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経済制裁どこ吹く風「北朝鮮ツアー」に中国人観光客が殺到中
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2018.07.29 06:00 最終更新日:2018.07.29 10:08
1950年に勃発し、1953年まで続いた朝鮮戦争。北朝鮮が引き起こしたものだが、韓国を支援する形で参戦したアメリカ軍と北朝鮮を支援する中国軍との間で激しい戦闘が繰り返された。
この7月27日、休戦協定の締結65周年を迎えた中朝国境地帯の激戦地を訪ねてみた。
まず驚いたことは、鴨緑江の川岸にある中国・丹東市で見かけた北朝鮮からの訪問者の数の多さである。男女とも皆が金日成バッチを付けているので、一目瞭然だ。
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しかも、中国から北朝鮮を訪問するツアー客の群れには、もっと驚かされた。数年前に、瀋陽から丹東に高速鉄道が開通したため、中国各地から大挙して、「朝鮮戦争をともに戦った同胞の国」「世界で最も若い最高指導者を擁する国」を目指す観光客が急増している。
筆者も、瀋陽から1時間半で丹東に到着。列車から降りると、駅員から「北朝鮮に行きませんか」と声をかけられた。見れば、いたるところに、北朝鮮の観光案内の巨大なポスターが飾ってあるではないか。日帰りコースから3日間、4日間、5日間コースと様々な種類のツアーが用意されている。
国連の経済制裁を受けている北朝鮮だが、「観光事業は制裁の対象外」なのである。中国はもとより、シンガポールやマレーシアといったアジア諸国はもちろん、遠くヨーロッパのイギリスやドイツからも観光客が押し寄せているようだ。
そこで、値段を聞いてみた。すると、「日帰りコースがおすすめですよ。お値段は700元(日本円で約1万円)。昼食もお土産代も込みです」との返事。日本でも有名な美女軍団らしき舞踊団のポスターは独特の雰囲気を醸し出していた。そこで、「どんなところを訪ねるのか」と確認。
曰く「まず列車で朝鮮戦争の激戦地だった鴨緑江を渡ります。そして北朝鮮の新義州市に行き、金日成主席の銅像に献花し、市内の革命記念館や民俗公園を見学。昼食後、平安北道の美術博物館や歴史博物館を訪ねます。その後、特別幼稚園を訪ね、子供たちから最高の歌と踊りのおもてなしを受け、記念撮影も。その他、サプライズもあります」とのこと。
「もし、平壌に行きたければ、3日間のツアーがおすすめ」と、なかなか商売熱心だ。「自分は一人旅の日本人だが、大丈夫か?」と尋ねてみた。
「それは残念。韓国人、アメリカ人、日本人は参加できません。中国人ならよかったのに」との返答。確かに、周りの中国人観光客たちは、列をなして申し込みの手続きをしていた。平壌に大使館のある国ならビザなしで簡単に行けるようだ。
あきらめて駅の外に向かうと「お客さん、北朝鮮からの招待状があれば、大丈夫。特別に準備してもいいけど、別料金がかかるけど、どう?」と追いかけてくるではないか。
要は、中国人の団体さんにこっそり加えてくれるというわけだ。さすが、蛇の道は蛇。
とはいえ、聞けば聞くほど、何やら怪しい雰囲気が漂ってきたので、「別の機会に」と応じて、取りあえずその場を後にすることに。
実は、チェックインしたホテルでも、まったく同様の勧誘を受けることになった。いずれにせよ、中国と北朝鮮の間では経済、人的交流が猛スピードで息を吹き返していることを確認できた次第である。
(写真・文/国際政治経済学者・浜田和幸)