アジア大会の開会式がおこなわれたパロマ瑞穂スタジアム
9月19日に開幕した「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」。連日、熱戦が繰り広げられている一方で問題になっているのが、大会運営上のトラブルの続発だ。
男子バスケットボール韓国代表が宿泊していたコンテナハウスでは、ベッドの狭さに選手から不満が噴出。また洗面台の下から水漏れが発生し、チームは市内のホテルへの移動を余儀なくされた。さらに同チームは、日本との決勝戦を前に、予定していた送迎バスが来ず、練習を中止せざるをえなかった。
18日の男子ホッケー韓国対バングラデシュ戦では、試合前に韓国ではなく北朝鮮の国歌が流れる事態となり、組織委員会が韓国側に謝罪している。
また、テックボールの会場では、韓国やタイの選手に対し鶏肉3切れと麺、ブロッコリー1切れが盛りつけられた皿しか提供されず、「量が少なく、栄養が取れない」などといった内容がSNSに投稿されていた。
トラブル続きのアジア大会を、元日本オリンピック委員会(JOC)参事で、長野五輪招致委員会の参事も務めた春日良一氏は、複雑な思いで見ている。春日氏はJOCの渉外担当参事として、アジア競技大会4大会にかかわってきた。
「たしかに今回の大会では、私が見聞きしているなかでも、これはどうかと思うことはあります。
たとえば、競技会場や本部にはVIP向けのラウンジが用意されています。そこにはサウジアラビアやカタールの王族、アジアオリンピック評議会(OCA)の幹部など、海外のVIPが来ますが、その場所に用意されているのが、バナナやミカン、あられなどのお菓子です。
名古屋市内から1時間半もかかる豊田市に会場がある、射撃の競技役員らに出された昼食は、コンビニ弁当のようなものでした。
輸送システムのトラブルも聞いています。選手や関係者を送迎する車の運転手は、半数以上が名古屋の大手タクシー会社から、プロのドライバーが採用されてやっているようですが、競技会場の入り口がわからないというケースが多く、名古屋から離れている会場には不案内な運転手もいるようで、混乱しています。
東京五輪2020でも採用された、デジタルの予約制システムが機能せず、スタッフが現場対応に追われています。もっとも、アジア大会も4年に1度の開催で、どの大会でも開幕当初はトラブルはつきものですが」(春日氏・以下同)
選手らの宿泊施設についての問題も深刻だ。急遽、用意したコンテナハウスや客船でのトラブルが相次いだからだ。
「オリンピックと同様、アジア大会にも選手村は絶対に必要でした。選手村は、単に各国の選手が宿泊する場というだけではなく、ダンスホールなどを作り、選手らが集うスペースを用意します。国を超えてみんながひとつになれる、象徴的な場所なのです。ところが、費用の問題もあったでしょうが、今回は選手村を作りませんでした」
今回のアジア大会は、オリンピックよりも多い43もの競技がおこなわれ、参加者は当初想定の1万5000人から1万7000人に膨れた。
「そもそもアジア大会は、セパタクローやカバディなど、オリンピックにはない競技種目がいくつもあります。アジア各国の伝統と文化を大切にする、という趣旨からです。今回のアジア大会のスローガンは『IMAGINE ONE ASIA ここで、ひとつに。』。わざわざ日本は手を上げて、32年ぶりに国内での開催にこぎつけたんです。大会には、紛争中のイランだって参加しています。
アジアがひとつになろう、という壮大なテーマの大会ですが、はたしてそうなっているのか疑問です。何で日本でやろうとしたのか。そこをいま一度、考えるべきでしょう」
大会は、TBSとU-NEXTが独占で、連日の熱戦を報じている。とはいえオリンピックのように「国を挙げての大会」にはなっていないようだ。
「こうした世界規模の大会は、国際オリンピック委員会(IOC)と、日本では大手広告代理店が一体になって担ってきました。そこには、これまで培ってきたノウハウがあります。
しかし今回、大手広告代理店は、東京五輪で生じた汚職事件の影響で、受注を辞退しました。大会運営のノウハウを継承できる組織作りが必要でしたが、これができていませんでした。その結果が、いろいろなトラブル発生の原因だと思います。地上波のテレビ放送だって、TBSだけではなく、かつてはアジアを支える使命感で放送してきたNHKにもやってほしかったです」
そして、春日氏は日本にとって、アジア大会はなくてはならないものだと強調する。
「インドのニューデリーで開かれた第1回大会(1951年)は、敗戦国となって孤立していた日本の参加が許され、スポーツの国際舞台へ復帰するきっかけとなりました。アジアの諸国と友好関係を結ぶこともできました。
大戦で多くの死者が出たフィリピンのマニラで開催された第2回大会のときも、反日感情はまだ強く、日本の選手は殺されるかもしれない、などといわれながら出場しました。日本選手団は勝利よりも友好を掲げ戦い、アジアの人々は受け入れてくれたのです。
日本にとってアジア大会は、アジア諸国との友好になくてはならない大会で、アジアへの感謝を忘れてはならない大事にすべき大会です。そのことをもう一度、想起してほしいです」
本誌は、公益財団法人愛知・名古屋アジア競技大会組織委員会に、こうした事例について見解を求めた。回答は以下のとおりだ。
・VIPラウンジの食事について
「ご質問のラウンジは、ファミリーラウンジのことであり、そこで提供されているのはリフレッシュメント(軽い飲食)であり、食事ではありません。提供にあたっては、イスラムの方向けに成分表示をして提供しています」
・射撃会場での昼食が簡素だったことについて
「審判(役員)の方々は、会場での弁当を注文するか、食事日当を受取るかの選択肢が用意されております。お弁当の場合は、他のステークホルダーと同等の弁当を手配しています」
・一部のタクシー運転手によって混乱が生じていることについて
「各競技会場のマップを用意しており、ドライバーそれぞれに配布されるように用意しました。事前の理解度については個人差もあるため、混乱しているドライバーは一部に限定されている認識です。マップコードなどを使用し、土地勘が無くても運行は可能と理解しています」
また、選手村を作らなかったことについては、以下のように見解を示した。
「選手間の交流については、拠点であり、選手団であればアクセス自由なVillas(ガーデンふ頭)に交流エリアを設けており、また、クルーズ船においても多くの国、多くの競技の選手団が交流していただいています。これまでのアジア大会には無い、バーチャル空間での交流体験や、One Asia Worldの取り組みなども実施しています。
確かに輸送のトラブルも発生しているが、競技毎の分宿になったことにより、一つの宿泊施設からの目的地が一つの競技会場に限定され、また、距離も近くなり、運用がシンプルになったという利点もあります。従来型の選手村をつくらない、持続可能な大規模スポーツ大会の実現にチャレンジしていることを応援していただきたいです」
大会は終盤。春日氏の思いは、伝わるだろうか。
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