたのだ。
「当選後の1年間は、充実した日々でした。超党派の議員会をつくるなど、新しい活動にも取り組めました。国民民主党の所属議員として、今後も岡野さんを支援することも、納得できていたんです。岡野さんが衆院選に挑戦すると聞いたときも、応援するつもりでした」(工藤市議)
意外なことに、県連は工藤市議に対し、すでに関係が悪化していた岡野議員の選対の事務局長になるように要請した。
「県連に呼ばれ、党の幹部と岡野さんらと話し合いを持つことになりました。私は、前の選挙時に確執もあったので、不安だったんです。しかし、幹部らは『すべて水に流せ』と言うだけ。まるで私がわがままと言わんばかりの態度でした。
当然、不満もありましたが、岡野さんは、なぜか私が本部長でいいと言うので、それならばと、私も承諾したんです。会議の後は、てっきり握手くらいはするのかなと思ったんですが、岡野さんはさっさと連合幹部と退室してしまい、それきりでしたね」(工藤市議)
その後も工藤市議を苦しめたのは、「電力総連」の関係者たちだったという。電力総連とは「全国電力関連産業労働組合総連合」の略称で、電力会社の労働組合の連合組織だ。
原発に前向きな同党にとって、電力総連はきわめて大きな支持団体のひとつ。岡野議員に加え、県連幹事長の天野行雄県議など複数が同組織の組織内議員となっている。集票能力が高く、多額の献金をおこなっている電力総連に対し、国民民主党のいち市議は圧倒的に下の立場だ。
「電力総連の幹部からの指示は本当に厳しいものでした。朝の街宣では周辺自治体の地方議員を集めて朝の6時に場所取りをして、岡野さんを迎えるようにという指示もありましたよ。自治体によっては始発で出ても間に合わない時間です。
地方議員には、それぞれ地方議会で果たすべき仕事があります。それをおろそかにしてでも、岡野さんの選挙に集中しろというのは、さすがに納得がいきません。
結局、連合幹部は岡野さんを当選させるために、地方議員を便利に使いたかったというわけです。関係の悪い私を事務局長に置いたのも、地元市議だからというだけでしょう」(工藤市議)
また、会議後の懇親会なども頻繁にあり、パワハラまがいのことも多かった。
「会議中に、たびたび天野さんに叱責されることもありました。天野さんにどこが悪かったのかを具体的に聞くと、『あそこは、ああ言うしかなかった』とだけ、釈明を受けました。組織の引き締めのためにあえて、私を叱責したのかもしれません。
そうこうしているうちに、会議の前などにまぶたの痙攣が止まらなくなり、帰宅後は涙が止まらなくなりました。状況を知った友人から心療内科の受診をすすめられて病院に行き、『適応障害』と診断を受けたのです」(工藤市議)
一連のパワハラを苦に、離党届を出した工藤市議に対し、県連は公認料の80万円を返還せよと求めてきたという。任期中に離党した議員へのペナルティとして、公認時に署名した書類にも記載されていたという。
「私としても、党に迷惑をかけたという思いはあるんです。なので、玉木さんにひと言、謝ろうかと思い、都内の街宣日程を調べて会いに行きました。玉木さんはすぐに私に気がついたらしく、ちらちらとこっちを見てはいるものの、一向に近づいてくる様子はありませんでした。
そのうち街宣が終わってしまい、玉木さんが車で移動しそうだったので、目立たないように駆け寄り、『このたびは申し訳ありません』と頭を下げました。
そのとき玉木さんからは『なんとかならんか? なんとかするから』と声をかけていただきました。つまり、私が離党した事情について、ある程度、玉木さんもわかっていたということでしょうね」(工藤市議)
「なんとかする」と工藤氏に語った玉木氏だが、その姿勢にまったく変化が見られないのは、本誌が何度も報じてきたとおり。ようやく3月12日に倫理委員会とハラスメント対策委員会の合同委員会を設置して内部調査をすることを決めたものの、関係者への聞き取り調査は遅々として進んでいない。
パワハラ行為の “主犯” として名前のあがっている岡野議員と天野県議に、工藤氏の訴えについて確認したところ、天野県議から、
「現在、国民民主党本部の倫理委員会にて、実情調査を行っているところであり、現時点では岡野からも天野からも回答は難しい状況にあります」
と回答があった。党の関係者は、工藤市議を苦しめた電力総連との歪な関係についてこう語る。
「前回の総選挙で思ってもいないほど票が集まったため、擁立者が足りず、先の比例区の3議席を他党に振り分けました。これが玉木さんら執行部にとっては “もったいない” と、トラウマになっているんです。そこで今は、とにかく公認候補者数を立てることに躍起です。
しかし、公認候補の供託金は党本部が出すことになります。となると、やはりカネが必要になる。その点で、電力総連という巨大組織の重要性がますます高まっているんです。
一方、労組と無関係の地方議員を中心に、党と労組とのあり方に疑問が広がっているのも事実で、千葉県連の問題をどう処理するのか、党の関係者は固唾をのんで見守っている状況です。
実際、地方議員はなにかと口うるさい労組幹部のありように、工藤市議と同じく日ごろから不満があるんです。ここで対応を間違うと、玉木代表がよく言う『チームワーク』は、あっという間に綻(ほころ)んでしまうと思いますね」
一連の問題は、躍進する同党の “成長痛” なのか――。