平米単価500万円超えといわれる「グランドメゾン代官山 THE PARK」(写真・皆川拓哉)
昨年12月に不動産経済研究所が発表した「首都圏新築分譲マンション市場動向2025年11月」によると、東京23区の新築マンション平均価格は1億2420万円だという。
「お勤めの方の現実的な住宅取得費用は年収の5〜6倍といわれていますが、現時点で都内23区は17倍を超えています。23区内は中古マンションも平均価格が1億円を超えていますから、『私たちは住宅を買えないのか』という声があちらこちらから聞こえてきます」
こう話すのは、不動産市場に詳しいオラガ総研の牧野知弘氏。そうした不満を受け、いま返済期間を最大50年まで選べる「50年住宅ローン」が注目されているという。2023年に始めた住信SBIネット銀行など、ネット銀行を中心に販売をしている。
「当たり前ですが、返済期間が長期になれば月々の返済額は低く抑えられます。そのため、20代や30代の結婚間もないカップル、子育て世代など『頭金が少ない』『教育資金を残しておきたい』という、1次取得の若年世代に注目されています」(経済担当記者)
30歳で返済がスタートして完済するのは80歳。50年という「超長期」の住宅ローンは「あり」か「なし」か。4人の専門家を取材すると、さまざまな問題点が見えてきた。
まずは、不動産経済研究所の松田忠司氏に「50年ローンの利用実態」を聞いた。
「よく聞くのは『35年ローンで返済は可能でも、あえて50年ローンを選択して月々の返済を減らし、浮いた資金を非課税の新NISAなどで運用する』という世帯の利用です。余裕ができたら繰上げ返済する計画を立てているようです。『50年ローンを組まないと購入できない』というギリギリの家計で返済を考える世帯の利用は意外に少ないようです」
さらに松田氏は「20代、30代はバブル崩壊もリーマンショックも経験していないので『暴落』を知りません。昨今のインフレも相まって、『不動産の資産価値は上がる。だったら早く買っておこう』という動機もあるようです」と言う。
1980年代後半、日本国内では金融緩和などにより土地価格が上昇するバブル景気が発生。銀座の一等地では一坪(約3.3㎡)に1億円を超える価格がつき、「山手線内の土地価格でアメリカ全土が買える」と言われたほどだった。
現在の新築マンションの販売価格だけを見れば、そのバブル期を超えているともいわれる。50年住宅ローンを支払っている間に、バブル崩壊後の不動産価格下落のようなことが起こることもあり得るのだ。そのため、利用に対して慎重な意見もある。
「『50年なら買えるけど、30年では買えない』という方々に高額マンションを買わせるための、無理を重ねた制度設計です。50年住宅ローンは金利分を含んだ総返済額が極端に膨らんでしまいます。(利用は)危険です。おやめなさい」
と、牧野氏はアドバイスする。
「50年住宅ローン」は確かに月々の返済額は減るが、借入れ条件に上乗せ金利や高額な事務手数料、金利が上がっても5年間は毎月の返済額が据え置かれ、5年後に見直される際にそれまでの返済額の125%までしか増えない「5年・125%ルール」が適用されないこともあるなど、銀行によってさまざまな “罠” が設置されているのだ。
「麻布や青山などのブランド立地は別として、築50年のマンションに資産価値がどれほどあるのか。50年の間には大地震などの天災、借りている方の経済的問題が発生することもあります。こうしたリスクが高くなることも考慮することが大切です。さらに80歳になれば相続問題が出てきます。老朽化して、売るに売れないマンションを残された相続人は苦労します」(牧野氏)
■問題がないのは手取り年収3000万円以上
経済評論家の鈴木貴博氏も「ローンの借入比率が年収の10%以内で組める方は、余裕資金で株式運用などができるので、50年住宅ローンはメリットがあると思います。
ただ、東京23区の1億2000万円の新築マンションを金利1%、返済期間50年で購入するときに、借入比率を10%にするなら年収は手取りで約3000万円必要になります。多くの方にとってはデメリットが大きい商品といえます」と指摘する。
「また、背伸びをして買ったとしても、返済が終わったときは後期高齢者になっています。完済までにリストラ、倒産などで生活が成り立たなくなったとき、マンションを売却しても築30年、40年がたっていれば査定は低く、ローン残債のほうが多いことも考えられます。
共働きの夫婦が『50年ペアローン』を組むこともありますが、私はおすすめしません。日本は婚姻件数に対する離婚件数が『3組に1組』とされています。はたして50年、結婚生活が破綻することはないのか。万が一、離婚したときに、ローン残債がたっぷりあるマンションをどうするのか。問題は山積みしています」(同前)
■収入を継続できないと一気にローン破綻
一方、住宅ローンの比較診断サービスをする「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇氏は「50年ローンは家計の予防線になる」とメリットを挙げる。
「50年ローンを組めば、1億円のマンションも世帯年収1000万円で買えることになります。
そして住宅ローンは『長期で借りて、その後に短縮させる』ことが可能です。逆はできませんから、最長の50年で借りて、投資などをしながら家計の状況次第で繰上げ返済や期間の短縮を取り入れればいいと思います。
返済期間が長いということは、キャッシュフローが確保できるということでもあるのです。さらに今後はインフレが予想されていますから、高い価格で売却できる可能性もあります」
だが、塩澤氏もあわせて注意点を指摘する。
「ペアローンを組んだときの、配偶者の産休や育休です。予定の収入が継続できなくなればローン破綻の可能性もあります。また、勤務地と購入物件があまりにも遠いと育児中の通勤は大変です。そのため仕事が時短になったり、地元で転職することもあり得ます。
家族構成の変化にも注意してください。家族が増えたので10年後に住み替えを検討しても、ローンの残債のほうが多いため売却できないという事態が心配されます。買い換え時に、確実に高く売却できる物件を選ぶことが大切です」
昨年12月、日銀は政策金利である短期金利の誘導目標を現行の0.5%程度から0.75%程度に引き上げることを決めた。この決定により、4月から、多くの銀行で住宅ローンの変動金利が上がるとみられている。
塩澤氏によれば「6000万円を年1%の金利で借りた場合、35年ローンの毎月返済額は約17万円、支払う金利総額は約1114万円。50年はそれぞれ約13万円と約1627万円。50年ローンは総額で約500万円多く払う」ことになるそうだ。
庶民の救世主として登場した50年住宅ローンだが、経済的に余裕がある「勝ち組」にしか恩恵がないとするなら、なんとも皮肉なことである。
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