三重県内の自動車ヤード。大量の車が積み上げられている(写真提供・加藤久美子氏)
警察庁が発表した「令和7年上半期における車名別盗難台数」。トップは「ランドクルーザー」で765台、以下「プリウス」の289台、「アルファード」の191台、「レクサスRX」の141台、「レクサスLX」の120台と続き、トヨタ系の自動車が上位を占めている実態がわかる。
「盗難数は年々、増加しています。警察庁はさらなる注意喚起を促すため、9月に特定の2車名を明らかにしました。
これまで『ランドクルーザー』など大雑把に公表していましたが、同名のシリーズが多いため、とくに盗難被害が多い『150系ランドクルーザープラド』『30系アルファード』の公表に踏み切りました。
いずれも旧型ですが、盗難数が多い理由としては、いまなお海外での人気が高いこと、そして、セキュリティシステムが脆弱であることがあげられます」(社会部記者)
盗難車のほとんどは、海外に密輸されているという。その裏舞台になっているのが「自動車ヤード」だ。警察は自動車ヤードを《周囲を鉄壁等で囲まれた作業場等であって、海外への輸出等を目的として、業として自動車の保管・解体、コンテナ詰め等の作業のために使用していると認められる施設》と定義している。
「10月には千葉県山武市のヤードに、名古屋市で盗まれた『ランドクルーザー』(時価約1000万円)が保管されていたことが明らかになりました。盗品と知りながら保管した疑いで、アフガニスタン国籍の男性3人が現行犯逮捕されましたが、千葉地検は『公訴を維持する十分な証拠を確保できなかった』として、不起訴にしています」(同前)
千葉県によると、2025年9月末時点で、県内には全国でもっとも多い約790カ所の自動車ヤードがあるという。
山武市役所は「自動車ヤード開業の届出は増えています」として、その理由を「外国の方の居住者が増えていて、その方たちの仕事として、自動車解体業も増えていることがあげられます」という。
届出の内容に不備がなければヤード開業が認められることにも問題はありそうだが、千葉県は2024年度、480カ所に、のべ524回の立ち入り検査を実施しているという。
そんな、千葉県のヤードにも取材で足を踏み入れた経験がある、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏はこう話す。
「海外では『メイド・イン・佐倉』や『メイド・イン・四街道』とブランド化されているほど、千葉県内のヤードから、多くの中古車が海外へ輸出されています。
違法なヤードと健全なヤードは、まったく区別がつきません。スクラップ状態の車が山積みになり、解体されたパーツが散乱しているだけです。
しかも届出が出されているため、警察も『嫌疑がないのに奥深くまで踏み込めない』というスタンスのようです。そうしたこともあり“無法状態”となっていることは否定できません」
2021年、愛知県で自動車ヤード条例が施行され、ヤードに規制ができたため、当時、まだ条例がなかった隣接の三重県で、ヤードが急増した。加藤氏が三重県にできた、あるヤードを訪れ、公道から撮影をしていると、トラブルに巻き込まれたことがあったという。
「ヤードの様子を撮影していると、従業員の乗った2台の車に追跡されました。警察を呼んで、ことなきを得ましたが、従業員たちは『部品を盗みに来たのかと思った』と話していました」
盗難車が持ち込まれることもあれば、盗まれることもあるという、ヤードの無法ぶりがうかがえる。また、犯行方法の巧妙化も、警察の捜査を難航させているという。
「窃盗対象の車をGoogleストリートビューや街中徘徊で探す人物、その情報をもとに窃盗を実行する人物、そしてヤードに持ち込む人物、さらに、解体されコンテナに入れられた盗難車を港まで運ぶ人物など、役割が細分化されているのです」(加藤氏)
盗難車の輸出先は中東のほか、最近では、ウクライナ侵攻で国際社会から経済制裁を受けているロシアに、第三国を経由して運ばれることも多いという。
盗難されたら、取り戻すことは不可能なのだろうか。
「以前、盗まれたレクサスのパーツをオークションサイトで見つけたオーナーが、その写真の背景などから出品者の場所を特定しました。しかし、その場所に行ったら、すでに愛車が半分になっていたそうです。業者は『車を買い取っただけだ』と言ったそうです。
愛車が盗まれたことに気づいたら、すぐにXなどSNSに、盗難被害情報を発信することが大切です。たとえば初心者窃盗団は、売買ルートを持っていないことも多く、買い手を見つけるまでコインパーキングに停めていることが多いんです。被害情報を投稿しておけば、目撃情報が寄せられ、愛車を取り戻せることがあります。
そのときも、SNSにはご自身の携帯電話番号などを公開して、DMをまめに確認することが大切です。連絡先を警察などにすると、警察からの連絡が遅れて、後手後手になります。盗まれたと気づいたら、すぐSNSで発信しましょう。残念ですが、警察の捜査に期待してはダメですね」(加藤氏)
また、窃盗犯は大雨や風が強いときなどの荒天時に実行することが多いそうだ。
「天候が悪いと人があまり出歩かず、犯人の動き回る音も雨や風にかき消されます。犯人は犯行の2〜3週間前から、車を揺するなどして、セキュリティの警報音の有無や周辺の防犯カメラの確認、逃走ルートのNシステムの状況や、オーナーの帰宅時間など生活スタイルを確認しています。つまり、オーナーの反応を、近くに潜んで確かめていることが多いのです。
また、ディーラーが『標準で装備されているセキュリティで大丈夫』といっても、社外セキュリティの設定などを検討してください」(加藤氏)
とくに年末年始は、車を置いて長期間、不在にする人が増えるため、警察も注意を呼びかけるなどリスクが高まる時期でもある。防犯意識のギアを上げる必要がありそうだ。
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