社会・政治
石破首相、参院選目前でまさかの「衆院解散」検討報道…カギは「内閣不信任決議案」提出めぐる与野党の“本音と思惑”

石破茂首相
6月3日、国会の会期末を6月22日に控える永田町に衝撃が走った。
3日付の朝日新聞が、石破茂首相が6月2日、立憲民主党から内閣不信任決議案が提出された場合、採決を待たずに衆院を解散する方向で検討に入った、と報じたからだ。
しかも、こうした考え方を自民党の森山裕幹事長と共有しているとも報じた。
この一報を聞いた自民党のベテラン秘書は「提出されただけで解散するなんて、聞いたことないですね。普通は採決されて、不信任案が可決されれば、憲法69条に基づいて、首相は10日以内に衆院解散か内閣総辞職をしなければならないわけで、採決せずに解散なんて意味がわからないです」と首をかしげる。
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しかし、しばらくしてこう続けた。
「これが本当なら、石破さんの“ハッタリ”でしかないと思います。野党のうち、内閣不信任決議案の提出に必要な51人を単独で擁するのは立憲民主党のみ。解散をちらつかせて、立憲に対して『やれるもんならやってみろ』と、不信任案の提出を牽制したということではないでしょうか」
一方の立憲民主党ベテラン秘書は「うちは年金制度改革法案で厚生年金を活用した基礎年金の底上げを要求し、自公両党と修正合意したことで、SNSなどで強烈な批判を浴びています。ですから、いまは不信任案提出は誰もやりたくない、というのが本音です。つまり、いまは解散総選挙はやりたくないのです」と打ち明ける。
森山幹事長は3日の会見で、野党が内閣不信任決議案を提出した場合の対応について「かりに提出されれば、石破首相が適宜・適切に判断する」と述べるにとどめたのだが、政治部デスクによれば、森山氏は「不信任案なんて出ないでしょ」と本音を漏らしているという。
では、首相の“真意”はどうなのか。首相周辺のある自民党議員が言う。
「首相は、周囲には『採決前に解散しなければならない理由なんてあるのか。可決されてこそ、次の段階に動く理由があるでしょ』と話しています。つまり、提出されただけで解散するのではなく、不信任案が可決されれば解散するというのが、首相の考えです。首相は少数与党になった2024年秋から『不信任案可決で総辞職なんてない』とはっきり言っています。ときが来れば解散して、国民から自らの評価を受けたいとの思いが強くあると思います」
そこで注目されるのが、立憲民主党の野田佳彦代表の動向だが、不信任案を提出するのか。
「立憲が不信任案を出す可能性は、現段階では極めて低いと思っています」と前出の政治部デスクは前置きし、こう続ける。
「野田代表は『政府はトランプ関税の交渉中で、そんなときに国内から足を引っ張ってはならない』などと、言い訳を多く並べていますからね。本音では、出したくないのでしょう」
別の立憲関係者は、不信任案提出に腰が引けている党内事情についてこう話す。
「2024年10月の衆院選で初当選した新人議員が39人と多く、就任から1年も満たないなかで再び選挙を迎えるのは、かなりの負担になります。また、自民党は衆院選で議席を減らす可能性がありますが、我が党も単独で過半数を獲ることはかなり難しい。そうすると、どこと連立を組むかとか、誰を首相候補にするか、などを事前に決めておく必要があって、それを議論するだけで党内が割れてしまう懸念があります。いまは避けるべき、という意見が多いような気がします」
衆議院事務局によれば、衆議院先例集には《議案等は会期中いつでも提出することができる》とあり、言い換えると「国会開会中にしか内閣不信任決議案は提出できない」ことになっている。今国会は延長がなければ6月22日が会期末となっており、不信任案を出すならそこがリミットだ。残すところ約2週間ということになる。
前出の自民党ベテラン秘書は、党内の現状についてこう話す。
「小泉進次郎農水相の下で、スピード感をもって備蓄米を安く放出したことで、内閣支持率は多少、回復しつつあります。とはいえ、このタイミングで解散総選挙をやっても、衆院の議席が増える保証はありません。7月に予定される参院選の結果を見てからでも遅くはないと、多くの自民党議員は思っているでしょう。そうした意味で、不信任案は提出してもらいたくないですね」
立憲民主党が内閣不信任決議案の提出に腰が引けている状況のなか、国民民主党の玉木雄一郎代表は6月3日の記者会見で、立憲の野田代表に対し「政権交代を目指す野田氏は、出すべきではないか」とせっついた。
朝日新聞の報道で、強まるのかと思われた“解散風”は結局、弱まりつつあるようにみえるが、かりに提出された場合にはどうなるのか。
前出の政治部デスクはこう読む。
「かりに提出された場合は、自公は少数与党ですから、可決される可能性が高いと思います。国民民主党は盛んに立憲民主党に『提出しろ』と訴えており、いまの野党でもっとも戦闘的です。
国民民主は『103万円の壁』などで自民党から交渉を中断されたことを受け、対決姿勢をアピールすることにより、参院選で勝とうとしています。現在、参院選比例代表候補の山尾志桜里氏による、過去の不祥事問題で支持率が急落しているだけに、立憲に混乱の末、提出させ、立憲内の足並みの乱れを際立たせたい思惑もあります。自民党と勝負できるのは自分たちだけだとアピールできますからね」
日本維新の会の対応についてもこう推察する。
「維新は今年度予算に賛成した立場ですが、前原誠司共同代表は周囲に『出されたら賛成せざるをえない』と話しています。衆院の新人議員に10万円分の商品券を配った問題など、もともと石破首相に失点があることから、ここで不信任案で反対に回ったら、参院選を戦えないとの声が党内で多く出ているためです」(同前)
はたして、石破内閣への不信任決議案は提出されるのかーー。