4月1日、一斉取り締まりで傘差し運転に対して警告書を交付する岡山県警の警察官
今年4月1日から自転車の反則金制度がスタートした。5月14日に警察庁が発表した、4月の自転車青切符の違反は、2147件。より悪質な違反に対する交通切符(赤切符)を含めた検挙数は計2980件と前年同月(赤切符のみ)の約6割で、警察側の慎重な運用がうかがえた。
だが、同時に「自転車の反則金詐欺」の報道が相次いだ。
「三叉路を右折時に手信号をしなかったのは違反だ」と言われた高校生が反則金名目で6000円を騙し取られ、43歳男性は「信号無視の違反で罰金1万5000円ね」と騙された。両事例ともに実在する手口である。ちなみに現在、自転車の反則金の最高額は携帯電話使用(ながらスマホ)の1万2000円だ。そもそも軽微な交通違反で違反者が払える「反則金」と、裁判で有罪判決を科された際の刑事罰で前科となる「罰金」は意味がまったく違う。どちらも現場で現金を徴収することはあり得ない。
相次ぐ詐欺報道は、自転車に乗る人たちがいかに無知か、わかりやすく浮き彫りにしたといえる。そして、このような無知につけ込むのは、詐欺師だけではなく、デマもある。
ここからは、自転車の反則金にまつわるデマをいくつかチェックしてみよう。
交通違反の取り締まりのとき、警察官は違反者に対し、違反切符にサイン(署名・押印)を求める。サインするかどうかは、本人の自由だ。それは、逮捕の理由になどなり得ない。では、なぜ「サインを拒否すると逮捕される」というデマが生まれるのか――。
違反切符のサインの欄は、「交通事件原票」の「供述書(甲)」の部分にある。そこに、小さくこう印刷されている。《私が上記違反をしたことは相異ありません。事情は次のとおりであります》
ここにサインすることは、自白調書を承認したことを意味する。いったんサインをすれば、たとえ無実でも「あんたは現場では認めていたじゃないか」となる。そのため、サインを取れない警察官は「たかが違反者ごときに逆らわれて引っ込んだのか、無能者め!」などと上司から叱責されることがあるという。ゆえに、「サインしないなら署へ来てもらう」と言ったり、逮捕を匂わせる警察官がいるようだ。「サインを拒否したら逮捕」というデマはこの辺から生まれ、広まっているのだろう。
さすがに警察庁も問題視したか、2024年に《仮にも押印等が違反者の法的義務であるという誤解を相手方に与えるような言動をしないよう》という内容で「交通反則切符における供述書作成上の留意事項について」という通達を発出している。
次は、「反則金の行政処分」というデマだ。びっくりする方が多いかもしれないが、反則金の納付は任意だ。サインする・しないと同様に、反則金も払う・払わないは本人の自由だ。行政処分ではまったくない。払わなければ、刑事手続き(後述)へ進み、警察官以外の判断を仰ぐことになる。
ところが、このデマも広く浸透している。報道でも「反則金の処分」と表現されたりする。地方裁判所の民事の開廷表に「反則金納付処分取消請求」といった事件名がたまにある。取り消すもなにも処分自体が存在しないので、却下(門前払い)されるのだろう。
ウインカーランプのない自転車は、右左折する際にいわゆる手信号で合図することを義務付けられている(道路交通法第53条)。違反した場合の罰則は、5万円以下の罰金(同第120条)。これも4月から反則金の対象になった。金額は、5000円だ。これを払わなければ「数万円(5万円以下)の罰金」になるというのもデマだ。交通違反は本来、「警察官が取り締まったらオシマイ」ではない。違反は事実か、事実として本当に処罰が必要か、必要としてどれぐらいの刑罰が適当か、検察官と裁判官がチェックする。刑事手続きという。
しかし、交通違反は膨大だ。軽微な交通違反までいちいちチェックしては、違反者も、検察官、裁判官も負担が大きい。そこで1968年に「違反を認め、その違反の一般的な罰金額より少し軽いペナルティを払った者は、刑事手続きから外そう」となった、それが反則金制度なのである。
これを払わずに刑事手続きへ進んで有罪となれば罰金刑を宣告される。金額はあくまで裁判官が決めるが、通常は反則金と同額だ。勝手に変えては反則金額の正当性が揺らぐ。この反則金を払わないと「数万円(5万円以下)の罰金」になるというデマがある。可能性としてはあり得るが、現実にはちょっとあり得ない。そこは、そもそも反則金とは何かに関係する。また、メディア報道もネット記事も「交通違反の反則金を払わないと、裁判で罰金になり前科だ。やばい」とすべてその調子だ。じつはこれも一種のデマである。法務省によれば、刑事手続きの扱いとなった交通違反の、2024年の既済人員はこうだ。
・正式の起訴 7274人
・略式の起訴8万4348人
・不起訴 11万480人
不起訴のうち10万3300人は起訴猶予、つまり「違反は事実のようだが処罰するまでもない」というケースだ。正式な起訴をされて法廷へ出てくるのは、ほぼ飲酒、無免許運転、大幅な速度超過だ。一方、前述のとおり数千円の反則金の事件は、裁判で有罪になれば同額の罰金を科される。2024年に交通違反で1万円未満の罰金に処されたのは、地方裁判所で1人、簡易裁判所で2人だ。このように交通違反で裁判になり、罰金を払い前科になるのはレアケースだ。利用者の無知につけ込み、この例外を示して不安を抱かせ、反則金を払わせようとするのは、取り締まる側から見れば合理的なデマといえる。
とはいえ、「ゴネれば不起訴でチャラ」という態度があからさまな人は、さくっと起訴され全国報道で見せしめにされる可能性が高い。取り締まりに関係なく、安全でマナーのよい運転を。
文・今井亮一(交通ジャーナリスト)
写真・山陽新聞、共同通信
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