「プログラミングは全自動になる」と話したイーロン・マスク(写真:AP/アフロ)
アメリカでの “対岸の火事” に思えていた、AI失業。大解雇時代突入へ、もうカウントダウンは始まっている。
日本のPCメーカーの草分けの一つで、総合ITベンダーでも最大手の会社に入社以来、40年もの間SE(システムエンジニア)として勤務する梶本宗貴氏(仮名)は、「AIの進化、特に人に代わって状況に応じて自律的に判断・行動できるAIエージェント、さらに現実世界で自律的に動くフィジカルAIの進化はとどまることを知らない」と、現場でも肌で強く感じるという。
「このところNTTや富士通の経営トップが次々とAIに関する見解を述べているのも、黒字リストラ(好業績でも競争力強化のために人員削減をすること)への伏線かもしれません。
とにかく、国内大手企業によるAIやAIエージェントについての発表は今後もしばらく続くでしょう。『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)でコメンテーターを務める元ソニーCEOの平井一夫さんが言っていたように、日本企業は “AIを取り込むか、AIに取り込まれるか” という瀬戸際にあるんです」
今まで人がやっていたことをAIエージェントができてしまうなら、そのぶんの人手は必然的に要らなくなる。また、資本力のあるIT系大企業は「AIを取り込む」側を選択せざるを得ない。
「一方で、IT系中小企業やフリーランスは、『AIに取り込まれる』側どころか、『AIによって外されてしまう』状況が目に見えている、と私は思っています。
数年前から厚生労働省を中心に、国は中高年が新たな業務に必要な知識や技術を学ぶリスキリングが重要だと言っていますが、SEやプログラミングなどはその対象に入らなくなるでしょうね」
そう語る梶本氏は、現在、社内外で講師としてエンジニアの心構えや将来的な役割について教える立場でもある。そして、この2〜3年こそがエンジニアにとっての正念場、という強い思いを持っている。
「イーロン・マスクが先だって、『今年の終わりまでにプログラミングは全自動になるだろう』と唱えましたが、あながち扇動と片づけるわけにもいきません。
かつての花形職業だったSEやプログラマーは、今や3K(きつい・帰れない・給料が安い)職業になっています。その3K部分を我慢し、頑張って働いてきた人が多いわけですが、これからはその頑張りや苦労はAIエージェントが楽々と代替してしまう。
この情勢はIT大企業からすれば人件費削減に直結しますが、下請けの中小企業や孫請けのフリーランスが犠牲になるのは、もはや止められないでしょう」
では、AIがコード生成を担い始めた現在、エンジニアはこの先どうすればいいのだろう? 時代に合わせてAIを操る側に回れ、と言うは易しだが……。すでに定年延長の身の梶本氏は、「逃げ切り組の、上からの物言いに聞こえそうですが……」と断りを入れてこう語った。
「いつの時代にも大きな変化があって、その変化に流されるままだと、困った状況になるのは同じ。
第一次産業革命では蒸気機関や自動織機の導入により、手織り職人や紡績工などの職人が失業しました。石炭の代わりに石油が主要燃料となり、電動化が進んだ第二次産業革命では、大量生産が可能となったおかげで熟練工から首を切られました。
製造業からサービス産業への大転換が起きた第三次産業革命によって、ブルーカラーのホワイトカラー化が進んだ。これらと同じかそれ以上の変化が生じている今、人間にしかできない、人間だからできることを真剣に考えて、シフトしていくしかありません。
もっと危機感を持たないと、40代以上は失業者になってしまう。何もそれはSEやプログラマーに限った話ではないでしょう」
ならば、もっと若い世代に実情を聞いてみることにした。宮城県在住のWebデザイナーの栗田将人氏は29歳。大卒後はワーキングホリデーを利用し、オーストラリアやニュージーランドで生活すべく、まずはフィリピンに渡って3カ月ほど語学学校に通った。翌年の1月にはオーストラリアに向かったが、すぐにコロナ禍が始まった。
