社会・政治
小泉進次郎農水相の総裁選出馬報道で浮かび上がる“重鎮たち”の主導権争い…「解党的出直し」阻む動きに党内からも疑問の声

7月23日に石破茂首相、森山裕自民党幹事長との5者会談を終えた後の(左から)麻生太郎党最高顧問、菅義偉副総裁、岸田文雄前首相(写真・長谷川 新)
小泉進次郎農林水産相が10月4日投開票の自民党総裁選への出馬の意向を固めたという。9月12日、産経新聞を皮切りに報道各社が伝えた。来週にも正式に出馬表明する予定だ。
小泉氏をめぐっては、「今回は出馬を見送るのではないか」(自民党関係者)との見方も出ていたが、出馬することを決断したようだ。
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これで、10日に出馬表明した茂木敏充前幹事長に続き、小林鷹之元経済安全保障担当相、高市早苗前経済安全保障担当相、林芳正官房長官、そして小泉氏が出馬表明することになる。5人とも2024年9月の総裁選に立候補している。
自民党は9月2日に発表した参院選大敗を総括した報告書のなかで、「解党的出直しに取り組む」ことを誓った。“新生自民党”に生まれかわるためには当然、新総裁選びは慎重に行われるはずだ。しかし、今回の総裁選をめぐり、「解党的出直し」に疑問符がつくような自民党重鎮たちの動きが浮かび上がっている。
まず、小泉氏の後ろ盾である菅義偉党副総裁について、ある自民党ベテラン議員がこう話す。
「今回の出馬に不安を抱えていたのは小泉氏自身だと聞いています。官房長官や外相などの要職を経験していないため、自分に首相が務まるかどうかで悩んでいたようです。昨年の総裁選で急失速した経験もありますからね。小泉氏の総裁選出馬を支える旧岸田派の木原誠二衆院議員や村井英樹衆院議員らは出馬を促していましたが、小泉氏がなかなか決断を下せない状況のなかで、最後に背中を押したのが菅元首相だったようです。
菅さんは小泉氏を将来首相にしようと若い時から面倒を見てきました。そうしたこともあり、菅さんは自分が元気なうちに進次郎総理大臣を見届けたいという強い思いがあった。言い方は悪いかもしれませんが、小泉氏本人の意思よりも自分自身の願望を優先させたとも言えます。党内には自民党再生のためには小泉氏に要職を経験させたうえで、本格的長期政権を目指すべきという意見もあったようですが、菅さんがそうした助言を聞き入れることはありませんでした。菅さんは今しかないと判断し、小泉氏もそれに乗ったというわけです。候補者討論会などで小泉氏にボロが出なければいいのですが…」
次に自民党に唯一残る派閥である麻生派43人を率いる麻生太郎党最高顧問について、自民党担当記者が言う。
「9月5日に麻生氏と茂木氏が都内の日本料理店で3時間ほど会食し、意見交換しました。その場で麻生氏は茂木氏を派閥全体で支援すること約束したようです。ところが、この話を派閥の議員たちに伝えたところ、議員たちの反応が悪すぎて、派閥全体で茂木氏を支援するわけにはいかなくなり、麻生氏は頭を抱えているそうです。
派閥のパーティー券収入をめぐる“裏金問題”で派閥政治とおさらばしたはずの自民党ですが、麻生氏はいまだに派閥政治を引きずっており、『解党的出直し』にプラスになるとは到底思えません。麻生派内からも『いつまでこんなことやっているんだ』と呆れる声が漏れ聞こえてきます」
2024年の総裁選では、高市氏との決選投票において石破茂首相の逆転勝利を演出したのが岸田文雄前首相だ。決選投票で岸田氏は石破氏へ投票するよう派閥議員に促していた。今回も岸田氏の動向が注目されるなか、旧岸田派(宏池会)元座長の林氏は8日、岸田氏のもとを訪れ、立候補を伝えた。また、11日には高市氏も岸田氏の議員事務所を訪ね立候補を伝えるなど、“岸田詣で”が続いた。
その岸田氏について、宏池会関係者はこう言う。
「宏池会では以前から“エース”は岸田さんではなく、林さんでした。林さんが長らく参院議員だったこともあり、先に岸田さんが首相になりましたが、岸田首相はあくまでも林さんへのつなぎでしかないというのが、宏池会の捉え方です。
そうした事情もあって、岸田さんは林さんに対する嫉妬心が根強い。林さんが出馬するのに、旧岸田派の若手が小泉氏を支援することを止めようとしていませんからね。普通なら自派閥の“エース”を全面支援するのが筋です。しかし、岸田さんは林さんへの嫉妬心から素直になれないようです。そうした個人的な感情を持ち出すのはいかがなものかと思いますけどね。岸田さんは『高市さんだけはダメだ』と言っているため、最終的には小泉氏を支持するとは思いますが……」
小泉氏が出馬しない場合は、林氏と高市氏の争いが軸になるとみられていたが、小泉氏が出馬することにより、総裁選は小泉氏と高市氏が軸になりそうだ。
前出のベテラン議員はこうした“3人の重鎮”たちの暗躍ぶりについて、疑問を投げかける。
「“重鎮たち”は天下国家を論じるのではなく、主導権争いとか、自分たちの個人的な事情や野望、願望のために総裁選を利用しているようにしか見えません。こうした動きは『解党的出直し』を誓ったわが党にはまったく必要ありませんし、邪魔でしかないと思います。
いつまでも党内政局で主導権争いをしている場合ではないでしょうし、このままでは今以上に国民からそっぽを向かれるでしょう。政治には権力闘争がつきものとはいえ、個人の感情は抑えるべきだと思いますね」
来週中には立候補者が出そろい、9月23日に自民党本部で候補者共同記者会見、翌24日には日本記者クラブ主催の候補者公開討論会が開かれる予定となっている。
自民党は総裁選を通じ「解党的出直し」の精神を国民に見せることができるのだろうか。