
高市早苗
「私も生身の人間ですから、いろいろと思うところはもちろんあります。なかったらおかしいと、私は思います」
8月27日、秋篠宮ご夫妻は9日間のパラグアイ公式訪問を終え、天皇皇后両陛下へのあいさつのため、皇居・御所を訪問された。パラグアイ訪問に先立つ13日には、赤坂東邸で記者会見に臨まれている。その際の冒頭のような“踏み込んだ”発言が、いまも波紋を呼んでいるのだ。これらの発言をどう読み解いたらいいのか。皇室研究家の高森明勅(あきのり)氏に“翻訳”してもらった——。
この会見では、先の国会で成立した、改正皇室典範についての受け止めを問う質問も飛び出した。秋篠宮さまは
「皇室典範等の一部を改正する法律が成立したことは、承知しております。国会において議論がなされたうえで成立したものと受け止めております。この間、報道等でもいろいろその、皇室典範についてのことが掲載されていて、私自身もいろいろと考えるところはありましたし、先般、天皇陛下が話されたことをもっともだと、そのとおりだと私は思っています。ただ、ここでそのことについて何かお話しするというのは、制度に関わることでありますので控えたいと思います」
と語った。高森氏が解説する。
「『先般、天皇陛下が話されたこと』とは、6月の会見で天皇陛下が『皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民のみなさんの理解が得られるものとなることを望んでおります』と述べられたことを指しています。
普通なら、皇室の方々は政治的発言を控えておられますが、今回の皇室典範改正の内容や手続きがあまりにひどすぎたため、まず天皇陛下が『国民の理解が得られないものになりそうだ』と、ご危惧やご懸念を示されたのです。そして秋篠宮殿下は、改正が決まった後のタイミングで、『天皇陛下のおっしゃるとおり、国民の理解が大切だ』と、同じことをおっしゃいました。改正が国民の理解が得られる内容だったら、あえてこのような発言をされる必要はありませんから、これは、事実上の“ダメ出し”に近い厳しい評価をされたのだと受け止められます」
さらに、秋篠宮さまは「皇室の方々の御意向の表明や、皇室の方々が置かれている立場について」問われた際、「生身の人間」という言葉を使われた。具体的にはこうだ。
「2年ぐらい前でしょうか。娘たちの話だったでしょうか。女性皇族の話だったのかな。それぞれ、生身の人間っていうお話をしました。私も生身の人間なんですよね。ですから、いろいろと思うところは、もちろんあります。なかったらおかしいと、私は思いますけども。ただ、それをどうやって発信することができるか、それから伝えていくことができるか、さらにそれが法律ともし関わってきた場合、どうするか、その辺の関係というのは非常に難しいと思います。そういうことから、私としては、なかなかそのことについてですね、お話しすることができないというのが現状です」
高森氏はどう見るのか。
「秋篠宮殿下は『生身の人間』という言葉に、2024年の誕生日の記者会見でも触れられています。そこでは『皇族ひとりひとりがどういうことを考えているかを知ったうえで制度の変更を進める必要がある』という主旨の話をされています。今回、殿下は『思うところはもちろんあります』『なかったらおかしいと、私は思います』と強い言葉を使われましたが、明らかに違和感や不信が感じられます。『法律と関わってきた場合、発信するのが非常に難しいのが現状』とおっしゃったのは、“法律”つまり皇室典範などついて、言いたいことが言えない苦しさを伝えようとされていると思います」
そもそも、今回の皇室典範改正は、当事者である皇室も宮内庁も“蚊帳の外”に置かれていたというのが問題だという。
「6月30日の共同通信の報道で、皇室典範改正案の閣議決定の段階で、宮内庁の側近から『寝耳に水だ』という困惑の声が出たと報じられました。側近が知らなかったということは、政府から天皇陛下や秋篠宮殿下に事前にいっさいの説明がなかったことを示しています。本来であれば、皇室の方々のお気持ちを汲みつつ、宮内庁を中心に宮内庁を中心に、官邸の皇室典範改正準備室や内閣法制局が連携してまとめるべき案件なのに、官邸が独走しました。そうした背景があり、自分たちのことを『生身の人間だと思っていないのではないか』という苛立ちが、秋篠宮殿下にはあったということでしょう」(高森氏)
