社会・政治
「私が共産党をやめた理由」市議が実名告白…「市役所トイレにナプキン」で有名になった県議からの「執拗な干渉」と「被害の放置」

日本共産党三重県委員会の前に立つ中野裕子市議。現在は、無所属で活動している
《津市役所のトイレにはナプキンは残念ながら配置されてなかった》
3月25日、Xにこう投稿したのは、日本共産党所属の三重県議・吉田紋華(あやか)氏(27)。公共施設へのナプキン設置を訴えたこの投稿には称賛と批判が殺到し、吉田氏のもとには殺害予告までも届いた。党は国会質問や「赤旗」で擁護し、吉田氏も会見でバッシングに屈しない姿勢を表明、一躍ネット界隈で有名人となった。
だが、その陰で心を壊された人物がいた。津市議の中野裕子氏(30)だ。2人は “三重共産党の女性コンビ” として活動し、表向きは良好な関係だった。だが、中野氏はこの騒動から間もない4月21日、離党届を提出した――。
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「私は2022年1月の初当選以来、『生理の貧困』の改善を公約に掲げ、今年3月にも議会で取り上げました。その直後、吉田さんの投稿がありました。県議の吉田さんがわざわざ市役所を名指しし、私の取り組みの成果が出ていないことを突きつけたのだと感じています。 “またハラスメントをされている” とも思いました」
2023年4月に25歳で県議に初当選した吉田氏と、中野氏が知り合ったのは2020年12月。当初は食事をともにし、相談にも乗る関係だったが、「約3年前からことあるごとに、些細なことを執拗に批判されるようになった」と語る。
原水爆禁止世界大会の帰路、「なぜメモをとらなかったのか」と泣きながら責め立てられた。素敵なカフェを見つけ、SNSに「津にいいところなんてないと思ってたけど、あった」と書けば、「議員が地元を批判するなんて」と、書き換えを求められた。
「彼女に怒られないよう、息の詰まる思いで接するようになりました。言い逃れのできない正論で追い詰められ、謝ると『どうするかを一緒に考えよう!』と退路を断たれる。自分を責める毎日でした」
中野氏は2022年時点で、党に「吉田さんと距離を置きたい」と相談していた。しかし、党は「個人間の問題」とみなし、むしろ2023年3月からは、吉田氏の選挙応援を強いられた。
その選挙戦で登場したアンパンマン風の着ぐるみを中野氏がXに投稿すると、「著作権法違反だ」と炎上。着ぐるみは党が用意したのだが、吉田氏はLINEグループに中野氏への怒りを連投した。
《さいあく! さいあくさいあく!》
《身内に足引っ張られんのが1番だるい》
吉田氏と同じ空間にいると動悸がし、寝込むことも増えた。2024年4月、党はようやく協議をおこない、「つどい(集会)では同席させない」ことになった。にもかかわらず、現場からは “2人で出てほしい” との要請が続いた。
「断わると『乗り越えなあかんで』と支部員から言われます。2025年2月には、会議の司会を頼まれ『吉田さんがいるなら、動悸がするので無理です』と伝えると、党幹部には『訓練や』『慣れていかなあかん』と笑って受け流されました」
絶望した中野氏は離党届を出し、党の要請で30ページにおよぶ「離党理由」も提出した。
「この文書は、私の許可なく中央委員会を経て弁護士らに回覧されていました。その後、吉田さんにまで見せたと聞いています。私への聞き取りは、最後まで不十分でした」
中野氏は、5月31日付で共産党を離党した。
「離党の原因は、 “特定の党員からのハラスメント” だと公表しました。党を離れられて少しは安心しましたが、党には今後、本腰を入れて対策をしてほしいと思っています」
一方、6月8日、共産党は「ハラスメントがあったとは断定できない」と結論づけた。
本誌が吉田氏と日本共産党中央委員会に質問状を送付すると、党三重県委員会による文書での回答があった。
吉田氏の言動を「トラブル」とした理由は、「中野市議と吉田県議は、吉田県議が大学生のときに出会いました。中野市議が離党表明に至る経過について双方から話を聞いてきましたが、吉田県議と中野市議の関係は双方のトラブルであると判断しています」。
吉田氏との同席をためらう中野氏に、幹部が「訓練や」「慣れていかなあかん」と発言したことは、「中野市議を傷つける発言があったのは事実で、県委員会として中野市議に謝罪するとともに、中部地区委員会を注意しました」。
そして、中野市議が提出した「離党理由」を、党が中野氏の許可なく吉田氏らに見せたことについては、「中野市議から『検証は私からの聞き取りをするのか』と問われ、中野市議から提出された『離党理由』を専門家に見てもらい検証すると答えています。吉田県議にも見てもらうのは当然です」。
党の判断は妥当だったのか。ハラスメントに詳しい森大輔弁護士は、「議員である以上、自身の言動への批判はある程度受け入れる必要があり、吉田県議の発言は直ちにモラハラとは断定しにくい」と述べつつ、こう語る。
「政治活動に関連するトラブルを、 “個人間の問題” と片づけるのは不適切であるし、党には指揮下にある議員のメンタル面に配慮する一定の注意義務があると考えます。
中野氏が動悸を訴えるほど追い詰められたのに、党が党員らの『訓練しろ』などという声を黙認し、離党せざるを得なくなったという事実は、『組織的ハラスメント』だと見なされかねません」
また、離党理由を記した報告書の取り扱いについても、「本人の同意なく当事者に渡すのはプライバシー上の問題があり、報復を招く恐れもあります。報告書の使途は、事前に本人へ明確に示すべきでした」と語る。
今年4月、吉田氏は党の県支部で「ハラスメント根絶委員会」の委員長に就任したという。
写真・馬詰雅浩
取材協力・蒲生諒太