
武部勤氏(写真・共同通信)
10月10日、公明党の斉藤鉄夫代表が「いったん白紙にして、これまでの関係に区切りをつけます」と、自民党との連立から離脱を発表し、政界に激震が走った。連立政権でも衆参両院で過半数割れの状況だった高市早苗総裁率いる自民党は、さらなる苦境にさらされることになった。
この状況を重鎮OBはどう見ているのか。2004年9月、小泉純一郎総理総裁のもとで幹事長に就任、「偉大なるイエスマン」を自認して党の舵取りを担い、高市総裁とは「長いお付き合いになります」という武部勤・元衆院議員に話を聞いた。
「熱意と信念のある政治家で、よく勉強をされていますよ。仕事を離れると、楽しく明るい女性。冒険心、好奇心がとても旺盛です」と高市総裁の人柄を評する。
武部氏は公明党の連立離脱に、どのような印象を持っているのだろうか。
「昨年の衆院選、そして今年の都議選、参院選の結果が大きく影響していると思います。自民党も公明党も大きく負けましたから。
そうしたなか、長いあいだ友党だっただけに、『我慢すべきところは我慢して、気を使わなければいけないところは使う』ということが、高市さんに限らず、自民党全体に欠けていたのではないでしょうか」
自民党が昨年の衆院選で大敗する原因となった “裏金問題” など、これまでの積み重ねが背景にあることを指摘する。一方で、「高市総裁」の保守的な政治スタンスを公明党が受け入れられなかったのではないか、という報道もあるがーー。
「今回の離脱は、決して高市さんが原因ではないと思っています。長い付き合いになってくると、お互いのわがままが出たり、礼を失したりするものです。自民党も政策などで我慢や譲歩をした部分はあったでしょうが、違う党なのですから、思いやりを大切にしなければいけなかったのだと思いますね」
「思いやり」については、自身の幹事長時代、公明党との付き合いを回想しながらこう語る。
「当時、公明党の幹事長は、2011年にお亡くなりになった冬柴鉄三さんでした。私が幹事長に就任したとき、真っ先に自宅にお祝いの電話をくださったのは、冬柴さんの奥様です。私の妻が電話を受けたのですが、そうした関係性で、一緒に家族旅行にも行きましたね。冬柴さんには、本当に助けられました。
家族旅行がいいとかではなく、そうした『深いところでの付き合い』が、いまそれぞれの党の議員にあったのか。それはずっと心配していました。連立与党として自民党、公明党それぞれの議員が『人間的な信頼関係』を大切にしていなかったのかもしれません」
26年に及ぶ自公連立政権に終止符が打たれ、政局は混迷を増していくなか、今後、高市総裁はどのように党、さらには政権を運営していくべきなのか。
「まずは人事に気をつけてほしいですね。今後、総理大臣になったら閣僚人事が始まりますが、仲がいい議員の起用を優先するより、(摩擦を生まないためにも)自身と “距離” のある人を多く起用することが大切です。
そして、今後の国会は多党化になります。そうなればなるほど、お互いの存在を認めなければいけない。最初は大変だと思いますよ。だけど、お互いを尊重して、法案も賛成が得られるように知恵を出し合い『一緒に考えましょう』と、賛成に向けて努力することです。
違いを探すより共通点を探す。今国会は、そうした政治に向けての転換点になるだろうと思っています」
自民党は日本維新の会と接近。協力体制を敷くことになると見られるが、「自民党とは基本政策も近く、個人的に維新の会には親近感を持っている」と好意的だ。
「これまで日本維新の会と高市さんは付き合いがあまりなく、疎遠だと言われてきましたが、菅義偉元首相、小泉進次郎農林相とパイプがありますから心配していません。
選挙も維新の会は大阪がおもな地盤になっていますから、仮に選挙区調整になっても難しくなさそうです。国会が『分断』から『協調』に変わる兆しを感じさせてくれる協力体制です」
また、参院では「NHKから国民を守る党」の斉藤健一郎議員が自民党の会派に加わった。この報道にはSNSなどで自民党やNHK党を批判する声もあるがーー。
「NHK党の情報はあまり持ち合わせていませんが、自民党は『党の考え方に賛同してくれる人は迎え入れる』という懐の深さがありますから、なにかしらの共通項を見つけたのだと思います」
他党とも協力しあう「懐の深い」自民党としての姿を見せることができるかーー。