社会・政治
「創業家ですらものが言えない風土に」新浪剛史氏、サントリーでの“功罪”…須田慎一郎氏が語る「プロ経営者」の“素顔”

9月3日、経済同友会の代表幹事として記者会見に臨む新浪剛史氏(写真・共同通信)
サントリーホールディングスの代表取締役会長だった新浪剛史氏の突然の退任が発表されたのは、9月2日。同社の鳥井信宏社長と山田賢治副社長が緊急会見を開き、前日に新浪氏が辞任したことを公表した。
発端は「違法サプリメント購入疑惑」だ。新浪氏が大麻の有害成分が含まれるサプリメントを、米国から輸入した疑いで、8月22日に麻薬取締法違反事件の捜査として、同氏の都内自宅が家宅捜索されたという。
だが、自宅からは違法な製品は見つからず、尿検査でも陰性の結果が出ている。3日に経済同友会の会見に登場した新浪氏も「法は犯しておらず、潔白だと思っている」と明かした。新浪氏はサントリーの会長の職は「会社の判断に従い」辞したと語ったが、経済同友会の代表幹事は継続するという。
ローソンの立て直しに尽力し、その後サントリーに移った新浪氏。2014年に創業家以外では初めてサントリーの社長に就任し、約10年にわたってトップを務めた。2024年1年間のグループ決算では、売上、営業利益ともに過去最高を達成するなど、華々しい業績を上げていた。だがその裏で、“副作用”もあったのかもしれない。
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経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、新浪氏をこう評価していた。
「新浪氏については、名実ともに『プロ経営者』と呼ぶにふさわしい人でしょうね。経営者としての失敗は、今のところ特に見当たらないんです。功績としては、ローソンとサントリーの立て直し。サントリーでは、海外戦略を強く打ち出して、業績を急激に拡大して行ったわけです。
さらに、経済同友会というどうしても経団連の陰に隠れてしまいがちな経済団体の情報発信力を、経団連並みに、あるいはそれ以上の存在にした。そういった意味でいうと、名実ともに、経済界、財界をけん引していったということで、非常に『功』の部分が多かったのだと思います。
一方で、強引な企業運営というところで、社内で相当な反発が出ていたということも、間違いないと思います。私の聞いているところでは、怒鳴り散らすとか、スマホを投げつけるようなこともあったといいます。また、その実績から考えると当然なのかもしれませんが、新浪氏の権限が絶対的になりすぎて、社内でも誰もものが言えないという企業風土に変わっていったとも聞いています。
私も2度新浪氏にインタビューしたことがありますが、話口調は立て板に水。すらすらと的確な論点でお話しされますよ。自分に絶対的な自信があるのでしょう。一方で、反論は許さないような、違う意見を言うと少し不機嫌になるような印象はありました。
つまり、数字や実績においては『プロ経営者』なのですが、人間性の面で周囲が付いてきていたのか……。少なくとも私の周囲では、理想の上司像とは違っていたようです」
創業家との確執はあったのだろうか。2日の会見では、鳥井社長から「(新浪氏と)二人三脚でやると言ったのに非常に残念だ」との言葉も出ていたが……。須田氏が続ける。
「新浪氏の就任後は、創業家である鳥井家、佐治家とは当然確執があったと思います。経営の主導権は、明らかに新浪氏にあるわけですから。創業家側にもそれなりの自負はあるでしょうから、本来はそちらが絶対権力者であるはずなのに、それでも物申せないような空気感があったといいます。
しかし、だからと言って新浪氏の退任でサントリーに甚大な影響が出るかと言ったら、そんなことはないと思います。あれだけの大企業ですからね」
業績を上げた半面、今回の辞任劇でイメージダウンの影響は避けられないサントリー。新浪氏の10年は、果たして成功だったのか……。