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安倍首相の外交敗北「金正恩の隠し玉」が国際関係を動かす
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.03.30 11:00 最終更新日:2018.03.30 11:00
北朝鮮の金正恩委員長には隠し玉が多い。先の平昌オリンピックでは開会式に妹の金与正(キムヨジョン)を送り込み、美女軍団とともに「ほほえみ外交」を展開した。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領はメロメロになり、その結果、南北首脳会談のみならず、米朝首脳会談まで実現の可能性が高まった。
そして、このたびの金正恩委員長の中国訪問には夫人の李雪主(リソルジュ)が同行。すると、たちまち彼女は中国で大フィーバーを起こした。
ネット上には彼女の美貌や洋服、アクセサリーを褒めたたえるコメントで溢れかえった。曰く「本当に綺麗だ。金委員長の妹よりはるかに美人で、しとやかだ」「韓国の人気女優もかなわない」などなど。
しかし、中には「(習近平国家主席の夫人である)彭麗媛(ポンリユエン)の洋服と比べれば着ているものは地味だが、美形レベルでは李雪主が上だ」といった内容も。
あまりの過熱ぶりに、中国政府は「李雪主」がネット上で検索できないようにし、彼女に関する書き込みをすべて削除してしまった。やはり、「習近平夫人より美人だ」といった内容は今の中国では認められないようだ。
とはいえ、行く先々で、印象に残る衣装を選択する様子には、中国メディアも感心。習近平主席の主催する夕食会や昼食会、中国社会科学院での見学、伝統的なお茶会など、あらゆる場面で夫・金正恩を支える姿を、繰り返し放送した。
「太った3代目の独裁者」という夫の強面イメージを払拭する上で、李夫人は秘密兵器のようなパワーを存分に発揮したと言えるだろう。
実は、世界が驚いた今回の電撃訪中は、年初から水面下で準備が進められてきたもの。2011年に史上最年少の国家最高指導者の座について以来、金正恩にとっては初の外国訪問である。
来たる南北・米朝首脳会談を成功させるためにも、中国を味方につけることは最重要で、失敗は許されない。
一方の中国にとっても大きな意味を持つ。中国メディアの報道によれば、習近平は金正恩に対し「今回の訪中を歓迎し、その労を多とする」と語ったとのこと。憲法を改正し、絶対的な権力を手中に収めた習近平による、自信に満ちた内外への意思表示である。
要は、「朝鮮半島の未来を決定付ける力は中国にある」という存在感をアピールしたわけだ。
北朝鮮の核放棄と朝鮮半島の非核化の実現を目指すアメリカのトランプ大統領に対して、「中国の関与なくして非核化はありえない」という癖玉をぶつける作戦である。
もちろん、ここには、中断したままの中国主導の「6か国協議」再開に向けた地ならしの意味も込められていた。
ところが、日本政府は安倍首相も河野外務大臣も「報道で知って驚いている。中国から詳しい説明を聞かなければならない」と発言し、自らの情報収集能力の欠如を世界に明らかにする始末。
それどころか、安倍首相は「4月18日には訪米し、トランプ大統領と会談し、その後、北朝鮮への訪問も考える」という。こんな話は水面下で進めるべきであろう。これでは中国やアメリカに限らず、肝心の北朝鮮からもスルーされてしまいかねない。
(国際政治経済学者・浜田和幸)