
岩手県盛岡市の中津川河川敷を歩くクマ(写真・岩手日報/共同通信)
10月27日には、岩手県一関市巌美(げんび)町の住宅の庭で67歳の男性の遺体を警察官が発見し、飼い犬の死骸も見つかった。同じ日、秋田県秋田市雄和萱ケ沢(ゆうわかやがさわ)の田んぼ脇の側溝で損傷の激しい81歳の女性の遺体が発見された。
さらに、11月3日、秋田県湯沢市川連町の山林で、近くに住む79歳の女性の遺体が見つかり、クマにかまれたような痕が複数あり、いずれもクマに襲われたと認定された。
クマによる死亡事故は、統計がある2006年度以降で2023年度の6人がそれまでの最多だったが、2025年度はこれまでに13人が死亡し、過去最悪の状況となっている。
社会部記者が言う。
「人的被害が増大していることをみてもわかるように、クマの出没件数も今年の上半期(4月〜9月)だけで2万792件(速報値)で、2024年度1年分の2万513件を越えました。環境省が4日に発表した数値では、件数を公表していない北海道を除くと、出没件数の多い順に岩手県4499件、秋田県4005件、青森県1835件、山形県1291件などとなっています」
環境省によると、2025年度は9月末までのクマの人身被害者数(死亡者数含む)は、岩手県26人(10月以降の死亡者4人を含む死亡者5人)、秋田県22人(10月以降の死亡者3人を含む死亡者4人)、長野県15人(死亡者1人)、新潟県9人、福島県9人、青森県5人、山形県5人、北海道4人(死亡者2人)、また宮城県で死亡者1人などとなっている。
クマによる被害が拡大するなか、クマ対策に自衛隊や警察の手を借りる事態に発展している。
陸上自衛隊は11月5日、異例とも言えるクマ対策として、秋田県内でクマ用の箱罠の輸送などの支援を開始した。
「今回は自衛隊法100条などに基づく『民生支援』の形での支援となり、銃を使用したり、クマの駆除を自衛隊がするわけではありません。11月30日まで従事する予定です。また、警察もクマ対策に身を乗り出しました。これまでは人の生活圏にクマが出没すると市町村の判断で、地元猟友会のハンターが中心となり、『緊急銃猟』による駆除が実施されてきました。
警察庁は11月6日、ライフル銃を含む特殊銃に関する国家公安委員会規則を改正し、クマなどの駆除を追加しました。被害の多い岩手県・秋田県の県警による専門部隊を設けて、改正規則が施行される13日から活動を始めます」(前出の社会部記者)
こうした状況のなかで今、クマによる被害の軽減を目的として開発され、2025年8月28日に公開された「クマ遭遇リスクマップ」という地図が注目されている。
開発したのは気象予測などの情報を配信する日本気象株式会社だ。同社によれば、このマップは「ツキノワグマの生息地域である本州全域を対象としており、広域を対象とした高解像度のリスクマップは国内初の試みになる」という。同マップは、同社のHPから誰でも確認することができる。
クマ出没マップなどは各自治体からも発表されているが、「クマ遭遇リスクマップ」とは何が違うのか、同社の開発担当者は言う。
「各自治体が公開しているリアルタイムのクマ出没マップなどは実際の出没点を表示していますが、弊社のリスクマップは遭遇リスクを“面的”に評価しているという点で異なります。自治体公開の出没マップでは直近の出没情報を把握できる反面、これまで出没のなかったエリアのリスクはわかりません。弊社のマップでは過去の出没地点の情報だけでなく、周辺環境の類似性から出没確率を推定。
これにより、これまで出没の実態が把握されていない地域においても、潜在的なリスクを面的に評価し、地図上に可視化することができます。どちらも長所短所がありますので、組み合わせて活用いただければと思います」(日本気象株式会社・開発担当者、以下「」内は同)
出没リスクの算出方法についてはこう説明する。
「過去のクマ出没データ(主に2018年〜2025年5月)と地形や植生、気候値などの環境データをセットでAIに学習させ、出没地点の環境的な特徴・共通性を見つけ出し、過去の出没情報がないエリアに対しても学習した法則を適用することで、遭遇リスクを計算しました。リスクは0から1の間の相対的な値で表され、1に近いほど遭遇リスクが高くなります。リスクは想定値であるため、遭遇リスクが低い場所でもクマと遭遇する可能性はあります」
編集部では同マップをもとに、国勢調査で市街地の定義に使われる「人口集中地区」を用いて近隣にクマとの「高遭遇リスク」が確認された駅周辺50か所をリストアップした。青森から山口まで本州の広い範囲でクマと遭遇するリスクがあることがわかる。
また、4駅周辺の「高遭遇リスク」の地図を掲載したが、HPから確認できる実際の「クマ遭遇リスクマップ」では、リスクをグラデーション化し、より詳細に、「『クマとの遭遇リスク』を250mメッシュという高解像度」で確認することが可能だ。
開発の経緯について、開発担当者はこう話す。
「近年クマの出没や人身被害が大きな社会問題となっており、被害の対策や軽減に役立つ情報を提供できないか、ということで今年の5月ごろから私を含む2名で開発を始めました。250mメッシュですと、地図全体のメッシュ数が億単位となり、データ量と種類が膨大となるため、その点は苦労しました」
ただし、同マップは人の生活圏における遭遇リスクマップであるため、登山やキノコ採りなど山林に入る際の参考には使用しないよう、注意が必要だ。
遭遇リスク解析から見えた遭遇しやすい場所の特徴について前出の開発担当者は、「東北地方から北陸地方を中心に、平野と山地が隣接した地域や山あいの集落でリスクが高くなっています。また、クマは川をつたって山から移動してくる場合があるため、街中でも川沿いのエリアは注意が必要です」と呼びかける。
さらに、クマが冬眠を控えている11月、12月は遭遇リスクも変化するという。
「11月は1年間の平均的なリスクに比べて、山林よりも平野部で相対的に遭遇リスクが高くなっています。これはクマの主要な食物である堅果(ドングリなど)が凶作の年に、不足する餌を求めて人里に下りてくることを反映していると考えられます。12月は冬眠に入る個体もいるため出没数は減りますが、11月と同様に平野部で相対的にリスクが高い傾向が続きます」
近年では“冬眠しないクマ”の存在も報道されている。これからの季節も人的被害を軽減するために「クマ遭遇リスクマップ」などを十分に活用したい。
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