社会・政治
大手スカウトグループのメンバーが逮捕「信賞必罰」徹底された“恐怖の組織”に警察も本腰

逮捕された「ナチュラル」の渡辺尚人容疑者
警視庁が7月31日に暴力行為法違反容疑で逮捕した、渡辺尚人容疑者と南雲直哉容疑者。2人は2月6日、仲間らと風俗店の事務所に押しかけ「うちの組織、でかいのわかりますよね」、「命かけて刑務所に行くやつだっているし」などと、居合わせた店長らを脅した容疑を持たれているという。大手紙の社会部記者が解説する。
「脅迫された風俗店のグループでは、6月に改正風営法が施行されることから、風俗店が女性の紹介料としてスカウトに支払う『スカウトバック』を支払わないことを決めていました。渡辺容疑者らはこれに腹を立てて、事務所に押しかけるなどしたようです。
この風俗店グループについては、SNSなどで『不義理店』と名指され、店長の顔写真や『所属している風俗嬢が性病検査を受けていない』などの風評を流されていました。これらの行為も、渡辺容疑者らの犯行と考えられています」
渡辺容疑者らは国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」の構成員とされる。「ナチュラル」は、都内最大の繁華街である歌舞伎町を拠点に、全国へ規模を広げていた。2024年だけでも、売り上げは数十億円あったとされ、構成員は全国で1000人を優に超えるという。
【関連記事:女性を全国の風俗店へ…続々と摘発される「スカウトグループ」広告代理店に転身で検挙逃れる“イタチごっこ”】
警視庁は「ナチュラル」を「トクリュウ(匿名・流動型グループ)」と認定、警戒を強めていた。このスカウトグループの徹底した組織作りについて、裏社会に詳しいフリー記者・萩原ミカエル氏はこう語る。
「『ナチュラル』は会長を筆頭に、執行役員、専務までが本社組織に所属。本社内には『集金課』、『契約課』、『総務課』、『経理課』などがあり、また、警察情報を収集する『防衛課』などがあります」
「ナチュラル」は、2020年11月に起きた「スカウト狩り」でターゲットになったスカウトグループ。全国の地区ごとに本部が置かれ、実働部隊はそこに所属しているのだ。萩原氏が続ける。
「20人程度が1ユニット(部隊)とされ、スカウトや派遣、集金といった実務を担います。“信賞必罰”が徹底されていて、原則的に連帯責任になります。また、組織強化のために上席連中による暴力行為も日常的におこなわれていて、これを動画で共有させることで、末端構成員に恐怖支配を敷いているようです。集団で押しかける事件を起こしたのは、集金ができないことで組織内で罰金が発生したり、暴力を振るわれたりすることを、末端の人間が恐れた結果と思われます」
警察庁は、スカウトグループが特殊詐欺と並ぶ「トクリュウ」の資金源になっているとして、改正風営法の施行前から取り締まりを強化していた。2024年6月までに、「ナチュラル」に次ぐ規模のスカウトグループ「アクセス」の幹部ら12人が逮捕されている。
一方で「ナチュラル」については、7月16日までに職業安定法違反容疑で逮捕した大阪エリアの責任者と見られる男女4人について、捜査の過程で捜査員からの暴力行為が発覚。大阪府警の警察官2人が逮捕される事件も発生した。逮捕した4人の釈放を余儀なくされている。
「逮捕者の顔が大きく腫れていたことで、接見した弁護士が家宅捜索時の録画映像の確認を警察に要請し、事件が発覚しました。携帯電話のロック解除の番号を相手が明かさなかったことに腹を立てて、10発以上も殴ったようです。ガサ入れした拠点事務所が一般のシェアオフィスだったことで、防犯カメラに警察官らの行動が映っていたということです。
身内に逮捕者を出したことで、府警も本腰を入れざるを得なくなりました。ある捜査関係者は、『風俗店は地元業者なので、手控えていたところもあった。しかしこれからは徹底的にやる。絶対につぶす』と息巻いていました」(前出・社会部記者)
釈放されたとはいえ、家宅捜索を受けたことで、大阪エリアの拠点事務所は事実上、運営が停止された状態という。また風俗店も、スカウトからあっせんされた女性はいったん解雇し、スカウト会社との契約も解除。女性は再雇用するなどの手段を講じているという。スカウトグループの存続は、風前の灯火となっている。