
現職の玉城デニー知事(写真・共同通信)
「東京のメディアや政界では、『リベラル野党への逆風』や『衆院選での野党全敗』などの流れを受けて、『現職の玉城デニー氏がピンチで、自民側の古謝玄太氏が勝利する』というストーリーが語られがちです。
しかし、現地沖縄の情勢や調査を見ると違います。玉城氏は元ラジオパーソナリティで、もともと人気が高く、特に女性層の支持が厚い。さらに現職の強みもあるため、意外にも玉城氏がよい数字を維持しています」
沖縄県知事選挙の現状についてこう語るのは、ジャーナリストの鮫島浩氏だ。
9月13日に投開票日を迎える沖縄県知事選。現職の玉城デニー氏を含め、総勢過去最多となる6人が立候補しているが、いわゆる “オール沖縄” に支えられる玉城氏と、自民党・日本維新の会・国民民主党・参政党・公明党県本部などから支持を受けた古謝玄太氏の一騎打ちになりつつある。
鮫島氏が、こう解説する。
「直前まで出馬表明していた保守系の下地幹郎氏を直前で断念・降板させたことで、自民側に『一本化して勢いがついた、追い上げムードだ』という雰囲気をもたらしました。先行する現職に対し、告示に向けて徐々に追い上げる展開を演出するのは選挙の定石であり、自民党は非常に上手に古謝氏支持の底上げを図っているといえそうです」
鮫島氏が語るとおり、元衆議院議員の下地幹郎氏の撤退は選挙戦の構図を大きく変えた。ノンフィクションライターの石戸諭氏は、各種データや世論調査を分析したうえで、元総務官僚である古謝氏の現在の立ち位置をこう指摘する。
「出回っている各種データや世論調査、地元紙の報道を見ても、情勢は『横一線』というのがきわめて適切です。下地氏が持っていた3万から4万程度の票の多くは古謝さん陣営への追い風として流れています。それまでは現職の玉城さんが圧倒的優勢で、古謝さんが不利な状況でしたが、下地氏の撤退によって古謝さんがようやく横一線まで追いついたというのが正確な見方でしょう」
知事選の情勢が拮抗している背景には、かつて玉城知事を支えていた「オール沖縄」の勢力図の変化がある。石戸氏は、現在の組織の実態を次のように解説する。
「本来の『オール沖縄』は、前知事・翁長雄志さんという保守の大物、革新陣営、そして『金秀グループ』など地元財界の一部、この3つが揃って初めて成立していました。翁長さん亡き後、革新勢力が主導権を握って強くなりすぎたため、一緒にやれないと判断した財界や保守が離脱しました。かつて玉城氏を支えていた金秀グループも、今回は古謝氏支援に回っており、実態としてオール沖縄はすでに崩壊しているんです」
さらに今回の知事選では、これまで沖縄最大の争点とされてきた米軍普天間飛行場の「辺野古」移設問題が争点化していない。その理由について石戸氏はこう続ける。
「県側が取れる法的な対抗手段がすでに尽きており、国が粛々と工事を進める流れが決まってしまっているため、もはや『論点』として成立しないんです。反対運動自体が感情論や気持ちの問題になっています。デニー陣営も7つの重点政策から『辺野古』の文字を外しています。下手に触れれば、辺野古の工事現場で起きた転覆事故などに言及せざるをえなくなり、不利になるためです」
一方、古謝氏側にとっても「辺野古」は禁句だという。
「保守側も、自民党支持層を含め、県民の多くが移設反対であるため、あえて賛成を積極的に主張するインセンティブが働きません。
今回の知事選の最大の争点は、物価高や不況感、県民所得の問題、あるいは南北の交通渋滞解消といった暮らしに直結する課題です。沖縄経済を支える観光は好調ですが、受け入れ上限が決まっており、限界のある産業です。ほかの産業をどう育て、所得を上げていくかが問われています」(石戸氏)
沖縄県政の行方は、国政にも多大な影響を及ぼす。政府が今回の知事選に力を入れる背景はなんなのか。
「高市政権にとって、安全保障の観点から沖縄で政権交代を起こすことはきわめて重要ですから、総力をあげて臨んでいます。高市政権が進める熊本のTSMCや、北海道のラピダスのような産業誘致を沖縄に持ってくるにあたり、県知事が保守系のほうが連携しやすいため、産業政策の面でも重視されているのです」(石戸氏)
前出の鮫島氏も、高市首相にとって沖縄県知事選が非常に重要だと指摘する。
「最終的な勝敗を握るのは、那覇市などを中心とする無党派層の動向と『高市人気』です。自民が逆転勝利した場合、高市人気の健在が証明され、自民全勝の勢いが継続しているとして、大きな意味をもつことになります。
逆に現職が逃げ切った場合、政権運営に打撃となります。高市首相が内閣改造などの時期を9月中旬に設定したのも、万が一敗北した場合、『新体制発足直後に敗北』というダメージを避けるためのリスク管理です」
沖縄県内の政治構造にとっても、今回の選挙は歴史的なターニングポイントになる。
「デニーさんが敗北した場合、沖縄の革新勢力は崩壊に向かいます。これまで沖縄は、全国的にも珍しく『保守対革新』の2大勢力が競り合い、双方で政権交代を起こすという独自の政治文化を持っていました。しかし、デニーさんが敗北すればそれが終わり、沖縄はいよいよ『普通の県』になっていくと考えられますね。
一方、デニーさんが勝ったとしても、すでに公明党が古謝さん支持にまわってしまったため、事実上の少数与党となり、今後の県政運営は非常に厳しいものになります」(石戸氏)
勝っても負けても、玉城氏を支える革新勢力にとって、ピンチなのは間違いなさうだ。
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