社会・政治
木村草太と新城カズマ「トランプと秀吉は似ている」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.03.16 11:00 最終更新日:2018.03.21 14:47
憲法学者の木村草太と、SF作家の新城カズマが、政治・経済・科学を縦横に巡り、来るべき社会を構想する対談。話はあらぬ方向に行き、トランプ大統領と豊臣秀吉の類似性について語られた。
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木村 アメリカ大統領選では、各種メディアの事前予想に反して、トランプ大統領が誕生しました。既存政党に不満を持つ人たちが、暴言なんかも含めてトランプ氏に熱狂し、その様子に関して「トランプ現象」なんて言葉も生まれました。
トランプ現象をどう理解すればいいのだろうと思っていたときに、新城さんがツイッターで、「調べれば調べるほどトランプって秀吉と似てる」とおっしゃっているのを目にしたんです。「これはおもしろそうだ」と感じて、もっと話を伺いたかったんです。
新城 いまの普通の人がイメージしている秀吉像って、「人たらし」で「明るくて」とかいうことになっていますけど、あれはほとんどすべて、司馬遼太郎がつくったキャラ設定なんですよ(笑)。そこから離れて、歴史学で解明されてきている実際の豊臣秀吉について調べていくと、トランプ氏と本当に似てる部分が多いんです。ざっとキーワードを並べると、「金ピカ大好き」「女性好き」「再開発」「景気浮揚策」「壁」。
まず、「金ピカ大好き」。これはそのまんま。秀吉は大坂城とか実に巨大なものをつくっています。トランプもトランプタワーで有名ですし、それ以外にも、やたらと大言壮語したがる。「女性好き」も、まぁ、そのままですね。
あと、「再開発」と「景気浮揚策」に熱心。秀吉は京都に御土居(京都を囲む土塁)をつくったりとか、あるいは聚楽第をつくったりとか、あるいはお金をばらまいたりとかして、当時の畿内の地域経済には非常にプラスに働いたとは思うんです。トランプ氏も、大統領選の勝利宣言演説で、インフラへの積極投資、つまり、高速道路や橋、トンネル、空港などを建設して、雇用を創出すると強調しています。大幅な減税も公約しているので、景気向上への期待が高くなっています。
「壁」っていうのも、秀吉のやった御土居って、まさに京都を囲む壁なんですよね(笑)。御土居については、一般的には「京都を守るため」だと思われているようですが、本当のところは、「京都から帝を出さないため」の防護壁だったんじゃないかと私は妄想していまして。トランプ氏も、メキシコ国境に壁をつくるっていうので当選したわけです。
木村 確かに、やっていることが不思議なくらい一致するんですね。
新城 あと、「自分自身の理想像を演じたがる」というところも似ているんです。トランプ氏は1987年に自分の「自伝」をゴーストライターに書かせている。もうこの時点で変な人なんですけど、そもそもが自分に対して批判的なライターをつかまえてきて、「お前なかなかおもしろそうな奴だ、やってくれ」って言って書かせたという。
そこで書かせた内容が、当時のトランプの実像とかけ離れた「理想的な若手実業家のトランプ」、理想的なニューヨークの再開発業者・不動産業者なんですね。彼はそれをえらく気に入ったらしくて、90年代以降のトランプは、本に書かれた理想像を演じているのではないかと思うような行動をとっている。
一方、秀吉は、明智光秀を倒したり、柴田勝家を倒したり、九州を征伐したりっていう、自らの戦功というか時事ネタを題材に、部下にわざわざ新作の能として脚本を書かせて、しかもそれを帝の前で自分で舞っているんですよ。本人は喜々としてやっていたのではないかと思うんですけども、これはかなりキテるキャラだと思いますね。見られていることが快感になっているような。
もちろん違うところもたくさんあるんですけども、似ている部分も多いので、今後のトランプ政権を予測するきっかけにはなるのかなと思います。
木村 当時の文脈だと、まあいまでも続いているんですが、「ブレグジット“Brexit”」(イギリス“British”のEU離脱“Exit”を意味する)や、フランスの右翼政治家のルペン氏といったものを象徴する、「ポピュリズムの親玉」みたいなものとしてトランプを捉える論説がかなり有力だった。そんな中で、「トランプ氏は秀吉じゃないか」っていう視点に、すごく目を見開かされたんです。我々には豊かな歴史の蓄積があるので、相似形を探すときに、いま起きている現象から探す必然性はないんだと気づかされた。
私が最初に見た2016年11月9日のツイートでは、「注視すべきなのは…『誰が側近/茶坊主/寵臣として勝ち残るのか?』」と新城さんは書かれていた。つまり、秀吉は成り上がり者なので、自分だけですべての政務をつかさどれるような能力は持ってない。そうすると、秀吉に耳打ちする人、いわば側近になる人間が実際には政治を動かすことが多くなる。この構造も、秀吉政権とトランプ政権が非常によく似通る可能性があるんじゃないかと。
新城 トランプ氏には、従来の大統領候補者のような専門のスタッフはいないでしょうね。
秀吉も何だかんだ言って現場たたき上げですから、当初は家臣団もいなかった。当時の戦国武将は、「下克上」と言いつつ「中克上」ぐらいなところなんですよ。本当に一番下から一番上まで行ったのは秀吉だけ。家康だって家臣団がちゃんと三河にいましたし、織田の一門だって守護代のそのまた家臣ぐらい。つまり、子どものときから文字も書けりゃ、お茶も飲めるし、その彼のために死んでくれる部下が100人ぐらいはいたはずです。でも秀吉は本当にゼロから始めてトップまで駆け上がったし、いつごろ文字が書けるようになったかも、よくわからない。
木村 アメリカ大統領で言うと、たとえばビル・クリントン氏が当選したときは中克上みたいなところがありましたよね。当時の民主党内では、超エリートのゴア氏が有力だった。でも、ゴア氏を温存してクリントン氏を立てたら、すごく当たった。ただ、ゴア氏のような超エリートではないにしても、クリントン氏がまったくのたたき上げかって言うとそうではありません。
新城 そうですね。アーカンソー州知事をやっていたんで、大きな行政組織をまわした経験はあった。大統領になったときには、アーカンソーから州知事時代のスタッフを持ってこられた。
木村 トランプ氏はそれがまったくないところが、秀吉とよく似ている。
新城 そうなんです。だからこそ人事で大揉めに揉めるんですけどね。
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以上、木村草太氏と新城カズマ氏の新刊『社会をつくる「物語」の力〜学者と作家の創造的対話』(光文社新書)より引用しました。憲法学者とSF作家の希有なコンビが、『1984』『指輪物語』『飛ぶ教室』などの名作を参照しながら縦横無尽に語り合います。
●『社会をつくる「物語」の力』詳細はこちら
https://smart-flash.jp/shinsho-guidance-80/