
観光道路でヒグマと遭遇(画像提供:内田雄紀氏)
過去最悪のペースでクマの被害が拡大している。2025年度、クマに襲われて死亡したのは、11月6日時点で13人。これまで最多だったのは2023年度の6人で、すでに2倍以上の数となっている。
出没件数も上半期(4~9月)だけで2万件超と、過去最高のペースだ。
各自治体は猟友会にクマ駆除の協力を要請しているが、そんななか、あるXの投稿が注目を集めた。
長野県内の猟友会に所属している「信州ジビエ職人」さんが10月30日に投稿したのは、県内のある自治体から依頼されたクマハンターの報酬明細書。「獣種 ツキノワグマ」「報酬金額 3000円」などの記載があり、支払いの対象時間は2時間。つまり、時給は1500円ということだ。「信州ジビエ職人」さんはこの投稿で《この時給で命張れって言われてもね》《まあそれでもやるけどさあ》とつづっている。
本誌の取材に応じた「信州ジビエ職人」さんは、1500円という報酬についてこう話す。
「駆除など、命の危険がともなう特殊技能を有した人を緊急的に呼んで対応させる仕事に支払う対価ではないと思います。駆除に使う散弾銃の銃弾は、1発300円から1500円で、1発で仕留めるのは稀で2、3発は使います。出動すればガソリンもかかりますので、ボランティアというか赤字です」
“厳しい現状”を明かすが、さらに危惧することがあるという。
「高齢のハンターが多いため、この先はどんどんハンターが減っていきます。いままでのような、ボランティアに近い対応だと、正直、自分たちの世代で積極的にやろうという人は少ないです」(同前)
クマ駆除の報酬額は、自治体によって異なる。ヒグマの生息する北海道内でも、8万円超から1万円と大きく異なっている。
北海道奈井江町では2024年、報酬額が低すぎるとして、ヒグマ駆除の協力要請を地元の猟友会が辞退する事態となった。奈井江町側が提示した額は、日当8500円。発砲した場合は1万300円だった(その後、額を引き上げ)。
国は2025年9月、人の生活圏にクマなどが出没した場合、首長の判断があれば猟銃が使える「緊急銃猟」制度の運用を始めた。警察や自衛隊などの協力も検討されている。
だが、そこにも課題はあるという。北海道猟友会・札幌支部「ヒグマ防除隊」の玉木康雄氏はこう語る。
「ヒグマを仕留めるには、散弾銃では威力が足りないので、ほとんどの場合ライフルを使用します。緊急銃猟では、ヒグマを1発で仕留める必要があります。そうしなければ、ヒグマはより凶暴さを増し、街のなかを走り回ることになり、非常に危険だからです。一撃でもって、相手の行動能力を完全に失わせる狙撃をしなくてはいけない。市街地での発砲は難しいです」
クマと対峙するには経験が不可欠だと、玉木氏は断言する。
「標的射撃がうまいだけでは、到底無理です。紙の的は動きません。襲って来ないし、反撃もしません。しかしクマは動くし、襲ってくる、反撃してくる。そして、1発で行動能力を奪わないと、さらに狂暴になります。それだけのスキルがないと、クマに対峙する能力はないといえるでしょう」
クマ対策は、猟友会などのハンターの“善意頼り”になっているのが現状だが、それにも限界がある。持続可能な体制を構築することが急務だろう。
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