
今年7月10日、参議院選挙中に、JR小倉駅で演説する山中泉氏
「日本人ファースト」を掲げる参政党の論客として知られ、今年7月の参院選で初当選を果たした山中泉(やまなか せん)参議院議員。著書などで「反グローバリズム」を強く訴え、欧米中心のリベラル国際秩序と巨大グローバル資本の終焉を説いてきた。
青森県出身の山中氏は1980年に渡米し、長年米国を拠点としてきた。イリノイ大学卒業後、野村證券のトレーダーを経て自らの会社を経営、「経営コンサルタント」としての経歴をアピール。昨年10月の衆院選では落選したが、今年の参院選で“リベンジ”を果たした。国会では外交防衛委員会に所属し、党の“外交ブレーン”も務める。
しかし彼は、有権者に明かしていない「不都合すぎる事実」を抱えていた。国会議員という公職に就く直前に、自身の経歴と矛盾する重大な経済的破綻を経験していたのだ。
昨年11月30日、米国イリノイ州の連邦破産裁判所に申請された公式書類がある。本誌が独自入手したこの文書は、山中氏が米国で破産申請手続きをするためのものだ。申請日は、彼が前回の衆院選で落選した、わずか1カ月後となっている。山中氏はこの申請により、米国の破産法に基づき、総額約38万ドル――当時のレートで約5700万円もの負債を合法的に帳消しにしている。米国在住の国際弁護士A氏は今回の裁判資料を見て、こう解説した。
「裁判資料によれば、山中氏の当時の月収は約744ドル(約12~13万円)で、口座の貯蓄預金は、約144ドル(約2万2000円)。生活が完全に破綻している状態が窺えます」
山中氏は借金を清算した“クリーンな身”となり、「経済のプロ」として参院選に出馬、そして当選したことになる。では、破産の原因はなんだったのか。
本誌が、破産の事実と原因について山中氏に質問状を送ると、破産自体は認めたうえで、「事業関係者による横領行為で多額の損害を受けた」との返答があった。
だが、この説明に前出のA氏は疑問を呈した。
「横領で事業破綻したということであれば、今回のような個人破産ではなく、会社破産にするはずです。しかも、アメリカでの記録を閲覧する限り、山中氏が代表を務めていた会社は、今年9月まで存続しています」
つまり山中氏の回答は、個人破産したことの説明になっていないというのだ。
実際、裁判書類にも「横領」の記載はなく、むしろ申立書には山中氏のサインとともにこう記されているのだ。
「あなたの債務はおもに消費者債務です(Your debt is primarily consumer debts)」
消費者債務とは、クレジットカードや個人ローンのことだ。住宅ローンを除いた無担保の消費者債務は、約5万5000ドル(約800万円)に上る。債権者リストには、シティバンクやJPモルガン・チェース、アメックスなど、彼が批判する「グローバリズムの権化」ともいえる米国の巨大金融機関がずらりと並ぶ。実際、山中氏はシティバンクから、未払金をめぐる訴訟での支払い命令を受けていることも、裁判資料には記されている。
さらにA氏は、山中氏が選択した破産の種類にも注目する。
「アメリカの個人破産には、再建を目指す民事再生(chapter13)と、返済を免除される完全破産(chapter7)があります。彼が選んだのは後者。これは『負債を返済する意思がありません』という意思表示に等しい」
だが、山中氏は日本で一般社団法人の理事を務め、オンラインサロンを運営。著書も4冊合計で1万部以上刷っている。これだけの活動を考えると、裁判資料にあるような微々たる収入しかないということはないはずだが……。
「アメリカでは世界中の所得を申請する義務があります。破産申告書には、自己営業と家族の寄付のみ収入として記載されており、日本での収入がどこにいくら計上されているのは不明確です」(A氏)
では、なぜこのタイミングで破産申請したのか。そこには「選挙対策」という見立てもある。A氏が続ける。
「もし当選してから破産すれば、議員報酬を返済に充てなければならなくなる可能性がある。それを回避したのかもしれません。また、もし落選すればさらに生活が困窮するため、負債を帳消しにするにはこのタイミングしかなかったのでは」
「反グローバリズム」を訴える山中氏が、「国際グローバル資本」への借金を踏み倒し、米国の寛大な破産制度に救われたのは皮肉ともいえるが……。自民党の裏金問題を暴き、「政治とカネ」問題について追及してきた神戸学院大学の上脇博之教授は、こう厳しく山中氏を糾弾した。
「参政党は、『経済の専門家』と自己アピールする人物が自己破産していることを知りながら公認したのでしょうか。参政党も山中議員も、説明する責任がある」
だが、本誌が山中氏に再度横領事件と消費者債務について問い合わせると「負債がおもに消費者債務であったことは間違いありません」と認めたうえで、「これ以上のご説明は控えさせていただきます」と、事実上の回答拒否。
自らの破産の過去をひた隠し、説明責任を放棄する山中氏。その言動と実態の乖離は、国民の信頼を裏切るものであり、公金を扱う政治家としての資質が厳しく問われるべきだろう。
取材&文・常岡浩介(ジャーナリスト)
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