社会・政治
荻上チキが語るラジオの責務「誰もが理不尽な思いをしなくていい社会を」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.04.30 06:00 最終更新日:2018.04.30 06:00
日々のニュース紹介はもちろん、社会問題や時代の潮流について深掘りし、発信していくラジオ番組がある。『荻上チキ・Session-22』(TBSラジオ)。本誌が取材に訪れた日は、イラク戦争開戦から16年めを迎えた当日。
スタジオでは、パーソナリティの荻上チキとアシスタントの南部広美が、中東問題に詳しい酒井啓子・千葉大学教授に話を聞いていた。荻上は、ツイッターの反応を見ながら、戦争の経緯や現状を質問していく。
番組では、前半でその日のニュースを報じ、後半はこうしてゲストを迎え、ひとつの問題に迫っていく。情報を整理し、論点を明確にしていく荻上の手腕と、テレビより時間がとれるラジオの利点を生かし、専門家や当事者にじっくり話を聞けるのが番組の特徴だ。
「議論を取り上げる際には前提を共有し、問題を取り上げるときは当事者に聞く。ほかのメディアに違和感があるなら、自分たちはどうするか。試行錯誤しながら作っていけることに、やりがいを感じています」
荻上は言う。スタートから5年、番組は日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞大賞を受賞した。誠実に伝える姿勢が信頼を得て、ほかのメディア出演を控える人物や、渦中の人物が出演することも多い。森友学園問題では、籠池泰典前理事長が出演、話題になった。
少数者の抱える問題など、ほかのメディアがあまり取り上げないテーマを積極的に扱うのも、番組の特徴。芸能人の薬物問題が世間をにぎわせたときは、薬物依存経験者にダメージを与えないよう、薬物報道にはガイドラインがあればいいと提案し、当事者や専門家と叩き台を作ったこともある。
「誰もが理不尽な思いをしなくていい社会を達成することによって、内容は違っても自分や子供、周囲の人が、そういう目に遭うリスクを減らすことができます。マイナーな問題をみんなに考えてもらうには、当事者、支援者の方に出演してもらって、彼らの意見に耳を傾けることが必要です。
そうやって僕自身も専門家の話を聞いて、事実を知ったり、自分の意見を作り上げたり、変えたり、整理したり」(同前)
そんな荻上を番組に起用し、ともに走ってきたのが、TBSラジオの長谷川裕プロデューサーだ。
「ラジオの少ないスタッフで、ほかのメディアと同じことをやっても勝てません。ほかにならってテーマを選ぶのではなく、自分たちのニュースのラインナップそのものが提案になるような、ニュース番組を目指しています」
ここ数年、メディアなどで「忖度」が跋扈し、物を言うことに息苦しさを感じている人も多い。そのなかでも、番組はきちんと情報を発信し続けてきた、という自負がある。
「選挙報道についての特集をしたときは、印象に残りました。選挙報道には多くの制約があると思われていて、直前になると報道が激減します。
でも、放送法をあらためて検証すると、われわれでも勘違いしていたことが多く、報道できること、すべきことが明確になりました。こういう企画をやるのも、僕らの責務じゃないかと思ってます」
長谷川氏が手応えを感じるのは、何かを提示できたと思えるときだ。
「伝わったな、この切り口でよかった、と思う瞬間です。自分にフィットするニュース番組がない、既存のニュースにピンとこない、と感じている人たちに、『自分たちのメディアだ』と思ってもらえるものにしたいです」
おぎうえちき
1981年11月2日生まれ 兵庫県出身 評論家として、メディア論を中心に政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。2013年4月1日から番組のパーソナリティを担当。近著『すべての新聞は「偏って」いる ホンネと数字のメディア論』(扶桑社BOOKS)が発売中
(週刊FLASH 2018年4月17日号)