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名物クマ「岩尾別の母さん」が登山者を襲った理由…地元では「久々の出産で神経質になっていた」との憶測も

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記事投稿日:2025.08.26 19:14 最終更新日:2025.08.26 19:14
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
名物クマ「岩尾別の母さん」が登山者を襲った理由…地元では「久々の出産で神経質になっていた」との憶測も

2025年4月に撮影された「岩尾別の母さん」(中島拓海氏提供)

 

「熊の嗅覚は犬よりも優れているそうで、お願いしたガイドさんからは『登山道内ではスナック菓子などは絶対にリュックやカバンに入れない』『飲料も水かお茶だけ』『ジュース類は禁止』という注意を受けました。それでも “人間の食べ物を知ってしまった熊” を完全に避けられるわけではないんです」

 

 こう語るのは、2024年10月に知床国立公園を訪れ、今回、本誌に駆除された母熊と子熊の写真を提供してくれた、不動産コンサルタントの中島拓海氏だ。

 

 

 北海道斜里町の羅臼岳登山道付近で8月14日に発生したヒグマによる人身事故について、21日に公益法人知床財団が調査速報を公表した。

 

 それによると、事故発生地点は、羅臼登山道入り口と山頂の間にある「岩峰」(560m)の南側で、登山道が巻くように配置された狭い区間とのことだ。山頂から登山口へ降りて進んだ場合、《岩峰の陰で見通しが悪い》との記載もある。

 

 被害にあった男性は同行者から離れ、単独で走って移動していた可能性が高いという。熊鈴やクマよけスプレーを携帯していたというが、調査速報によれば、スプレーは《ヒグマに対応した製品ではなく、かつ再利用品であった》とのことだ。ヒグマに襲われたあと、スプレーの使用を試みたが、噴射はできなかった。

 

 事故を取材した地元紙記者が、こう解説する。

 

「被害者は、山道など未舗装の道を走る『トレイルランニング』中にヒグマと遭遇したようです。現場は岩尾別コースの登山道入り口から羅臼岳頂上に続く約13kmの登山コースで、襲撃された地点は、ヒグマのエサとなるアリの巣が多数ある場所です。アリを食べるために来たヒグマと、被害者が鉢合わせしたと思われます。

 

 襲撃現場で同行者が目撃したヒグマは1頭ですが、翌15日13時6分、捜索隊が被害者を咥えたまま斜面を移動している母熊と子熊2頭を発見。先に母熊を射殺し、2頭の子熊も射殺しました。射殺後のDNA鑑定で、前日の被害者を襲ったヒグマと確認されました」

 

 一部報道では、ヒグマは「岩尾別のお母さん」と呼ばれる個体であったという。調査速報では、具体的なニックネームで呼ばれていた事実はないとしているが、現地ガイドや観光客、写真愛好家らの間で、よく目撃されるヒグマとして有名な存在だったという。

 

 前出の中島氏は、「ガイドさんからも、『これまでに問題行動のない、人慣れしたヒグマだ』と聞いていました」と言う。

 

「私が運転中のクルマから目撃したときは、対向車線から向かって歩いてきたのですが、特にこちらに関心を向けることもなく、ゆっくりと歩いて通りすぎました。写真を現地ガイドに見せたところ、『岩尾別のお母さん』と呼ばれるヒグマだと。

 

 ただ、ここ2~3年は子供を産んでいないとも聞きました。子連れの写真は2025年4月のもの。地元の方は、『今回の事故は久々の出産で神経質になっていたのかも』と言っていました」

 

 岩尾別ルートは標高差が少なく、距離も短いため、事故当時100人以上の登山者がいたともされる。また、同公園内に生息するヒグマについては、正確な実数はわからないという。

 

 つまり、事故は起こるべくして起き、しかも、別の個体も含め、登山道にいたすべての人が襲撃される可能性があったことになる。元秋田県庁職員でフリーの熊研究家である米田一彦氏もこう警鐘を鳴らす。

 

「ヒグマはアリを食べに来ていたはずです。今回の事故は、そこに人間が急に近づいてきたために起きた事故だと思います。アリは、登山道や道路脇にも巣を作っているんです。母熊は、経験から人間と関わりたくないはずですが、子熊は人間を知らないので騒ぎます。そうすると、当然、母熊は子熊を守る行動に出ます。

 

 もともと岩尾別登山口から羅臼岳頂上はヒグマの密生地で、オスのヒグマは奥にエサ場を待ちますが、母熊や子熊、若い熊はどうしても、人間に近いエサ場しか確保できない事情もあります。

 

 いずれにしても、登山道を歩くならヒグマと遭遇しない方策はありません。登山者は万一のための装備と熊から身を守る正しい知識、さらに “いざというときの覚悟” は絶対に必要です。身を守るにはそれしかありません」

 

 たとえ現地で知られた人慣れグマだとしても、完璧な用心は存在しないのだ。

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