高市早苗首相(写真・JMPA)
日本銀行が政策金利を0.75%に引き上げたのが、12月19日。だが、高市早苗政権発足以降、円安が止まらない状況が続いている。このまま歯止めはかからないのか――。
故・安倍晋三元首相がもっとも頼りにしたといわれる、米イェール大学名誉教授の浜田宏一氏。「アベノミクスのブレーン」として、大規模な金融緩和策を唱えてきたが、アベノミクスを継承したサナエノミクスには一転して批判的な姿勢をとり続けてきた。
浜田氏は、現在の止まらぬ円安、そしてサナエノミクスをどう見ているのだろうか。
「私自身、高市首相の一般的な政治スタイルは大変気に入っておりまして、特に記者会見などでの自分の言いたいことを発言するような姿勢はいいと思っています。高市政権の成立は喜びたいのですが、経済政策のやり方をみると、経済の原理に従っていないことが、残念ながら多いのではないかという感じがしています。
安倍政権時には、デフレ圧力に日本が悩まされており、日本の物が売れないで困っていたわけです。いくら売っても円が高すぎれば海外には売れなかった。
ところが今は、円が安すぎて、外国にはどんどん売れていくが、外国から輸入しようとするとなんでも高いと。そういった意味で、日本は円安を通じて、買いたたかれているような状態になっているわけです」(浜田氏、以下同)
アベノミクスが始まった2013年は1ドル80円台。転じて現在は、150円台だ。
円安が進み、急激に物価が高騰している現在。浜田氏は日本銀行の政策金利の引き上げ「利上げ」によって、物価を安定させるべきだと主張している。
こうした浜田氏の主張に呼応するかのように、日本銀行は12月18~19日の金融政策決定会合で、約1年ぶりに利上げを決めた。これにより、政策金利が0.5%から0.75%に引き上げられたのだが……。
「しかし、円安は是正されていません。これがいちばんの問題です。
金利というのは、借りたお金を返す際の利子の割合です。例えば、借りている間に1%インフレして物価が上がった場合、1%金利を払って返しても、何も損にならないわけです。つまり、『金利はインフレ率よりも高くなければ、素子の意味がない』というのが私の理論です。
現在のインフレ率は、3%。にもかかわらず、0.75%の利上げをおこなっても、あまり意味がないわけです。私は金利を3%くらいにまで上げても構わないのではないかと思っています。
だから、0.75%への利上げは『トゥーレイト』で『トゥースモール』。これで円安が是正されないといっても、当然なんです。
1970年代半ばにオイルショックをきっかけに起きた、『狂乱物価』と呼ばれた異常な物価高騰の際、公定歩合(日銀から市中銀行への貸出金利)は9%ほどにまでなっています。それくらいしないと、インフレが当時制御できなくなっていたのです」
浜田氏は「物価の番人」である日本銀行が、その責務を放棄している、とまで厳しく批判した。では、高市首相の政策についてはどうか。
「経済に関していえば、金融政策と財政政策の役割を誤解しているのではないか、と思ってしまいます。
今高市首相がやっているのは、『インフレが起きたので、それで被害を受ける人々の苦しみを和らげるために個別で支援しよう』というもの。これはつまり『選挙で票を失わないように個別に救済しよう』というものに見えます。しかし、根本的なものを直すためには、金利を挙げて円高にし、インフレそのものを是正しなければなりません。
もちろん、それに副作用もあります。金利が上がれば、住宅ローンを借りている人など、困る人もたくさんいる。本来は、そうした人をこそ救済すべきであって、今の方法は少し違うのではないかと思います。それに、『物価安定のためには金利を上げなければならないのだ』ということを、国民に納得してもらうべきです。
そうした意味では、本来政策を振り向けるべきところに力を入れず、選挙の票が見えるところだけに力を入れているように見えます」
サナエノミクスは、アベノミクスを本当に“継承”していけるのだろうか。
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