
あらゆるものが賭けの対象になる「ポリマーケット」のサイト画面(写真・共同通信)
2月28日(現地時間、以下同)から始まったイラン戦争の影響で乱高下する原油価格をめぐり、トランプ大統領周辺によるインサイダー取引疑惑が囁かれている。
4月、英BBCがトランプ大統領のSNSへの投稿やメディアでのインタビューの直前に原油取引が不自然に急増したことを報道。これに対し、5月7日に米ABCニュースは、商品先物取引委員会(CFTC)が取引急増の実態解明に着手したと報じている。
BBCは、トランプ大統領が米CBSのインタビューに応えた3月9日と、イラン戦争の先行きについてSNSに投稿した3月23日の取引に関して不自然な点があると指摘している。
「3月9日にトランプ大統領は、『(イラン)戦争はほとんど完了している』とインタビューに答え、戦闘終結を示唆しました。これが投稿される47分前に、原油安を見込んだ投機が大幅に増えています。
3月23日は、トランプ氏がSNSで対イラン攻撃の延期を示唆する発表の約15分前に、原油安を見込んだ約6200件で合計約920億円もの先物取引がおこなわれました。
BBCの指摘どおり、これらは下落を知っていたかのような取引です」(国際部記者)
原油以外にも不自然な取引が取り沙汰されている。
「4月9日に、トランプ大統領が世界的に関税措置を一時停止することを発表し、株式市場が大幅に上昇しました。その直前に、株価上昇を見込んだ異常な量の取引がおこなわれていました。
ここまでくると、トランプ大統領の決定を事前に知って取引していたとしか思えません」(同前)
上智大学教授で現代アメリカ政治などに詳しい前嶋和弘氏は、トランプ大統領の重大発言直前のこの “取引” を、「トランプ政権とビジネス界の癒着の証しだ」と断言する。
「政府関係者からビジネス界への情報漏洩は、もはや構造的であるとすらいえます。じつは、トランプ政権とビジネス界との癒着の象徴のクラブがあるのです。
昨年、トランプ氏の長男であるドナルド・トランプ・ジュニア氏と投資家チームが中心となり、ワシントンに『エグゼクティブ・ブランチ』という社交クラブを作りました。
これは超富裕層向けの集まりで、最上級会員ともなれば、入会金と年会費で50万ドル(約8000万円)もかかります。
最初のメンバーになったのは、世界的決済サービス『PayPal』の創業メンバーのデービッド・サックス氏です。彼はトランプ政権で、暗号資産やAIの責任者を担っていました。
さらには、マルコ・ルビオ国務長官ら政府高官がゲストとして呼ばれています。超富裕層と政権の人間をつなぐ場として機能しているようです。ここでイラン情勢のような情報が、ジュニア氏から超富裕層に漏洩しているのでは、とみられています」
■仮想通貨賭博の莫大な利益がトランプに?
ジュニア氏には原油先物取引以外にも疑惑が浮上している。昨年8月にジュニア氏がアドバイザーに就任した、予測プラットフォーム・ポリマーケットでのインサイダー取引疑惑だ。
ポリマーケットとは仮想通貨で取引する、アメリカでは合法のいわゆる賭博サイトだ。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。
「ポリマーケットでは、ありとあらゆる物事が賭けの対象になっていますが、政治的な判断も俎上に載ります。
たとえば、5月14日から始まった米中首脳会談で、『トランプ大統領が何を話すか』というテーマが賭けの対象になったりしています。当然、政府関係者は賭けの『正解』を事前に知っているので、莫大な利益を得ることができるわけです。
仮想通貨の分野は規制がまだまだゆるく、さらに取り締まりをおこなう側がトランプ氏自身のため、彼が個人的に私腹を肥やしているのではないか、と疑われても仕方がない状態です」
実際に、1月3日に起きたベネズエラのマドゥロ前大統領拘束事件に関する “賭け” で不正がおこなわれていた。
「この件では、拘束作戦に関わった兵士が機密情報を不正利用したことで逮捕されています。実に6000万円以上もの利益を、この賭けで手に入れたといいます。
また、昨年12月にポリマーケットに開設されたあるアカウントが、1月2日までに『1月末までにマドゥロ大統領が退任する』という予測に3万2500ドル(約500万円)をベットし、43万6000ドル(約6900万円)を獲得。その直後にユーザー名を変更し、取引をやめています」(同前)
さらに山田氏は、イラン戦争がトランプ大統領周辺の “利益” になっている可能性を示唆した。2月28日未明にトランプ大統領が攻撃を発表する直前に、ポリマーケットの6つのアカウントが「2月28日までにアメリカがイランを攻撃する」と賭け、合計で2億円近くもの利益を手にしたという。
「トランプ氏のひと言で状況が変わってしまったり、戦争が始まってしまったりしますから、事前に発言内容を知っていれば何に賭けたらいいかは一目瞭然です」(同前)
■インサイダー疑惑の解明は非常に困難
トランプ大統領の言動を利用した “インサイダー疑惑” の真相が明らかになることはあるのかーー。
米4州の弁護士資格を持ち、アメリカで活躍する国際弁護士・吉田大氏は、疑惑の立件の可能性をこうみている。
「結論から言うと、立件は非常に難しいと思います。
個別株の取引で、その企業のいい情報を握っていて、『株価が上がる!』と投資して利益を得たというのであれば、立証は比較的簡単かもしれません。
今回の疑惑は、石油市場など先物取引のものです。価格の動きには需要と供給のバランスなど複雑な背景が関わり、ビジネスの世界でいう “ノイズが大きい” 状態です。
いくらトランプ氏の発言内容を事前に知っていたとしても、それがインサイダー取引だと断定できるかは疑問です。アメリカのインサイダー取引規制の対象が石油のような巨大市場にまで拡大したのは、2010年ごろのことです。しかし、その当時から実効性のある規制であるかは、議論が続けられてきています」
ここで当局が注視するのが、取引者が取引材料に使ったのが「重要未公開情報(MNPI)」かどうか、だという。
「MNPIとは、特定の企業などしか知りえない機密情報のことです。今回のケースでは、トランプ氏の発言内容や今後予定している決定事項がそれにあたります。
ですが、トランプ氏から『明日、戦争を終わりにするよ』と聞いて取引する場合、それが『石油価格の下落』の判断材料といえるかどうかは怪しいと思います。
トランプ氏の言うとおりにならないかもしれないし、なったとしても石油の価格が下がらない可能性だってあります。そのため、これがインサイダー取引だと証明するのは難しい」(同前)
インサイダー疑惑の今後はどうなるのか。トランプ大統領と対立する民主党からも批判の声があがっているが、前出の前嶋氏はこう分析する。
「今後、議会による弾劾が焦点になります。今秋の中間選挙では、下院議員の全体と上院議員の3分の1が選挙対象となりますが、民主党が下院で多数派になる可能性が高いとみられています。こうなれば、大統領の弾劾裁判を始められます。
しかし、上院では3分の2の議員が賛成しないと弾劾が成立しません。次の選挙で民主党が上院でそこまでの議席を伸ばすことは不可能です。トランプ大統領が『逃げ切る』ことになるでしょう」
もし弾劾訴追されれば、これで3度め。今回も逃げ切り濃厚だ。
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