「しばらくはロックダウンで働こうにも働けず、身動きさえできませんでした。やっと渡航ができるようになったと思ったら、すぐ帰国しろという感じでした。それまでは飲食やアパレルなど30ぐらいのアルバイトをし、渡航費用を貯めましたが、おかげで手に職をつけねばという思いに駆られ、Webに関して独学を始めました」
帰国後はスターバックスでアルバイトをしていた栗田氏だが、ほどなく凸版印刷の子会社の募集告知を見つけ、やはりバイトとして入社。デザイナー志望だったが、通販サイトのコピーなどを書くライターに回された。そこで先輩にすすめられ、ノーコードでサイト作成ができるサービス、Webflowのスキルを習得しようと決めた。
「Webflowは、サーバー不要で利用できるアメリカ発のWeb制作プラットフォーム。ブラウザ上で操作するだけで、コーディング(プログラミング)不要で高品質なサイトが作れるため、制作現場の勢力図を塗り替えた存在と言えます」
用意されたテンプレートの数も6000を超え、かなり高水準のサイトがたやすく作れる。しかし、ほかの同様のノーコード・システムのなかでは「もっとも難易度が高い」という。栗田氏はその基本操作を働きながら1カ月で習得した。
「間口は広いのですが、難しいのはその先のレベルで、ただ作るだけだと素人臭くなってしまうんです。アニメーションを使うなどして高級感を持たせ、さらに管理運用を見据えた構築をするには深い知識が必要です。プログラミングの論理思考と、デザインの感情表現の両方を兼ね備えた技術を身につけないと、仕事にはできません」
Webflowを使うと同時に、このツールに関しての発信を、栗田氏は同時に始めた。これを使えば制作コストを抑えられるので、サイトを立ち上げようという中小企業や個人事業主から問い合わせが殺到し、コロナ明けにはWeb作成に専従することになった。
「妻とも凸版の職場で知り合って、2022年から2年間かけ、国内一周旅行やタイでのルームシェアなどをともに経験しつつ、旅をしながら仕事をしました。ワーキングホリデーを満喫できなかったぶんは取り戻せた感じです。
2025年度内の法人化を目標に、2023年秋から自社サイトを立ち上げ、大手企業の案件も含め、オファーを順調に獲得していました。ところが、去年5月末ぐらいから、ふっつりと途絶えたんです」
理由は明らかだった。MicrosoftやGoogle、さらには米AI企業のAnthropicが、AIエージェントの今後の可能性について次々に発表。各プラットフォームのこれまで以上の生成AIへのアクションが同時多発で公にされたからだ。
「1〜4月は月収100万円は稼いでいた。しかし、そうした実況中継的な記事が6月にどんどん出て、以降はほとんど新規の依頼がゼロに。サイトのメンテも依頼されているクライアントが1社あって、月額5万円は確保できていますが、そんなんじゃ雀の涙。今年に入って少し持ち直したけれど、50万円ほど稼げただけです」
前年度800万の年収が400万円に。しかも、妊娠9カ月の妻も最近、外資系のビットコイン・メディアのライター業務をクビになったという。
「2人の財布は別なので、妻にいくら貯金があるかはわかりませんが、ぼくは100万円あるかないか。というのに、来月には出産を控えているんです。
AIを使いこなす側に回れるか、今はいろいろと学習段階です。でも、AI でWebデザインを試みるにつけ、デジタル系の作業はすべてAIに移行すると思ってしまい、全力で踏み出せないのが実情です。
あげくの果てには、AIに身の上相談をして『失敗したくないから挑戦しない。勇気のないヤツ』と言われる始末です(笑)」
AIとの格闘を重ねた結果、「もうWeb制作には未練はない」とも語る栗田氏。しかし、30ものアルバイトを通じて得た、バイタリティは栗田氏の強い武器だ。今のところ、AIは身体感覚に裏打ちされた意識を持ちようがない。バイタリティこそ人間の特性そのものであり、AI時代を生き抜く秘訣と言えるのではないか。
取材・文/鈴木隆祐
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