社会・政治
【過去最悪ペース】相次ぐクマ被害 必要なのは「凶悪犯の“捜査”と“取り締まり”」専門家が指摘する“真の対処法”

2025年4月に撮影された「岩尾別の母さん」(中島拓海氏提供)
日本全国で、クマによる被害が2025年も頻発している。環境省のデータでは、2025年の4月から7月までのクマによる被害者数は55人。そのうち、死亡者は3人となっている。
「過去最悪といわれた2023年の同時期は、56人の被害者のうち、死亡者はひとりでした。このペースだと、記録更新は間違いない状況です。
とくに、すでに起きた3件の死亡事故はまさに“惨劇”です。7月4日、岩手県北上市の住宅で81歳の女性が死亡。食料を狙って家のなかに侵入し、高齢女性を殺害するという凶悪事件です」(社会部記者)
全身には動物の爪の跡のような傷が無数につき、被害女性は居間で血を流して倒れていたという。
「現場周辺では頻繁にクマの姿が目撃されており、警戒を強めているなかで起きた事件です。7月11日に同地区でオスのクマ1頭が駆除され、DNA鑑定の結果、女性を襲ったクマであると断定されています」(同前)
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さらに、7月12日には北海道福島町で、新聞配達員の52歳の男性が茂みのなかで倒れ、死亡しているのが発見された。18日に同町内でヒグマが駆除されたが、DNA鑑定の結果、このクマが男性を襲ったものと断定。さらに、同じクマが2021年に同町で77歳女性を襲って死亡させた個体と同一であることも分かった。“シリアルキラー”だったということになる。
そして、8月14日。北海道斜里町の羅臼岳付近で「友人の男性がクマに襲われ、引っ張られていった」と登山者から警察に通報があった。後に遺体で発見されたのは、東京都墨田区の26歳の会社員男性だった。
「死因は“全身多発性外傷による失血死”でした。狭い登山道を走って下山中にクマと鉢合わせし、襲われたようです。後から来た同行者の友人がクマを引き剥がそうとしたものの、そのまま引きずられていったといいます。事件の翌15日に、捜索救助隊が2頭の子グマを連れて、会社員を引きずりながら移動する母グマを発見、駆除しました。襲撃したクマは体長140cm、体重117kgの11歳で、人前によく現れるクマとして知られていました。地元のガイドや愛好家の間では『岩尾別の母さん』と呼ばれて親しまれていたようですが……」(前出・社会部記者)
なぜ、2025年はクマによる被害が急増しているのか。野生動物の生態に詳しい岩手大学農学部地域環境科学科准教授の山内貴義氏に聞いた。
「夏は、クマにとって餌がない時期なんですよ。通常の年でも餌が少ないのに、今年は猛暑で山の餌の生りが悪かったみたいで、人里に出やすい状況になっています。あとは、よく言われているようにかなり“人馴れ”しているクマが多くなってきています」
“人馴れ”とは、人に親しみを持ったり、じゃれつくというような“優しい言葉”ではない。むしろその逆で、人を“恐れなくなっている”ということだ。
「人馴れしているクマは、餌の多い少ないにかかわらず、頻繁に人里に出てきます。人間の作物やゴミなど、人間の生活に依存しているんです。普通、野生動物は人間のことが怖いので、近寄りません。しかし、いまは若い個体を中心に、そういう人馴れしているクマが増えているようです。人間のことは完全に舐めきっている“悪いクマ”ですね」(山内氏)
こうしたクマが出やすい理由は、猛暑といった自然環境だけが原因ではない。地方の“衰退”も関係しているようだ。
「まず、人口減少ですよね。農業人口が減ったことで、地方には耕作放棄地が増えています。放棄地は雑草が生えて、人里に近いものの、森のような状態になってしまう。そうなると、野生動物が山からやってきやすいですよね。彼らからすれば、いざ街に出てくると、人もあまりいないし、ゴミなども含め“おいしいもの”がたくさんあるという状況です。それを学習しちゃってるんですね」(山内氏)
また、ハンターの数が少なくなり、野生動物に対する“圧力”が少なくなっているのも原因のひとつではないかと指摘する。
「多くのハンターの標的は、獣ではなく鳥ですからね。あとは、補助金をもらえるということで、シカやイノシシを狙うこともありますが、やはり全体的にハンターの数が減っている影響は少なからずあります。これはここ1、2年ということではなく、長期的な影響です」(山内氏)
では、これ以上クマ被害を増やさないためにはどうすればいいのか。山内氏が提案するのは、まるで警察が指名手配犯を追い詰めるような“捜査”と“取り締まり”だ。
「いままでは、見通しをよくするために雑草を刈ってくださいとか、電気柵を設置してくださいとアドバイスしていたのですが、そんな生ぬるい対策ではダメでしょうね。
たとえば、北上市の事件なんて、“凶悪犯”による“強盗殺人”ですよね。人間なら無期懲役か死刑です。そういう一線を超えた大胆なクマについては、積極的に取り締まる必要があるんです。たとえば、先手を打つようにパトロールを強化したり捕獲を強化するのはもちろん、DNA検査も積極的に取り入れて、街中に出てきたクマの落ちている毛などを採取し、個体の特定を進めて犯人を特定するとか、登山口そのものを閉めてしまうとか、そういう対策が必要です。
北上市では、事件前にクマが家に入り込んで米を食べていたり、福島町の事件でも相当数、目撃情報がありました。羅臼のクマも、執拗に後を追ってくるなどの問題行動を起こしていたといいます。そういった前兆があれば、今後は警戒レベルを上げて“犯罪を犯しそうなクマ”を取り締まるべきでしょう。これまでの受け身を中心とした対策では、国民を守れないですよ」
人間社会の犯罪捜査と同じような対策が必要になるというわけだ。東京も危険な兆候があると、山内氏は指摘する。
「東京でも、郊外は緑が多いです。大きな公園や学校、神社、そういう緑の多い場所では、柿の実や、栗や木の実が普通に生ってますよね。それと、川のまわり。川の周辺は草が繁茂していますし、山から海までつながっている。緑に紛れて、クマが下ってくる可能性はありますよ。これから秋に向けて、クマは活発的になりますから、多摩地区などは危険かもしれません」
くしくも23日、東京の奥多摩町で、渓流釣りに訪れていた男性がクマに襲われて顔を引っかかれ、ケガをした。青梅市や日の出町でも、クマの目撃報告が相次いでいる。“凶悪犯”が東京で暴れる日も近いというわけだ。ではもしも、出会ってしまったらどうすべきなのか。
「基本的には人間の存在を嫌がるので、まずは“存在”を知らせることが大切です。熊鈴を鳴らすとか、ラジオをかけて歩く、笛を吹くなどですね。
私も調査などで山に入るので、クマには年中、遭いますが、距離がある状態で、向こうがこちらの存在に気がつけば、警戒するのでそんなに危ないことはないんです。目線が合った場合は、目をそらさずに後ろに下がって距離を広げる。人間が離れていけば、クマも離れていきます。
いちばん危険なのは、バッタリと至近距離で遭ってしまうケースです。クマを驚かせると、興奮して襲ってくることがあります。大声や、花火で追っ払うとか、そういう刺激を与えることはしないほうがいいです。もし至近距離で出会ったとしても、同じように目を離さずに、ゆっくり下がっていくのが正解。距離を取ることもできず、どうしようもない状況になったら、うつ伏せになって首を腕でガードして、クマが通りすぎるのを待つしかありません」(山内氏)
想像するだけで恐ろしい状況だ。“不幸な出遭い”を避けるためにも、行政がしっかりと対策を進めるべきだろう。