半導体分野が好調な東京エレクトロン。2025年にはインドのモディ首相と石破茂首相(当時)が視察/2024年に新規事業「ディズニークルーズ」を発表したオリエンタルランド
「業績にともなう給与変動が、明確に表われた10年間でした」
調査結果に目を通した、東京商工リサーチ情報本部情報部の坂田芳博氏はこう語った。
デフレ脱却に向けた2016年1月のマイナス金利つき量的・質的金融緩和から、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻を経て物価高騰へと至るこの10年間に、日本を代表する企業社員たちの年収はいかなる推移を辿ったのか――。
今回、本誌は同社協力のもと、国内の上場企業から従業員数100名以上の事業会社を抽出。決算資料をもとに比較可能な2140社の2015年と2025年の平均給与を、増減率で上位50社と下位50社にランクづけした。
まずは、全体の結果から見ていこう。坂田氏が続ける。
「給与が減少した236社に対し、増加した企業は1904社と圧倒的です。全体の平均給与も594万9000円から663万2000円へと底上げされました。
平均給与が上昇した企業が大幅に増えた背景には、政府主導の賃上げ要請が大きく作用しています。近年の物価高騰に対応し、賃上げを推し進める企業が増えたことも要因のひとつです」
■成果連動型で業績がダイレクトに還元
個別企業に目を向けると、特に給料上昇が目立つのは半導体関連セクターだ。ここ10年で平均給与が倍増し首位に輝いたディスコ(853万円増)や、5位のローツェ(457万円増)、11位の東京エレクトロン(546万円増)は、いずれも半導体の製造装置で世界的なシェアを誇る。
経営評論家の坂口孝則氏が解説する。
「スマホ生産は頭打ちですが、生成AI向け半導体の需要が空前の高まりを見せています。海外エンジニアの獲得競争も激化し、給与をグローバル水準に合わせることで、国内エンジニアの給料も上がっています。特に、海外の大手企業を顧客に持ち、円安の恩恵を受けられる企業は、軒並み上位に入っています」
2位のGMOペイメントゲートウェイ(513万円増)は、クレジットカードや二次元コードなど、ネットや実店舗の買い物に欠かせない決済代行で業界シェア1位の会社だ。
「金融インフラは導入後に顧客が乗り換えにくく、早期参入した企業は強い」(同前)
不動産や建設、設備関連の給与も伸びている。金額で2295万円と最高額を記録したのがヒューリック(6位・1000万円増)だ。
「首都圏の再開発需要など、不動産業界全体の好調が給与に反映されています。成果連動型の給与体系により、業績がダイレクトに還元される構造です」(坂田氏)
近年、生成AIの普及によるデータセンターの建設ラッシュなどにともない、設備工事業界も活況だ。東京電力の関連会社である関電工(20位・333万円増)や、エアコンなどの空調や水まわり設備の工事大手の三機工業(23位・386万円増)などがランクイン。
「大規模な設備工事をおこなう企業は、どこも現場管理者や職人の人手不足に直面しています。さらに、残業規制も重なって、人材確保のためベース給を引き上げざるを得ない状況です」(坂口氏)
3位のアクシーズ(228万円増)と18位の秋川牧園(190万円増)は、いずれも鶏肉を扱う会社。健康や節約志向から、安価で高タンパクな鶏肉需要が拡大した。好業績が給料アップに直結したことが、決算資料から読み取れる。
総合商社の三菱商事(40位、657万円増)も堅調だ。
「ここ数年、資源高と円安の追い風を受けて増収増益が続く総合商社各社では、以前は主に株主還元に充てていた利益の一部を、優秀な若手を引き留めるための給与の引き上げに使っており、これが平均額を押し上げています」(同前)
■事業構造の変化が平均給与に直結
続いては、給料が下がった企業の結果について。坂田氏は、「けっして経営状態が悪い企業ばかりではない」と言う。
「たとえば、若い世代の新規採用を積極的におこなった影響で、全体の平均給与が下がっている場合もあるからです」(同前)
その筆頭がワースト編3位のオリエンタルランド(191万円減)だ。従業員数は2015年の2229人から、2025年には6068人へと4000人近く急増。平均年齢も44.1歳から40.1歳へと若返った。
「オリエンタルランドは、おそらく若い正社員数が急増しているのでしょう。こちらに限らず、外食やレジャー産業はパート比率が高く、従業員数に含めると、数字が低く算出される傾向にあることに注意が必要です」(坂口氏)
ワースト編1位のアイフリークモバイル(122万円減)は、2015年に13人だった従業員が2025年には459人に激増。子供向け学習アプリなどのコンテンツ事業から、ITエンジニアの企業派遣業にも事業を広げたことが背景にある。
「業態転換にともない、未経験エンジニアなどを大量採用したため、会社全体の平均給与が下がったようです。事業構造の変化が平均給与に直結した典型例です」(坂田氏)
12位のテクノホライゾン(117万円減)や、13位のナイス(141万円減)は、純粋持ち株会社から事業会社へ体制を移行した企業だ。
「持ち株会社時代は給与水準の高い経営層などのみで計算されていましたが、事業会社化によって現場の一般社員が含まれるようになり、平均給与が激減して見える特殊なケースです」(同前)
また、20位のルネサスエレクトロニクス(118万円減)のように、「業績低迷によるリストラを経て若年層を多く採用し、給与が低めの企業とM&Aをおこなった“新陳代謝”の影響が色濃く出ている企業も見られる」(坂口氏)という。
一方、純粋に事業環境が悪化し、苦戦を強いられている企業や業界も存在する。
「原材料費や物流費の上昇ぶんを価格転嫁できず、低業績に陥っている企業です。これらは、国内が主要市場であることも共通しています。たとえば、日東ベスト(35位、57万円減)、エバラ食品工業(37位、82万円減)などの食品メーカーや、アパレル業界が該当します」(同前)
アパレル産業のなかでは、8位の三陽商会(136万円減)や11位のタカキュー(89万円減)が給与減に。リモートワークやオフィスカジュアルの定着で、紳士服や百貨店向け高級衣料の需要が減ったうえ、仕入れコストの高騰などが収益を圧迫した。三陽商会は組織改革で2023年に業績がV字回復したが、平均給与を押し上げるまでには至らなかった。
金利上昇局面で、今後の懸念材料として坂口氏が挙げるのが住宅・建材関連産業だ。建材大手のLIXIL(235万円減)がワースト編2位になったのは、2020年に持ち株会社から事業会社化した影響で、従業員数が97人から1万4930人へと激増した影響が大きい。しかし、実態としての厳しさも存在するという。
「個人向け住宅は木材など輸入建築資材の深刻な価格高騰による物件価格の上昇や、金利高への警戒感から、需要が振るいません。そのため設備・建材関連の業績が悪化しており、これからが踏ん張りどころです」
給料事情には、それぞれの企業戦略の結果が如実に表われた。
写真・共同通信
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