社会・政治
【ウ露首脳会談、実現か】プーチン“一発逆転の秘策”は「アメリカのNATO脱退」か…トランプが“再び”騙される日

8月16日(日本時間)に会談した、プーチン大統領とトランプ大統領(写真・共同通信)
「2週間以内に、結果が出るだろう」
トランプ米大統領は、こう自信をにじませた。ロシアによるウクライナ侵攻から3年半。和平合意の実現について期待を示したのは久しぶりのことだ。今、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の関係が“動いた”と囁かれている。
「トランプは8月16日(日本時間)にプーチンと会談。次いでゼレンスキーとも19日に会談を果たしました。同じ日、欧州首脳も同席し、いよいよ停戦が実現するかと見られるなか、注目は『ロシア・ウクライナ首脳会談』の行方に移っています」(国際部記者)
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トランプ大統領は停戦後のウクライナへの安全の保障について、ヨーロッパ各国が地上部隊を派遣し、アメリカは航空戦力などで支援する可能性を示した。ゼレンスキー大統領はこの会談後、「国土を含むすべての敏感な問題について首脳レベルの三者協議で議論する。トランプ大統領はその調整を試みている」と発言しており、プーチン大統領を交えた協議に意気込んでいる。大和大学社会学部教授の佐々木正明氏は、今回のふたつの会談をこうみていた。
「今回ウクライナ側の最大の成果は、戦後に強固な安全保障体制を組めそうだ、という見通しが立ったことでしょう。ウクライナとしてもっとも避けなければいけないのは、停戦後に再度ロシアが侵攻してくること。停戦したロシアは再軍備を整え、占領地を足がかりにしてキーウを目指し、全土制圧を狙ってくる恐れがある。これを避けるための最良の選択肢が米国の関与でしたが、それがどうやら取りつけられそうだ、というのはウクライナの戦後復興にも寄与するでしょう」
一方、プーチン大統領にとっては、米軍の直接関与はなんとしても避けたいところだ。
「戦争の長期化で、ロシア国内には経済的な見通しに暗雲が広がっています。戦争の出口戦略としてトランプと交渉し、いくらかでもいい条件で幕引きを図りたいのでしょう」(同前)
出口戦略に失敗すればプーチン政権にも綻びが出るが、「ロシア・ウクライナ首脳会談」実現の見込みは高くない。ゼレンスキー大統領が「我々は用意ができている」と語る一方、懸念されるのはプーチン大統領の強硬姿勢だ。トランプ大統領も「彼(プーチン)が取引を望まない可能性もある」と、会談不成立の恐れを示唆している。佐々木教授が続ける。
「私もこれまで、プーチンとゼレンスキーの会談は実現しないとみてきました。プーチンは『ゼレンスキー氏は正式な大統領ではない』と言い続けてきたからです。実際、ウクライナでは戒厳令下で大統領任期を延ばしている事情があります。もっともプーチンの本音としては、たんに“格下のコメディアン”と対等に会うことは沽券にかかわる、ということでしょう」
しかし、それでも一応、会う可能性をちらつかせているのは、譲歩の兆しでもある。
「実際、プーチンはトランプとの会談後、サウジアラビアの皇太子やトルコの大統領に電話をかけています。これは会談場所としてサウジやトルコを想定しているのではないか、と私はみています。というのも、両国は国際刑事裁判所(ICC)の加盟国ではなく、プーチンはICCから戦争犯罪容疑で逮捕状を出されている身です。加盟国に入国すれば逮捕されるリスクがあるため、それを避けたい思惑があるのでしょう」(同前)
あくまで安全な場所で会談を望むプーチン。拓殖大学海外事情研究所の名越健郎客員教授は、その狙いをこう分析する。
「プーチンとしては、本来の目標であるウクライナ属国化をいったん置いて、従来の要求である『ドンバス地方の割譲』が実現すれば、停戦をまとめたいのです。停戦後には、ウクライナで大統領選挙があります。ロシアはそこに世論誘導を仕掛け、ゼレンスキーを落選させたい。次の指導者は、ゼレンスキーでなければ誰でもいいというのがプーチンの本音でしょう。新しい大統領は、停戦後はどうしてもロシアに配慮せざるを得ず、前任者のような徹底した反ロシア派にはなりえません。プーチンはその点を見越しているはずです」
筑波大学の中村逸郎名誉教授は、プーチンの秘策についてこう語る。
「これはウクライナ側の分析ですが、仮に米露宇の3カ国会談がおこなわれても、ゼレンスキーは蚊帳の外に置かれ、実質は米露が停戦の主導権を握る形になる可能性があります。プーチンは、任期の切れたゼレンスキーを正統な指導者と認めておらず、条件はトランプ経由で伝えられる“伝書鳩会談”となりかねないのです。その場合、ゼレンスキーが署名することなく、米露首脳の名で停戦協定が結ばれることになるでしょう」
では、その場でプーチンが突きつけるものはなんなのか。中村教授は、8月20日に確認されたNATO(北大西洋条約機構)のウクライナ支援を引き合いに出す。
「プーチンが停戦の条件として突きつける最大の要求は、アメリカのNATO脱退でしょう。ロシアは侵攻を『NATOの脅威に対する自衛』と正当化してきましたし、プーチンの敵意は今も根強い。一方トランプも、第一次政権時代から脱退を示唆してきました。もし65%以上の軍事能力を提供するアメリカが抜ければ、NATOは機能不全に陥り、西側の圧力は急速に弱まる。プーチンはそこに活路を見いだし、米露による停戦合意に持ち込むはずです」
英「フィナンシャル・タイムズ」は5月の記事で「プーチンは和平に努力していると装い、トランプはそれに騙されている」と論じていた。はたして今回も、米大統領は“独裁者の術中”にはまるのかーー。