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【大統領就任100日】トランプ氏“元右腕”ジョン・ボルトン氏が池上彰に語った“暴君”の頭の中

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記事投稿日:2025.05.08 11:46 最終更新日:2025.05.08 16:41
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【大統領就任100日】トランプ氏“元右腕”ジョン・ボルトン氏が池上彰に語った“暴君”の頭の中

ジャーナリスト・池上彰氏

 

 ドナルド・トランプ米大統領の2期めの就任から100日が過ぎた。その関税政策は国際経済に大きな混乱をもたらし、長らく続くウクライナ戦争の停戦に意気込むも見通しは立たない。

 

 今や世界の話題の中心である“暴君”は、頭の中ではいったい何を考えているのか。それを紐解くための鍵となるのが、トランプ大統領の“元右腕”であるジョン・ボルトン氏だ。以前、ボルトン氏と対談した経験があるジャーナリストの池上彰氏に話を聞いた。

 

 

「白い口髭をはやしたアメリカの保守強硬派論客といえば、『ああ、あの人か』と思い出す人もいるだろう」(池上氏)

 

 外交・安全保障分野の強硬派として知られているボルトン氏は、2001年に共和党のブッシュ政権で国務次官、国連大使を歴任した。

 

「ブッシュ(息子)政権で、北朝鮮やイランの核開発問題などを担当した。その後、アメリカの国連大使に指名されるが反対が多く、短期間務めただけで辞任した。ズケズケとモノを言う保守強硬派で、多くの敵を作った。当時の北朝鮮の金正日総書記を『圧政的な独裁者』と呼んだことから北朝鮮が猛反発。金総書記は、ボルトンのことを人間のクズと非難したこともあるほどだ。また、ブッシュ大統領に対しては副大統領らとともにイラク攻撃を働きかけて実現させている。その結果、イラクのフセイン政権を打倒することには成功したが、大量破壊兵器は発見されなかった」(同前)

 

 その後、ボルトン氏は、1期めのトランプ政権で安全保障政策を担当する大統領補佐官を務めた。

 

「1期めのトランプ大統領は政界や行政府に知り合いがいなかったことから、共和党内で能力の高い人たちを政権に送り込んだ。ところが、勝手気ままなトランプ大統領の行動にブレーキをかける人たちのことが気に食わなかったのか、次々と解任していく。その過程でボルトンは2018年3月、前任者が解任された国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任する。うまくいくわけはないだろうと思っていたが、案の定、ボルトンは1年半後の2019年9月に解任された。

 

 ボルトンは、就任時から『いずれ自分も解任されるだろう』と予期し、トランプ大統領の言動を克明に記録していた。解任後、中国の習近平国家主席におべんちゃらを言ったり、中国国内でのウイグル人への弾圧を評価していたりしたことを暴露。その生々しさが反響を呼んだ。彼が解任された後、2020年にリモートで取材したが、トランプ大統領を酷評。自身が共和党員でありながら『トランプには投票しない』と明言していた」(同前)

 

 2025年3月、池上氏は約5年ぶりにボルトン氏に取材を敢行した(『テレ東BIZ』の企画『池上彰が生解説!王様トランプVS世界 ニッポンはどうする?!』で、取材の模様はYouTubeで公開中)。

 

「久しぶりにリモートで取材したが、意気消沈していた。トランプ大統領の外交に関する振る舞いに怒り心頭だったからだ。ロシアや中国、北朝鮮などの独裁的指導者に宥和的な態度をとっていることを『間違いだ』と厳しく批判した」(同前)

 

 たしかにボルトン氏は、トランプ大統領を次のように酷評している。

 

「トランプは停戦交渉が始まる前段階で、プーチンに対して譲歩をしている。トランプは、国家間の関係が首脳同士の関係によって決まると考えている。彼はプーチンを友人だと思っているからこそ、アメリカとロシアの関係も良好だと考えているのだ。元KGBエージェントであり、人を操る術を熟知しているプーチンにとって、トランプは非常に扱いやすいターゲットだ」(ボルトン氏)

 

 池上氏が続ける。

 

「これからトランプ政権はどうなるのかと私が問いかけると、ボルトン氏は『共和党内のまともな人たちがトランプの暴走を食い止めるだろう』と答えたのだが、いまの共和党は、すっかりトランプ党になってしまい、大統領の暴走を止められないでいる」(池上氏)

 

 そしてトランプ大統領の経済政策について、ボルトン氏は「同盟国に対して高い関税をかけるというやり方は、経済的な無知のあらわれ。この政策は、トランプにとって最も大きな政治的打撃となる可能性がある」と厳しい予測をした。

 

「ボルトン氏の警告通り、外国製品に高い関税をかけると発表したことから株価は暴落。アメリカの国債の流通価格も値下がりしている。トランプ大統領は、このためアメリカ経済に陰りが出ているのを『バイデンのせいだ』と主張。支持率についての世論調査の平均値が45.1%と就任時より約5ポイント下がっていることに関しては、いつものように『フェイクだ』と批判し、『正当な世論調査ならば60%台か70%台だ』と根拠なく主張した。

 

 トランプ大統領が自画自賛する背景には、自身の高関税政策で混乱が生じていることを認めたくないからだ。また、中国に145%という高関税をかけたのはディール(取引)の一環だった。高関税で中国を揺さぶれば、貿易に関する交渉が始まると踏んでいただろうに、中国は交渉のテーブルにつこうとしない。これに焦ったのだろう、トランプ大統領は『中国が交渉に応じようとしている』と発言したが、中国はこれを拒否。交渉などしていないというのだ。焦りからのウソだったのだろう。米中関係は中国が主導権を掌握しているように見える」(池上氏)

 

 就任から100日を迎えた4月29日、トランプ大統領はミシガン州で支持者を集めて演説をした。

 

「演説では『史上最高の100日間だった』と自画自賛し、『ガソリン価格が下がった』と功績を自慢したが、イギリスBBCがファクトチェックしたところ、ガソリン価格は下がっていなかった。ここでもまたウソが飛び出した。

 

 この演説の場所をミシガン州に選んだのは、ここが共和党と民主党の接戦州だからだ。来年11月には早くも議会議員の改選を行う中間選挙が控えている。ここで共和党が勝てないと、自身の政策が実現できなくなる。世界経済が大混乱しても、トランプ大統領の視野には来年の議会選挙しか入っていないように見えてしまうのだが……」(池上氏)

 

“トランプショック”ともいえる世界の大混乱。ボルトン氏は、今後の日本の指針についてこう提言した。

 

「中国はウクライナで何が起こるかを注意深く見守っており、それによって台湾や南シナ海におけるアメリカの動向を推測しようとしている。また、日本の領海や領空に侵入するなど、ますます攻撃的な行動をとるようになっている。東アジア全体、さらにはインド太平洋地域全体で、より緊密な同盟関係を築くことが必要だ」(ボルトン氏)

 

 ボルトン氏の発言通り、アジア諸国との連携が喫緊の課題だろう。

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