北朝鮮は「窮鼠猫を噛む」かのように、アメリカや韓国に対し、したたかな反撃を繰り出してきた。
現在進行中の米韓合同軍事演習に文句をつけ、「わが国への侵略を意図するような軍事訓練を続けるなら、6月12日のアメリカとの首脳会談もご破算にせざるを得ない」と、強硬姿勢を見せ始めた。
真っ先に反応したのは韓国である。
自分たちがお膳立てした米朝首脳会談が実現できなくなっては困ると大慌て。北朝鮮が最も恐れる核搭載可能の米戦略爆撃機B-52が参加する空軍演習に、韓国は参加を見合わせることを決めた。
結果、参加するのは米空軍と日本の航空自衛隊のみというわけだ。しかも、事前の予定を大幅に変更し、演習に際して韓国の領空を一切使わないことになった。こうした事態は過去に例がない。
これまでも米韓合同軍事演習に対して、北朝鮮はさまざまな批判を繰り返し、変更や中止を求めてきた。だが、一度たりとも、米韓側が譲歩したことはなかった。
何としても米朝首脳会談を通じて南北の融和を確実にしたい文大統領と、直接対話を通じて非核化への道筋をつけ、国内世論の支持を秋の中間選挙に反映したいトランプ大統領の立場に巧みに付け入ったといえるだろう。
実は、北朝鮮の指導者たちはこのところアメリカのテレビ番組にくぎ付けになっている。
トランプ大統領はもちろん、ポンペオ国務長官やボルトン国家安全保障補佐官などが、連日、テレビのインタビューに答え、思い思いに北朝鮮政策を語っているからだ。
特に、北朝鮮が目くじらを立てたのがボルトン氏の「リビア方式」発言である。
北朝鮮に完全な非核化を求め、リビアで行ったように、核関連の資料や技術をアメリカに運び、破壊すれば、経済制裁も緩和するという趣旨であった。
「俺たちはリビアとは違う。現に核ミサイルを保有している。一緒にするな」と、噛みつき、ボルトン氏を名指しで非難。これにはトランプ大統領も慌てたようで、「リビア方式を当てはめるつもりはない」と北朝鮮の意向に沿った発言をした。もともと北朝鮮には “虎の子” の核ミサイルを手放す考えはないのである。
トランプ大統領は「非核化すれば、経済制裁も解除し、北朝鮮は豊かになれる」と言うが、その道筋は不透明のまま。そこに金正恩の説得に応じた中国が乗り出し、北朝鮮の経済改革・開放政策を支援すると言い始めた。米朝首脳会談の影の主役は中国といえそうだ。(国際政治経済学者 浜田和幸)