会見では「皇室の制度設計に当事者の意向を反映する余地はまだあると感じておられるのか、もう限界なのか」という趣意の質問があり、秋篠宮さまはこうお答えになっている。
「世の中って進歩していくことが大事ですから、つねにどうあったらいいのかということを、いろいろな人が考えていくことは大事じゃないかなと思います」
ここでいう「いろいろな人」とは、実質的に政府や国会を指していると考えられる、と高森氏は指摘する。
「これは、皇室制度の改正に、当事者の意向が反映される道を模索するべきだという、極めて具体的な注文であり、『あきらめていない』という意思表明です。
また、『皇族の役割に女性と男性の区別はない』という持論を繰り返されたことも、大きなポイントです。今回の改正の制度設計は、旧11宮家の男性であれば元民間人でも、本人や家族は皆皇族となり、生まれた子が男子なら皇位継承資格まで得られるのに対し、女性なら皇室で生まれ育った内親王や女王でも、配偶者も子も国民となる、著しくいびつな内容です。これに対する違和感、拒絶感を示されたといえます」
そして「皇室典範改正の議論で、男系男子が強調されてきたがもっとも大事なことは何だとお考えになっているか」という質問に対して、秋篠宮さまはこう答えた。
「やっぱり大事なこと、いろいろあると思うんですけども、ひとつ挙げるとすれば、人々の暮らしや社会の状況に目を向けて、人々の幸せを願い、また、その気持ちに寄り添っていく、そういうことではないかと私は思います」
これについて、高森氏はこう解釈している。
「『人々の暮らしや社会の状況に目を向けて……』というお答えは、2005年に小泉内閣の報告書が出た際、当時の天皇陛下(現・上皇陛下)が女性天皇・女系天皇を認めたら皇室の伝統の一大転換になる、という記者からのネガティブな質問を否定する文脈で『国民と苦楽をともにすることが皇室の伝統』だとおっしゃったことと、まったく同じ意味合いの回答です。大切なのは、男系男子という側室制度を前提とした無理なルールではなく、国民に寄り添う精神であり、それを確実に将来に受け継いでいくことなのだ、というお考えが読み取れます。そのために最も望ましいのは『親から子』への直系による皇位継承です」
すでに皇室典範では「直系長子」を最優先する原則が採用されているので、男系男子限定が撤廃されれば、次代は天皇陛下の長子である「愛子天皇」となる。
「小泉内閣の報告書(女性・女系天皇を認める案)が出た際、いまの天皇陛下が『これで進めてほしい』とおっしゃり、秋篠宮殿下も賛同されたという経緯が伝わっています。秋篠宮殿下は、平成の終わりに天皇陛下、上皇陛下と三者会談も重ねておられました。
殿下ご自身の行動を見ても、令和になる際に『皇太子』に類似した称号を辞退して『皇嗣』に留まり、『秋篠宮』という傍系を示す宮号を保持し続けておられます。また、悠仁殿下がお生まれになって以降、即位を前提とした質問にはいっさいお答えになっていません。これらは、直系で継承されるべきだというお考えのあらわれです」
そして「愛子天皇」は天皇陛下ご自身の希望でもあり、皇室全体の意思でもあるというのだ。
「天皇陛下ご自身も、敬宮殿下(愛子さま)とご一緒に様々なご活動に臨まれ、『令和流』としてご自身の姿から学ばせようとされています。帝王学の実践であり、国民にも『自分の後継者は愛子(内親王殿下)』という姿勢を、黙々と行動で示されているわけです。
ほかの皇族方を見ても、常陸宮殿下は『ゆくゆくは愛子(内親王殿下)に天皇になってほしい』とおっしゃっている兄宮の上皇陛下と同じお考えとされ、信子妃殿下も歌会始で、敬宮殿下への深い敬意と愛情を込めた和歌を詠まれています。高円宮家の久子妃殿下も、国際社交クラブでの講演で『女性天皇の可能性』に肯定的な発言をされています。三笠宮家の彬子女王殿下のお考えは分かりませんが、それ以外の各宮家当主は、敬宮殿下の即位を望んでおられると拝察できます」(高森氏)
はたして、首相はどこまで真意を汲み取れているのだろうか——。
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