社会・政治社会・政治

【戦後80年】NHKスペシャルで話題に…本誌が報じた昭和16年「総力戦研究所」が予言していた「日本必敗」の道筋

社会・政治
記事投稿日:2025.08.19 20:15 最終更新日:2025.08.19 20:15
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【戦後80年】NHKスペシャルで話題に…本誌が報じた昭和16年「総力戦研究所」が予言していた「日本必敗」の道筋

NHKスペシャル『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』で主演を務めた池松壮亮

 

 戦後80年企画としてNHKが8月15、16日の2夜にわたって放送した、NHKスペシャル『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』が大きな反響を呼んでいる。

 

 真珠湾攻撃の8カ月前である1941年4月、首相直属の「総力戦研究所」に日本中から集められた若きエリートたちが、模擬内閣を作り、出身官庁や企業から機密情報を集め、日本が米国と戦った場合のあらゆる可能性をシミュレーションしていく。そして「圧倒的な敗北」の結論を手にした若者たちが、開戦へ突き進む軍や内閣と対峙するという、実話を元にしたストーリーだ。主人公である総力戦研究所の研究員・宇治田洋一役を俳優の池松壮亮が演じ、日本映画界の旗手・石井裕也監督が初の戦争ドラマに挑んだ。

 

 ドラマの原案は猪瀬直樹のロングセラー『昭和16年夏の敗戦』。本誌『FLASH』は 2011年12月20日号で、猪瀬氏をはじめ関係者を取材していた。

 

「半年や1年の間はずいぶん暴れてご覧に入れる。しかしながら、2年3年となれば、まったく確信は持てぬ」

 

 開戦前、連合艦隊司令長官の山本五十六は、首相の近衛文麿(このえふみまろ)にこう伝えたという。つまり、山本は1年以上、米国と戦うのは不可能だと知っていた。それはいったいどうしてなのか。五十六の長男である山本義正氏が当時こう語っていた。

 

 

「父は若いころ、ハーバード大学に留学していましたが、帰国後もあわせれば6~7年はアメリカにいました。知人も多く、アメリカから持ち帰った資料も膨大でした。

 

 いまでも覚えていますが、父の本棚の半分以上がアメリカの歴史書でした。父は誰よりもアメリカという国の国力を知っていたんです。それも、石油資源や工業力だけでなく、教育、政治思想までじつに詳しく調べていました。だから、開戦直前まで反対しつづけたんです」

 

 山本は米国をよく知っていたからこそ、戦争は無茶だと理解していたのだ。

 

 だが、じつは敗北を予言していたのは山本だけではなかった。

 

《12月中旬、奇襲作戦を敢行し、成功しても緒戦の勝利は見込まれるが、しかし、物量において劣勢な日本に勝機はない。戦争は長期戦になり、終局、ソ連参戦を迎え、日本は敗れる。だから日米開戦はなんとしてでも避けねばならない》

 

 これは真珠湾攻撃の3カ月前、政府の総力戦研究所が出した「日本必敗」の結論である。驚くべきことに、この予測は、現実の戦局推移とほぼ同じ流れをたどっていた。

 

 総力戦研究所は昭和15年秋に開所した、内閣総理大臣直轄の研究所である。第一期研究生は、官僚27名と民間人8名の総勢35名で構成されていた。

 

そして、日米戦争を想定した「総力戦机上演習」(シミュレーション)が実施され、「日本必敗」の結論が8月27、28日両日に、近衛や陸軍大臣の東條英機以下、関係者に報告された。

 

 この事実を明らかにしたのが、作家で東京都副知事(当時)の猪瀬氏だ。猪瀬氏の著書『昭和16年夏の敗戦』には、報告を聞いた東條の言葉が書き記されている。

 

「戦というものは、計画通りにいかない。意外裡(り)なことが勝利につながっていく。したがって、君たちの考えていることは、机上の空論とはいわないとしても、あくまでも、その意外裡の要素としたものをば考慮したものではないのであります」

 

 こうして報告は黙殺された。すでに米国は、実質的に日本への石油輸出を禁止していた。ではどうすればいいのか。

 

「ならばインドネシアを占領して石油を確保しよう」という、安易な結論だった。猪瀬氏は、こう語っていた。

 

「このままだと石油のストックは2年間で底をつくと、数字で示されていた。しかし、南方の油田を占領すれば、石油は残るという報告ができあがってきた。目的ありきのたんなるつじつま合わせの数字ですが、結果的に日米開戦反対派の根拠は消滅していくんです」

 

 こうして、“なんとなく”日米開戦が始まった、と猪瀬氏は言うのだ。

 

 今回、振り返られた総力戦研究所。その反省は、いまの時代にも生きるものかもしれない。

12

今、あなたにおすすめの記事

社会・政治一覧をもっと見る