社会・政治
無料の電子雑誌を創刊した男 創刊号に安倍首相を引っ張り出す
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.07.13 08:00 最終更新日:2018.07.13 08:48
紙から電子へ。5年前に始めた電子雑誌。技術革新に対応するため、試行錯誤の本作りが続く――。
2013年、佐藤尊徳さん(50)が大学卒業後22年間勤めた株式会社経済界を辞めたのは、45歳のときだった。雑誌「経済界」の発行などで有名な会社である。
秘書として長く仕えたのが、創業者であり「経済界」の主幹でもあった佐藤正忠氏(1928〜2013)。佐藤さんが退職したのは、経営者の人物像に鋭く迫ることで有名な佐藤氏が亡くなる2カ月前のことだ。
「仕える人は生涯、佐藤正忠さんだけと決めていたこともありましたが、当時の仕事は秘書から雑誌作りの現場を経て、常務取締役に就いた。でも僕は発信をしたいし、いろいろな人と会って意見を交わしていたかった。
主幹が元気なら支えるつもりでいましたが、そうではなかったし、さまざまなきっかけがあって、辞めようという感じになりました。
恥ずかしい話、電子雑誌を作ろうと思っていたわけではなく、とりあえず辞めて、小さな事務所でも構えるつもりでした」
そのとき誘ってきたのが、同い年の、ネクシィーズの近藤太香巳社長。電子雑誌の編集、刊行業務をしている系列会社のブランジスタで、政治経済の雑誌を作らないかという誘いだった。
「初めはブログでもいいと思っていたのに、大がかりになってしまった。以来、ブランジスタに編集させて『政経電論』という電子媒体の雑誌を発行しています。
いろいろなトライはしたが、5年たってターゲットは、30、40代に落ち着いた。対象はどちらかというと政治や経済に疎い人。読むのは無料で、いわばフリーペーパーです」
経済界の常務取締役という看板を降ろしても、人が離れていくことはなかった。そうそうたるメンバーが電子雑誌には登場する。
どのような形になるのかわからなかったにもかかわらず、佐藤さんの対談相手として創刊号の表紙を飾ったのは現職の安倍晋三総理。
「後に、何も出来ていないのによく出てくださいましたねと尋ねると、『尊徳さんのやることだから、怪しげな雑誌ではないと思ったので』と答えられた」
再び紙に戻ることはあるのだろうか。
「紙に戻ることはもうないですね。きつさもわかっていますし。紙媒体がこれから隆盛することは新聞を含めて難しい。電車の中で新聞を読んでいる人もそうはいません。
いい悪いは別にして、もうスマホが手放せない生活スタイルになっている。そこに入っていくというのは、商売として成功するというより、残っていくために必要なことだと思っています」
以前は本と同じ体裁で作り、2カ月に一回発行していたが、パソコンよりスマホで読む人が増えてきた。そうなると、今までのスタイルだと読みづらく、速報性もない。そこで2017年、定期刊行ではなく記事を週に2、3本更新する形にした。
「常に試行錯誤を繰り返しているので、これからも読んでもらうために必要なら、変えていきます」
45歳時とは別に、32歳でも大きな転機を迎えていた。
「『経済界』の中ががらりと変わりました。主幹の娘が社長になり、僕が取締役に上がって、主幹を除くと実質ナンバー3になった。いきなりお前は編集局長だと言われて『はあっ?』。そんなことはやったこともない。
でも主幹は言いだしたら聞かないので。年上の部下ばかりですから、それは大変。こっちは変わらず生意気だし。ずばずば言いましたよ。失敗もしました。若かったので……」
経済的に恵まれて育ったわけではなく、既得権のようなものを壊したいという思いを子供のころから持っていた。それはいまも変わらない。
「どんなに親しい政治家や経済人でも、おかしいことはおかしいと言い続けたい。たぶん権力が好きではなく、権力に物を言っていたいのだと思う。主幹が大物相手に喧嘩したように、自分よりでかい相手と喧嘩している。そういう自分が好きというか、自分に酔っている……」
趣味のひとつは競馬。好きな馬は地方競馬出身ながら中央で大活躍したオグリキャップ。エリート馬はあまり好きではないそうだ。
(週刊FLASH 2018年7月17日号)