
銀座にある「クラブ由美」のオーナー・由美ママ(写真・福田ヨシツグ)
「人の品性を『人品』というように、お酒の飲み方にも『酒品』があるんです」
こう話すのは、銀座にある「クラブ由美」の伊藤由美ママ。多くの政治家や財界人、芸能人などが足しげく通う “銀座の超一流クラブ” のオーナーママを40年以上務める。
「お酒は楽しく飲むもので、ウサを晴らすものではないんです。お酒の飲み方ひとつ、酔い方ひとつに、その人の品性、品格は表われます」
長年、銀座の社交場で一流人の飲み方を見てきた由美ママ。特に印象に残っている政治家を聞いてみると……。
「安倍(晋三)さんは明るいお酒の飲み方で、まわりもパッと明るくなるんです。最初は体調のせいもあってか一滴も飲めなかったのですが、第二次安倍政権前ぐらいから、けっこう飲めるようになっていました。ただあまりお強くはないので、まわりの方が飲むのを見て楽しんでいましたね」
安倍元首相はカラオケが好きで、特に伊勢正三が大好きだったという。
「『正やんに会いたい』とおっしゃるので、『会う前に歌の練習をしよう』という話になったんです。私の店で練習をしてから、正やんにお会いして歌を披露されていました」
南こうせつと店で会ったときには、お店のみんなと一緒に安倍元首相も『あの素晴しい愛をもう一度』を熱唱したという。この出会いがきっかけで、あるハプニングが。
「『こうせつさんが日比谷野音でコンサートをやるんです』とお伝えしたら、現役の総理だったときに来てくださったんです。SPの方から『絶対にステージには上げないでください』と注意されていたのですが、こうせつさんがステージから『総理!』と呼んだら、上がっちゃったんですよ。それで『あの素晴しい〜』を歌われて……。こちらはハラハラしていました(笑)」
カラオケが大好きだったという安倍元首相。歌唱力は?
「まあ……。もともとお声が高いですからね(笑)。『想い出の渚』『亜麻色の髪の乙女』『22才の別れ』が十八番。あとは正やんの『ほんの短い夏』をよく歌われていましたね」
明るく飲む安倍元首相と対照的なのが、石破茂首相だ。
「石破さんはお一人で来られて、後から皆様と合流するというスタイル。ウイスキーの『角』が大好きで、ロックで飲まれるんです。
それからチキンラーメンが大好物で、丼に卵を落として召し上がるんです。『ママ、これ日本一高いチキンラーメンだよ』なんて冗談を言われていましたね(笑)。店内にチキンラーメンの匂いが漂って、女のコたちが『美味しそう』と言うと、お裾分けしてくださいました」
カラオケのレパートリーも対照的だ。石破首相の “キャンディーズ推し” は有名だが、じつはいちばんの推しは岩崎宏美だという。
「『岩崎宏美メドレー』を入れたら、その場にいた宏美ちゃん自身も忘れていた古い歌を石破さんは完璧に歌われて(笑)。しかも、宏美ちゃんのお母様のお名前まで知っていて、みんなで驚いたことがあります」
そんな石破首相を「気持ちがある方」と、由美ママはそっと打ち明けてくれた。
「私の主人の家族葬儀のときに、多くの政治家の先生方がお通夜や告別式に参列くださいましたが、石破さんだけは出棺までいてくださったんです。あのときの御恩は一生忘れません」
由美ママは “男気のある飲み方” とは人柄であり、お金の使い方だと話す。
「たとえば、今日がお店の女のコの誕生日だとします。『好きなシャンパンを入れていいよ』とさりげなく言えるかどうか。要は生きたお金の使い方ができるかなんです。
会社のお金で飲むことが厳しい時代になりましたが、自分で身銭を切れるか。『会社の限度があるから』と正直に言ってくださったほうが嬉しいですし、残りを自腹で支払ってくださるような方は粋ですね。
昭和の “俺様” 的な人は時代遅れ。今は周囲に気遣いができる人でないとモテないし、大切にされないと思います。ぜひ、“酒品” を持って飲んでいただきたいですね」
銀座で40数年。一流を見続けてきたママだからわかる “男気” がある。