社会・政治
イスラエル「大使館の移転」はトランプ大統領からの贈り物
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.03.05 20:00 最終更新日:2018.03.05 20:00
イスラエルのネタニヤフ首相が絶体絶命のピンチに陥っている。以前、高価な葉巻をくゆらせているところを写真に撮られそうになり、慌ててポケットにしまったのだが、背広のポケットから煙が噴き出し、政界からは「煙たい男」と異名を取ったものだ。
しかし、現在、この “煙たい” 最高指導者が直面しているのは、はるかに深刻な収賄容疑である。
高級葉巻に収まらず、ピンクルビーなどの宝石類や現金を内外のビジネスマンから受け取り、政治的な便宜を図ったとの報道が連日のように続いている。本人のみならず、夫人や息子も絡む首相一家のスキャンダルだ。
しかも、元秘書官が警察で証言を行うなど、首相にとって不利な情報が相次ぎ、国民の半数以上が「辞任」を求める事態にまで発展。まさに政権の危機といえよう。
イスラエルは、来る5月14日に建国70周年を迎える。経済も順調で、2017年にイスラエルを訪れた海外の観光客は過去最高の360万人を記録。近年見つかった海底油田からの天然ガス輸出も増加の一途である。安倍首相、インドのモディ首相、そしてトランプ大統領とも緊密な関係を築き、外交的にも存在感を増してきただけに、今回のスキャンダルは何としても煙に巻きたいところであろう。
そこで手を差し伸べたのがトランプ大統領だ。
建国記念日に合わせて、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転すると発表。先月、イスラエルを訪問したペンス副大統領は「2019年末までには移転する」と述べていたのだが、トランプ大統領は急遽「5月に前倒しする」と言い出した。
現在のアメリカ大使館はテルアビブの一等地にあり、眼前には青い地中海が広がる。それを聖地エルサレムにある領事館に移転するとの話。この古くて狭い領事館はエルサレムの旧市街に位置しており、目の前にはガソリンスタンドや自動車修理工場が並び、実に雑然とした雰囲気。アメリカ大使館の立地条件としては相応しくないだろう。
では、なぜ、そんな場所に急いで大使館を移転させようというのであろうか。要は、アメリカで11月に予定されている中間選挙を意識してのことなのだ。アメリカの4分の1を占めるキリスト教福音派が長年求めていた「エルサレムをイスラエルの首都へ」とする運動への理解を示すためである。トランプ大統領は彼らの支持で当選したようなもの。その支持をより確実なものにすることで、11月の中間選挙で勝利し、議会の主導権を共和党にもたらしたいわけだ。
さらに言えば、このネタニヤフ首相一家やトランプ大統領一家を資金面で支えてきたのがイスラエルのカジノ王と呼ばれる「ラスベガス・サンズ」のアデルソン会長である。トランプ氏に大統領選挙資金を提供したことで有名だが、エルサレムへのアメリカ大使館移転経費も寄付すると申し出ている。
3月5日には、ネタニヤフ首相が急きょワシントンを訪問し、トランプ大統領と首脳会談に臨むことになった。これこそ、煙たく、怪しい取引の場になりそうだ。(国際政治経済学者・浜田和幸)