
中朝鴨緑江大橋の前で写真撮影する中国の王滬寧氏と北朝鮮の金正恩総書記(写真・共同通信)
北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」は、金正恩総書記が10月24日に中国遼寧省丹東を日帰り訪問したと報じた。抗米援朝記念館を見学した金総書記は、「試練をともに乗り越えた歴史を永遠に記憶し、血潮で結ばれた不敗の朝中友好を永遠に継承していく」と強調したという。
「抗米援朝記念館は、日本ではなじみのない施設ですが、1950年代の朝鮮戦争で、中国人民義勇軍が北朝鮮側に立って参戦した歴史を伝える施設です。この施設は中国の習近平国家主席が規模を4倍の大きさまで改修した、いわば、肝いりの施設です。
25日は、中国人民義勇軍の朝鮮戦争参戦から76年にあたります。金氏を出迎えたのは、中国共産党の序列4位である王滬寧政治局常務委員や王毅外相ら。中朝両国が友軍として戦った歴史を、中朝の政府要人がそろって改めて内外に示したというわけです」(大手紙の外報部記者)
2025年9月、約6年半ぶりに中国を訪れた金総書記は習主席と会談し、2026年6月には習主席が約7年ぶりに北朝鮮を訪問するなど、両国は関係修復を進めてきた。しかし、今回は習主席との面会はなく、短時間の滞在で中国を後にした。
さらに、今回の訪中で注目されたのが、金総書記が帰路に初めて利用した「中朝新鴨緑江大橋」だ。中国の丹東と北朝鮮側の新義州を結ぶ同橋は、10月15日に正式開通したばかり。金総書記は「橋が両国をつなぎ、われわれの心もいっそうしっかりとつなぐ歴史的使命を果たす」と表明。たんなる交通インフラではなく、中朝友好の象徴として位置づけた。
この橋の建設は、2009年に中国の温家宝首相が訪朝した際に締結した「経済合作協定」に基づく。総事業費はおよそ310億円で、大部分は中国側の資金協力でまかなわれた。ところが、橋は完成したものの、長く利用されてこなかった。朝鮮半島情勢を分析する専門誌「コリア・レポート」編集長の辺真一氏が解説する。
「橋そのものは2014年に完成済みでした。ところが、中朝関係の変化もあり、北朝鮮側の接続道路や税関施設の建設が進まないまま、長期間、使用されてこなかったのです。
当時、中国との経済交流を進めていた金氏の叔父で、国防委員会副委員長でもあった張成沢氏が国家転覆などの罪に問われて処刑されたことも影響しました。張氏が関わっていた案件は、ほかの協力事業も含めて、その後、無期限延期となりました」
北朝鮮はロシアへの接近を強め、中朝関係にも距離が生じていた。ただ、徐々に関係改善が進み、北朝鮮側のインフラ整備が前進。今回の利用に結びついた。橋の本格稼働は、制裁などによって経済的な制約を抱える北朝鮮にとって、中国との貿易を拡大する足がかりとなる。
中朝関係の改善は、もちろん中国にもメリットがある。
「2026年4月、金氏は王毅外相との会談で、台湾問題について中国が主張する『ひとつの中国』を支持する発言をしています。これは北朝鮮の指導者としては初めてのことで、かなり踏み込んだ発言でした。6月の習国家主席との首脳会談でも、金氏は同様の発言をしています。
関係悪化で止まっていた経済事業も続々と再開されていて、おそらく中朝関係はこれまでにない高いレベルの友好関係が続いています」(辺氏)
台湾問題は、中国にとって譲れない核心的利益の一つだ。防衛省情報本部の元情報分析官で軍事評論家の西村金一氏は、中朝連携の軍事的な脅威についてこう警鐘を鳴らす。
「仮に台湾有事になれば、朝鮮半島でも有事になるのはほぼ確実です。中台海峡は200キロの海洋ですから、中国軍は海上から攻撃し、台湾軍は陸から迎撃することになり、圧倒的に台湾軍が有利です。これに米軍が台湾軍に加わるので、中国軍に勝ち目はありません。
ただ、朝鮮半島で北朝鮮軍が動けば、それが限定的な戦闘であっても米軍の戦力は一定、削がれることになります。もちろん、日米安保による同盟関係にある日本も無関係ではいられません」
今回の訪中は、長年止まっていた中朝の経済協力が再び動き出したことを象徴する出来事だが、一方で、日本には大きなリスクの始まりともなりかねないのだ。
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